第四戦 その②


 これではいけない。
 ルナの能力は物体に命中して、人間に命中してこそ初めて真価が発揮される。そうでなければ話にならない。それ以上に、ルナにはまだマリアの能力の全貌が明らかになっていなかった。
 突然銃弾が消失する。
 こんなの久しぶりだった。


 「――ッ!! コイツまさか!! あの絶望少女と同じか!?」
 『ルナ!! 大丈夫!?』
 「サン!! あいつの能力、見当がつかないか?」
 『ごめん……わかんない』
 「しょうがない!! 一気に決めるぞ!!」
 『分かった!!』
 「行くぜ!!」


 ルナはそういうと、一気に加速すると高度を落として地面に下りる。それを見てマリアも後を追うかどうか一瞬悩むが、結局空中に留まることにした。どんな攻撃を仕掛けられるか分からない。
 だったら自由自在に移動できる空中の方が有利だと判断したのだ。
 ルナは自分を見下すマリアの姿を見て、チッと舌打ちをする。てっきり追って来ると思っていたのだが、当てが外れた。


 「来ないなら来ないで、やりようはある!!」


 そう言って銃口を地面に向ける。
 そして、連続で指を動かすと銃弾を大量に吐き出す。その全ては地面にめり込んでいき、そのまま姿を消していく。マリアはルナの能力を知らないので、その行為が無駄にしか思えない。
 だが、クライシスは見ていた。


 「マリア」
 「何?」
 「あの銃弾たち、地面に消えて行っているけど」
 「………そんなこと……」
 「あり得るさ」
 「じゃあ、やばくない?」


 マリアは理解した。
 これでは銃弾がどこから来るか分からない。
 さすがに眼下に広がる広い地面、その全てを警戒することは難しい。マリアはどうするべきか悩む、だが、時間はあまり長くない。すぐにでも決断しなくてはならない。クライシスがアドバイスしようとしたその時
 マリアは決心した。
 頭を地面に向けると急降下していった。


 「なっ!!」
 「下手に止まっているより、先に仕掛ける!!」


 ルナはその姿を見て少し感心する。
 確かに間違った判断ではない。
 だが、少し遅い。


 「死ねぇ!!」


 ボッという軽い音と共に大量の銃弾が地面から飛び上がって来た。まるでマリアを囲むように、数十発もの銃弾が襲い掛かる。さすがに魔力の腕を限界まで伸ばしてもすべてを消し去ることはできない。
 マリアはチラッと地面を見る。
 いきなりでうまくできるか分からないが、やってみる価値はありそうだった。
 脳内で急いで座標を設定する。
 そして銃弾がギリギリのところまで来たとき、瞬間移動の能力を発動した。
 パッとマリアの姿が消え、さっきまでいた場所で銃弾同士がぶつかり合い、はじけ飛ぶ。


 ルナは再び突然目の前に現れたマリアを見て顔面を蒼白にする。


 「なっ――ッ!!」
 「っ!! 近すぎる!!」


 どうやら微妙に座標がずれていたらしい。
 ほとんど肉薄していると言って過言ではないような距離にまで近づいてしまう。
 だが、あまり問題はなかった。


 「死ねッ!!!」
 「クッ!!!」
 『ルナっ!!!』


 マリアはまるで突きでも繰り出すかのように左腕を突き出す。
 それと同時に、サンはルナの腹から生えるように出てくる。
 結果、マリアの攻撃はサンの胸元に命中した。



 「「え?」」



 ルナとマリアの声が重なる。
 それでもマリアは能力を止めることなく、サンの魔力を吸収していく。左腕から魔力が伝わってきて、マリアの体に流れ込んでくる。体温が一気に上がり、全身に力が満ち溢れる。翼の少女の物とはまた違う感覚
 魔法少女の、純粋な魔力を吸収した結果だ。
 人間一人が生きて死ぬ、その一生分に等しいエネルギーがなだれ込んでくる。
 翼の少女の物とはまた違う、何とも言えない感覚だった。


 「――ッ!!」


 マリアは腕を引くと、一度地面を蹴って距離を取った。
 それと同時にサンの目から光が失われると、全身の力が抜けて、顔面から地面へ向かってゆっくりと倒れ込む。鼻の頭が地面に当たると同時に、パンッという軽い音がして、サンの体が霧散する。
 ルナは、サンが消えるのをジッと見ていた。
 マリアも一緒に見ていた。
 だが、お互い考えているのは全く違った。ルナはどうしてこうなったのかうまく理解できず、困惑しており、マリアは少し絶望していた。だが、自分は悪くないという考えで無理矢理罪悪感から目を逸らす。
 まだ敵はいるのだ。
 逃げるわけにはいかない。
 気を取り直して戦闘態勢をとるマリア
 すると、ルナの顔が目に飛び込んできた。


 「あ」


 うっかり声が漏れる。
 目の前にいる少女の顔
 それは


 まるで何もないかのようだった。
 真顔を通り越して、白紙の紙をぺたりと張り付けたように何もない。目の光もすっかり失われてのっぺりとしている。全ての感情が消え去ったかのような顔。それに、言いようも知れぬ恐怖感を覚えるマリア
 それもつかの間だった。
 ルナは表情を一変させると、顔を思いっきり歪ませ、叫んだ。


 「てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!!!! よくもサンをぉ!!!!!!!!」
 「……――ッ!!!」


 気圧されるマリア
 額から嫌な汗が流れていく。
 ルナは銃口を向けると、流れる涙を振り払いながら引き金を引こうとした。
 マリアは、マリアはどうにも体が動かなかった。まるで金縛りにあったかのように、指一本、まばたきすらすることもできなかった。


 その時
 トッと軽い音がして、ルナの首元から七節棍が生える。


 「カハッ!!」
 「油断大敵」


 傷跡と口元から真っ赤な血が流れていく。
 いつの間にか後ろに回っていた朱鷺は七節棍を引き抜くと、そのまま一歩下がった。



 「……クッ……」


 ルナは何とか後ろを向いて、誰が来たのか確認しようと、後ろを振り向こうとする。
 だが、手遅れだった。
 朱鷺は高速で腕を振り、七節棍をもう一度まっすぐ突き出すと、今度はルナの心臓を的確に突き刺した。確実にとどめを刺す、朱鷺はどこまで行っても冷静だった。マリアは体の二か所に空いた穴から血を流すルナの姿を見て固まったままだった。
 自らの敗北を悟ったルナは最後にマリアのことをジッと睨み付けるとこう呟いた。


 「死ね」
 「…………」


 マリアは
 何も言うことができなかった。
 崩れ落ちたルナの死体を横目に朱鷺はマリアに冷たい視線を向け、こう言った。


 「お前もこうなりたいか?」
 「――ッ!!」
 「いやなら、死ね」
 「…………」
 「もしくは、戦え」


 そう言って朱鷺は再び戦場に舞い戻っていった。
 マリアは
 目の前の死体に自分の姿を重ねながらつぶやいた。


 「……私は……私はッ!!」


 顔を上げる。
 まだ敵はいる


 「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


 自らにこびりついた血を吹き払うがごとく、マリアは飛び出していった。


 ユウキは何となくマリアのことが気にかかった。
 決して、死んだのかもとか、負けたかもという心配ではない。何となく吹っ切れたように見えた彼女でも、まだ内心では悩み続けている。それはちょっとしたきっかけで崩れ落ちてしまうものだ。
 仮にマリアがそうなってしまったら
 それが心配だったのだ。
 マリアがどこにいるのかは把握できている。
 ユウキは隙を見つけ、チラリと顔を向ける。

 すると、驚いた。

 マリアの姿は変貌していた。

 顔の左半分に紫色の筋が走り、黒ずんでいる。その上、左目の動向が真っ赤に輝き、白目の部分は何とも言えない不思議な色合いを醸し出している。口からはまるで蒸気のように白い煙を吐き出している。全身の隅々から魔力があふれ出し、どす黒いオーラがマリアを中心に渦巻いている。
 左腕にまとっている魔力の腕は、まるで自分の意志を持っているかのようにウネウネとうごめいていた。
 そして髪の毛の先が粒子化しているように、先だけが
 ユウキは、思い出した。


 原初の魔法少女の姿を


 「あああああああああああああああああああああ!!!!!」



 絶叫しながら剣を振るい、血の雨の中踊り狂うマリア
 その口元は
 まるで笑っているかのように歪んでいた。





 「魔力の過剰摂取、か」



 達也は衛星から送られてくるマリアの戦闘風景を眺めながら、小さな声で呟いた。
 もっと早くに観測できるものだと思っていたのだが、思ったより遅かった。翼の少女の魔力は通常の魔法少女の物より圧倒的に少ない。そのため、何十人と吸収したところですぐに消費してしまう。
 だが、魔法少女は違う。
 ほとんど自分と同じ分の魔力を一気にコアに詰め込むのだ。
 多少消費が追い付かなくなるのも仕方のないことだ。


 「……やはり、アリスがあんな肉体になったわけはこれだったか」


 予想はできていたが確証は得られなかった。マリアの動向を監視していたおかげで無事確信を持つことができた。これでどうしてアリスの肉体が魔力の肉体を習得したのか分かった。
 それがどのような変化をもたらすのか非常に気になるところだったが、これ以上は分からない。
 デルタを通じてマリアのバイタルも監視していたのだが、残念ながら戦闘中につきその機能は切っているらしい。データは送られていなかった。


 「…………」


 まだまだ
 謎は多い


sage