詩音とアリヤ その④



 アリヤは左足を踏み込んで前に進むその瞬間、足から強力な衝撃波を発生させたのだ。ドンッという音がして、地面が大きく抉れる。それと同時にアリヤは一気に加速して、一歩先に間合いに入った。
 詩音はその速さに反応しきれなかった。


 「な――ッ!!」
 「…………」


 本当は首元や心臓を突きたかったのだが、詩音の構えのせいでそれはできない。
 代わりにアリヤは姿勢を少し下げて刀を横に振るうと、詩音の腹部を横一文字に切り裂いた。グチャリと内臓が切れていく感触の次に、背骨を砕く硬い手ごたえ。思いの外あっさりと詩音の体は真っ二つになった。
 アリヤはそのまま前に進むと、刀を下ろして立ちすくんだ。
 血塗られた刀から、ゆっくりと鮮血が名が落ちていく。


 詩音の上半身は少し宙を舞い、傷跡から内臓を吹き出しながら、地面にどさりと落ちた。顔が上を向いており、薄く開けられた唇から血を流し、目の光がゆっくりと失われていく。手に生えていた氷の剣も、ドロリと溶けて地面へと消えていった。
 下半身は力なく膝を折って倒れると、そのまま血と中身を垂れ流すだけの肉塊になり果てる。
 地面に落ちていたハンマーは粒子と化して、ゆっくりと姿を消していった

 アリヤは勝った。
 でも

 何のために?

 「…………私は」

 両手に持っていた刀を取り落とすと、流れる涙をこぼさないように空を見上げる。

 アリヤは
 最後に詩音の顔を見ようと思い、上半身の死体の前に向かった。
 愛しい人傍にぽつりと立つ。
 見たくない気持ちと、見たい気持ちが半々に混ざり合ったまま、アリヤはジッと頭を下げて見下ろす。すると、さっきまで戦っていたのが嘘のよう。真っ青な顔をした詩音の姿が目に飛び込んできた。
 久しぶりに
 こうして静かに見つめあう気がする。
 アリヤは何とも言えない気持ちになった。
 何か言わなければいけない。
 そう思い、アリヤはゆっくりと口を開いた。


 「…………私は……」

 その瞬間
 トスッという軽い音がした。
 それと同時にアリヤの唇の端から赤い血を垂れていく。何が起きたのかさっぱり分からないまま、ぎこちなく首を曲げると異変のする胸元を見てみる。すると、胸の中心から一本の氷柱が生えているのが見えた。
 それはどこから伸びているのかというと、足元にある詩音の左腕だった。
 それは寸分違わず心臓を貫いていた。
 アリヤは吐血しながら、小さく呟いた。


 「…………え?」


 すると
 それに応えるかのように詩音の顔がニィッと歪むと、口が開いた。


 「悪いなアリヤ……死ね……」


 アリヤはゆっくりと意識が遠のいていくのを感じた。
 ひっそりと冷たい感触が背中から迫ってくる。ゾッとするような恐怖感と、どこまでも落ちていく感覚がアリヤの温度を下げていく。目の前から光がゆっくりと消えていく。これで終わりという実感がどうしようもなく感じられる。
 死ぬ
 死ぬのだ。

 アリヤは最後に、
 小さく笑うと、こう言った。



 「…………詩音となら…………いい」

 「ッ……ありがとうな」



 次の瞬間

 アリヤはゆっくりと目を閉じると、そのまま氷柱に沿って詩音の体の上へと倒れていった。詩音は最後にアリヤが自分の体にかぶさったのを感じ、完全に意識が途切れた。最後の瞬間は、お互いの温かみを感じることができた。
 それだけが唯一救いだったのかもしれない。


 こうして


 アリヤと詩音は死んだ。


sage