戦場 その②



 マリアは焦った声を出すとユウキに尋ねる。


 「ねぇ……大丈夫なの?」
 「あー厳しい」
 「世界最強じゃないの!?」
 「いや……ここまで来るとは思っていなかったし、エネルギーも切れかけだから……やばいな」
 「逃げよう!!」
 「……時間がないな……」
 「なんで?」
 「テレポートは時間がかかるんだよ、座標設定とか」
 「何よ!! 使えない!!」
 「あー!? 喧嘩売ってんのかてめぇ!!」
 「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!! 敵がそこにいるんだよ!!」
 「お、そうだったな」


 ユウキは改めて前を見ると押し寄せる敵と相対する。
 どうやらマリアは役に立たないようだ、となると一人で戦わないといけないのだがそれは本当に厳しい。少し考え込んだ後、ユウキは援軍を呼ぶことにする。
 そう言えば味方がこの近くにいるはずだった。
 テレパシー能力を利用すると、ユウキは仲間と交信を取ることにした。




 ここから少し離れたところ
 そこに一人の少女が佇んでいた。
 彼女は光を反射する美しい銀髪に、真っ赤な目をしていた。ライダーが着るような銀色の戦闘服を身に着けていた。両袖は肩まで捲り上げており、病的に白い肌が覗いていた。だが、服越しに見える体の線はどちらかと言えば太く見えた。
 ジッと前を見続ける。端正な顔つきこそしていたが、表情筋をピクリとも動かさず無機質的な顔をしていた。まるで機械のようにじっと前を見続ける。
 だがテレパシーを感知すると、彼女は耳元に手を当てて全く感情の感じない棒読みで答えた。


 『おいデルタ、そっちはどうだ?』
 「こっちは終わったヨ。何か用かナ?」
 『援軍に来てくれないか? ちょっと面倒なことになったんだ』
 「構わないヨ、ちょっと待っててくれル?」
 『いいが、なるべく早く来てくれよ』
 「了解、任せナ」
 『じゃ、頼んだぜ』


 ここで交信が途切れる。
 だがデルタはそのまま耳に手を当てたままユウキの位置を探る。それ終わるまで一分もかからなかった。ここから数百m離れたところにいるらしい。もしかするとさっきが逃がしてしまった敵がそっちに行ってしまったのだろうか?
 ならば自分の責任でもある。


 「…………」


 デルタはユウキのいる方向を見ると地面を蹴りまっすぐ進んでいく。しかし、目の前には民家が邪魔をしている。だがそんなことを気にせずに走り出す。
 ダンッ!! ダンッ!! という音がしてアスファルトに足跡がいくつも刻まれていく。一歩前に進むごとに速度がどんどん上がっていく、やがて人間では出せないような速度に達すると、デルタは飛び上がった。
 すると驚異的な跳躍力を見せると、民家の屋根に飛び乗った。
 さらにそこから飛び上がると、隣の家の屋根に飛ぶ。


 「…………」


 この調子だと五分も経たずに到着できそうだった。





 「あークソッ!! 敵が多い!!」


 ユウキは悪態をつきながらテレキネシスを乱射すると、次から次へと敵たちを吹き飛ばしていく。だが今回は内部から爆発の起きるほど強力な一撃ではなく、数m吹き飛ばす程度のを繰りだす。
 さっきの爆破が可能なほどのテレキネシスは集中力と、力を多量に利用する。さっきのように多少の余裕があるときはいいが、それ以外ではあまり多用はできない。
 もっと効率のいい戦い方はあるものの、マリアを守りながらでは厳しい。


 「チッ!! くそくらえ!!」


 いったいの絶望少女が地面を蹴って飛び出すと、ユウキを飛び越えてその後ろにいるマリアを襲おうとする。抵抗を繰り返すユウキよりも、なにもしようとしないマリアを先に殺した方が楽だと判断したらしい。
 だがそれを許すわけにはいかなかった。


 「サイコキネシスでも喰らえ!!」
 左腕を上げると狙いをつける。
 すると空中で絶望少女の動きがぴたりと止まる、次にギュッと手のひらを握る。するとサイコキネシスに押しつぶされて絶望少女の体が吹き飛ぶ、黒い嘉新だが吹き飛んでどこぞに消えていく。コアが一つ足元に落ちるも、そんなものに気を配る余裕はない。
 ひとまずマリアを救うことができたが、敵はまだいる。
 視線を移すとまだいる敵の方を見る。
 するとさっきの隙に一人の翼の少女が目の間にまでくると刀を突き出してきていた。


 「うぉ!!」
 身をよじってギリギリのところでそれを避けると、テレキネシスで吹き飛ばす。
 白い羽をまき散らしながら、他の敵を巻き込んで数m先まで飛んで行く。
 だが、次の少女が刀を振りかぶって襲って来る。


 「クソッ!! 埒が明かねぇ!!」


 一旦距離を取ることにすると、ユウキは両腕をクロスさせ、強力なテレキネシスを壁を張るように発生させる。するとその勢いに押されて、群がっていた大量の敵がかなり向こうまで飛ばされる。
 思惑通りに行った。


 「ハァ……ハァ……やったぜ!!」
 「大丈夫?」
 「あぁ!? うるせー!! 黙ってろ!!」
 「なっ!! 心配してやってるのに!!」
 「だーかーらー!! うるさい!!」


 少し余裕ができたのでサイコキネシスで近くのビルの鉄筋を引き抜くと、それで敵を貫き殺そうと思う。だが、力がうまいこと発揮できない。集中力が乱れてきているのだ。
 よくない傾向だった。


 「早く来てくれよ……デルタ!!」


 そう呟くユウキ
 するとまるでその声が聞こえてかのように、デルタが宙から降りてくる。
 ガンッという鈍い音がして、着地したあたりの地面が大きく抉れる。


 「呼んダ?」
 「お、おう、呼んだ」
 「……あいつラ?」
 「そうだ。殲滅してくれるか?」
 「任せテ」


 デルタはそう言いつつ、ちらりとマリアの方を見る。その視線にも全く感情は込められておらず、まるで氷を背中に押し付けられたかのような感覚に襲われる、何を言えばいいのかも分からない。




 困惑しているとデルタが小さな声で呟いた。


 「あなたハ?」
 「え……マリア」
 「そウ、あなたが実験体三号ネ」
 「え?」
 「まぁいいワ………ここは任せテ」


 そう言ってデルタは敵の方を見る。
 すると残った少女たちが大挙して押し寄せてくるのが分かった。
 だが、デルタは慌てない。着ている服のチャックを開くと、勢いよくそれを脱ぎ捨てる。すると真っ白な肌をした美しい上半身がむき出しになる。


 「えっ!!」


 驚いた声を上げるマリア
 それとは対照的にユウキは落ち着き払っている。
 慌てて声をかけると尋ねる。


 「ねぇ!! 何で裸に!? あなたも何か力を持っているの!?」
 「うん、ちょっと待ってテ」


 そういうと同時にデルタの体に異変が起きた。
 上半身にまるでノイズのような物が走ったかと思うと、ゆっくりと肌が消えていったのだ。すると銀色の肌が姿を見せる、むき出しになっている上半身すべてが機械でできていることが分かった。
 彼女は両腕を上げると、腕部装甲を展開する。
 そうするとそこからレーザーの銃口いくつか姿を見せる。デルタはその作業と並行して大量の敵をロックオンした。これで絶対に外さない。


 「さようなラ」


 そう呟くと一斉に発射する。
 ビュッという独特な発射音がして、赤い色をした熱線が宙を舞う。それらは空中で曲がると、狙いをつけていた敵たちに向かう。彼女たちはそれらに気が付いて逃げようとするが、間に合わなかった。
 ジュッという音がして、レーザーが正確に急所を突き抜けていく。
 絶望少女は「ヒギィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」という叫び声をあげ、肉体が崩壊するとベチャリと地面に倒れ込む。翼の少女たちは、なにも発することなく死亡すると、肉体を粒子と化して消えていく。
 あっという間に敵の群れが消滅する。
 デルタは舞い散る粒子の中、無表情で立ち尽くす。突然、背中の装甲がバシュッという音をたてて開くと、白い蒸気のようなものを吹き出し始める。体内に熱が溜まりすぎたので排熱しているのだ。

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