詩音とアリヤ その①



 「見つけたぞ」
 「…………」


 詩音はそう呟くと同時に変身する。
 透き通る空の色をした魔力がドッと噴き出すと、詩音の体を球状に包み込んでいく。その内部で魔力が織りなして、麗装を形作っていく。身に着けていたものはすべて消えていき、その手に固有武装のハンマーが握りこまれる。
 一秒も経たずに変身が終わると魔力が吹き飛ぶ。
 アリヤは彼女の姿を見ても、何も変化はなかった。もともと顔のほとんどは仮面に隠れているので表情など一切分からないのだが。
 詩音は未練を吹き払うように腕をフッと振るうと、調子を確かめる。
 絶好調だ。
 一方のアリヤは悩んでいた。自分が死ぬと大変なことが起きるのでなるべく引きこもっているようにと言い含められている。そのため、戦うつもりはこれっぽちも無かったのだが、今は状況が悪すぎる。
 周囲に味方がいないのだ。
 ここで翼の少女たちと集合するはずだったのだが、彼女たちはつい先日マリア達の手によって殲滅された。一応その情報は入って来ていたのだが、他に何も言われなかったのでとりあえずここまで来たのだ。
 一人でここまで来た理由は、監視が厳しくなっているので群れて目立つのを避けたかったのだ。
 それは判断ミスだったらしい。
 こうなっては仕方がない。
 詩音が相手では簡単に逃げきれない。一度見つかった限りは、世界の果てまで追いかけてくるだろう。
 となると、ここで何とかするしかない。


 「…………」


 両手に一本ずつ刀を顕現する。
 二人はお互い武器を持ち、睨みあう。
 だが、詩音はすぐに表情を崩すと、唇を思いっきり歪ませ笑った。


 「ククククク、やる気満々だな」
 「…………」
 「容赦はしないからな」
 「…………」
 「行くぜッ!!」


 そう叫んで詩音は飛び出す。
 二人の間の距離は一〇〇mもない。
 地面を蹴って思いっきり前に進み、ハンマーを握っている右腕を思いっきり振るうと、狙いをつけて思いっきり投げつける。寸分の狂いもなくそれは宙を切って飛んで行く。この攻撃はアリヤの予想外だった。
 てっきりそのまま突っ込んで来ると思っていたので、咄嗟に動くと両腕の刀をクロスさせるとそれを受ける。
 ガインッと鈍い音がして衝撃が腕に伝わってくる。



 ハンマーの質量はそこそこあるので、アリヤはそれに押されてバランスを崩してしまう。
 一方の詩音はその隙に地面を蹴って飛び上がると両手から氷の剣を生やし、アリヤに向かって行く。姿勢を崩してはいるものの、あの程度ではすぐに立ち直ってしまうだろう。今のうちにできる限り距離を稼いでおかなければならない。


 「……クッ!!」



 向かって来る詩音の姿を確かめたアリヤはその場で姿勢を立て直すことを諦めた。代わりに両足から衝撃波を発生させると空中に飛び上がり、一回転。それで体勢を立て直すと詩音からの距離を取った。
 距離に余裕ができたので、刀を構えなおす余裕もできた。
 最初は畳みかける予定だった詩音は作戦を変更すると、一気に高度を下げて地面に下りた。そして今度は地に足をつけて慎重に行くことにする。
 それを見て、攻勢に出ることを決めるアリヤ。
 逆に距離を縮めると、右腕の刀を振るい、詩音の首元を狙う。
 だが、それは氷の剣に受け止められる。カキンッと軽い音がたち、そのまま二人は膠着状態に入る。


 「…………」
 「来いよ、えぇ!?」
 「…………」


 安い挑発に乗るアリヤ
 空いている左腕を振るい、その手に握られている剣を脇腹に向けて突き出す。詩音はそれに対して左腕を振るうと、その手の氷の剣で刀を弾き飛ばす。
 それを見てこの至近距離では埒が明かないと思ったアリヤは一度距離を取ろうとする。
 その時、異変に気が付いた。
 足元が、ピクリとも動かないのだ。驚いたアリヤは視線を下げると何が起きているか確かめてみる。すると、詩音の足元から地面に氷が張って、アリヤの足元を完全に凍り付かせているのが分かった。


 「……――ッ!!」
 「かかったな!!」


 詩音は足元の地面から氷柱を生やし、それでアリヤの体を貫こうとする。
 だが、その前にアリヤが動いた。
 全身から強力な衝撃波を発生させると詩音を氷ごと吹き飛ばしたのだ。バキンという儚い音と共に詩音の体が宙に舞う。
 このままでは隙だらけになってしまうので、詩音は重力干渉波を発するとそのままさかさまになりながら、後ろに飛んでいく。
 これでは追いつけないのでアリヤは追いかけるのを諦めると、代わりに光弾をいくつか生み出して、それらを一斉に詩音に向けて発射する。
 寸分の狂いもなくは放たれたそれらは命中するかと思われたが、詩音はそこまで甘くはなかった。逆さになりながらも光弾の方に体を向けると、両手をサッと振るって氷柱をいくつも投げつけた。
 それらは光弾と正面衝突し、ボンボンボンと連続して爆発が起きる。
 詩音は煙の中を落ちていき地面に降り立つ。
 一方のアリヤは爆煙の中から襲われては面倒なので、先にそれを吹き飛ばすことにする。右腕を高く上げ、刀の先を向ける。次の瞬間、強力な衝撃波が発生し、煙が一気に晴れる。
 そのおかげで詩音の姿がはっきり見えるようになった。


 「やるなぁ」
 「…………」


 お互い一歩も引かない。
 アリヤは天性の勘で、詩音は歴戦の経験から、ほとんど互角の勝負を演じていた。



 もう一度、武器を構なおし、戦闘態勢をとる二人
 一触即発
 どちらかがおかしな動きをしたら、すぐにでも血で血を洗う戦いになりそうな空気
 そんな中、詩音はニッと笑うとアリヤに向かって話しかけた。


 「こうして会うのも久しぶりだな」
 「…………」
 「なんだよ、喋れなくなったのか? ええ?」
 「……そんなことない」


 一拍おいて口から紡がれる透き通るような声
 久しぶりに聞くその声に何とも言えない気分になる詩音。泣きたいような、嬉しいような
 心の底からこみ上げてくるものをグッと堪え、詩音は話を続ける。


 「アリヤ、一ついいか?」
 「…………何?」
 「お前がアリス側についた理由、それって私のせいなんだろ?」
 「…………」


 何も言わないアリヤ
 それでもかまわない。それが答えだ。
 詩音は真っ直ぐアリヤに向かって行く。
 今度はコソコソしたりしない。正面からぶつかる。
 詩音が両手の氷の剣を振るい、アリヤがそれらを正確にさばいていく。その度に氷の破片が舞い、キラキラと輝く。たまにお互いの攻撃がかすり、傷がついたりするが、基本的に致命傷は与えられずにいた。
 その間も詩音は喋り続ける。


 「私が悪かったんだろうな、たぶん!!」
 「…………」
 「アリヤ、お前は一人でいたがっていた。私はそれが分かっていながら、一緒にいた。そうだろう?」
 「…………」
 「それが、お前には苦痛だったんだろう、なっ!!」
 「……――ッ!!」


 力任せに放った一撃
 それは思いのほか重かった。
 受けきったものの、ほんの少しだけバランスを崩してしまう。
 その隙をついて詩音は動くとくるりと一回転して、回し蹴りを繰り出す。それは見事アリヤの平らな胸に命中し、「……うぐっ」と苦しそうな声を上げさせた。だが、大したダメージにはならない。
 アリヤは少し後退ったものの、両足を踏ん張って堪える。
 そして詩音が追撃してくるより先に攻撃を仕掛けることにすると、雑に左腕を振るい、刀で切り裂こうとする。その刀身はギリギリのところで詩音に届き、その額に一本の鋭い傷を入れる。
 お互い大した傷ではない。
 だが、詩音はある手ごたえを感じていた。
sage