VS研究所 その①


 達也は所長室でジッとモニターを見ていた。
 そこには研究所周辺で周回しているカメラ付きドローンから外の光景が送られていた。いくつもの画面を平行して見ながら、達也はやがて来るであろう懐かしい少女の姿を探し求める。
 この二日間、彼はずっとそればかりしていた。
 ウイスキーを胃に流し込みほろ酔い気分を楽しみながら

 その時、
 一瞬黒い影が映ったかと思うと、ドローンからの映像が途切れた。
 達也はその映像だけで誰が来たのか察した。
 予想より早い
 だが、想定内
 さっきまでのくつろぎ具合が嘘のよう、達也は椅子にもたれかかっていた体をガバッと起こすと、目の前にあったパソコンその他の端末の電源を入れ、研究所にあるすべての戦闘用設備を即座に起動させる。
 そしてマイクを手に取ると所内全体に放送をかける。
 「全員集合だ」
 それだけだが、彼女たちは来るだろう。
 達也はさっきまでアリスが映っていたモニターをジッと見るとこう呟いた。

 「さぁ来い、俺が相手だ」

 義手を起動させると、掌から空中にキーボードのような映像が投影される。達也は指をそこに伸ばすと、高速で動かし入力を始めた。それと同時に左腕も振るって、パソコンその他の機器を操作し始める。
 目の前のモニターも視線誘導入力システムに切り替わった。
 ただ座って、目や指をせわしなく動かしているだけなのに
 尋常ではない気迫が達也の背中から立ち上っていた。

 そんな中、朱鷺、マリア、ユウキとデルタの四人がやってくる。
 達也はそれを察すると、一心不乱に画面を見つめながら話しかける。


 「遅かったな」
 「達也、どうした?」
 「アリスが来た」
 「「「「え?」」」」




 呆気にとられる四人
 それとほぼ同時にいくつかの画面が彼女たちの目の前に表示される。そこには確かに黒い粒子をまき散らし、森の木々の中を爆心する原初の魔法少女の姿があった。また、一つの画面には予想到達時間も映し出されている。
 まだ研究所までの距離はあるとはいえ、アリスの速度は規格外、シールドがある位置まで十五分もかからない。
 それが分かっているので、達也は急いでいた。
 一方で何も知らないマリアは一人焦っていた。


 「ど、どうするの!! 迎え撃つの!? このままじゃ」
 「慌てるな」


 達也の声がマリアの頭を冷やしていく。
 カタカタカタとキーボードを叩く音が響く中、悪魔のような凄惨な笑みを浮かべ、達也はこう言い放った。


 「この研究所がただの木偶の棒じゃないところを見せてやるよ」


 そう言いながら、もう一つ大きな画面を浮かび上がらせる。そこには研究所を中心とした衛星写真が写っている。そこには研究所にほど近い位置にある赤い大きな点と、それを囲むようにいくつもの点がある。
 点の一つ一つが魔法少女の放つ魔力を示している。
 それをチラリと確認して、あることに気が付く。
 思いの外、敵の数が少ない。
 達也はそれでいろいろなことを即座に理解した。
 達也の予想ではあと二日はアリスは来ないはずだった。その根拠は世界中に散らばっている魔法少女たちを集合させてから来るだろうから。しかし、どうやらアリスは待ちきれなかったらしい。
 相変わらずせっかちな奴だ。
 達也の頬がにやける。
 あの頃から何も変わっていない。


 「行くぞ!!」


 準備は整った。
 戦闘開始だ。

 木々の間をすり抜けて、まるで黒い幽霊のようにアリスは突き進んでいく。
 大きく広げた両手にはしっかりと二本の剣が握りこまれている。少しじめっとした空気が頬を切っていくが、アリスにはもうそれを感じ取ることはできない。ただ、粒子と殺意をまき散らして進みだけだ。
 目の前には研究所と、それを防護する魔力の壁
 そんなもの、アリスの前では紙切れに等しいものだ。
 今の原初の魔法少女にあの頃のアリスの記憶は断続的にしか残っていない。それゆえか、懐かしの白い建物の姿を見ても、特に何も感じなかった。
 ただ、そこには自分の邪魔をするものがいる。


 そして、殺すべき相手がいる。



 『ハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!』


 意味もなく笑いが止まらない。
 アリスは今日も絶好調だ。




 しかし、そんな彼女の目に、あるものが飛び込んできた。
 地面がせりあがり、機械の筒のようなものがヒョイと頭をのぞかせる。それは中心部にある黒い銃口をいくつもアリスの方に向ける。また、筒は一つではない。周囲に何十個もたけのこのように生えている。
 どうやらこれが迎撃システムらしい。

 だが、アリスは高をくくっていた。ただの兵器ではアリスを傷つけることは叶わない。
 しかし、その考えは即座に改めることとなった。アリスはすぐにあることに気が付いた。普通の物体を見ることが叶わない自分の目にその筒が映る。つまりそれは魔力を内包しているということである。
 魔力を利用した兵器ならば、アリスを傷つけることも可能である。
 死にはしないが、面倒であることに変わりはない。それでも、わざわざ攻撃を仕掛けるほどの価値があるようには思えなかった。
 攻撃か
 回避か

 一瞬
 ほんの一瞬の逡巡が決定的な隙となった。
 銃口からカッと眩い光が放たれる。それと同時に、強力なレーザーが一斉にアリスに向けて発射される。反射的に回避行動をとろうとした。したのだが、できなかった。その理由は単純、躱せるだけの余裕が無かったからだ。
 レーザーの密度は中々のもので、そう簡単には回避できなかったのだ。


 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!』


 それでも笑いを禁じ得ないアリス
 為すすべなく全身にレーザーが命中し、貫かれていく。無数の穴が全身に開き、そこから粒子と魔力が吐き出されていく。常人、もしくは普通の魔法少女ならそれだけであっさりと死んでしまう。
 だが、やはりアリスは別格だった。
 すでに肉体のない彼女はダメージなど一切気にせず突っ込んでいく。
 アリスを貫通したレーザーたちは全て後ろにある木や地面に命中し、小さな爆発をいくつも起こし、火を放つ。それはゆっくりと燃え広がり、大火災へと繋がる。だがそれまでにはまだ時間があった。
 ズタズタになりながらも、アリスは自身にレーザーを放つポットの目の前にまでくると、手にしていた剣を掲げ、振り下ろす。剣先がガッという嫌な音共に突き刺さり、ポットが黄色い閃光をまき散らす。
 次の瞬間
 ボンッという軽い音がし、爆発を起こす。
 アリスはその爆風と黒煙に巻き込まれる前にサッと移動すると、別のポットの方へと向かって行く。
 しかし、数は多い
 早々にその全てを排除できるわけがない。
 そう考えると面倒になったアリスはサッと手を上げるといくつものナイフを顕現し、それらを一斉にポットの方へと飛ばす。高速で飛ぶそれらは見事命中すると、ボンッという軽い音をたてて爆破していく。
 思いの外あっさりと壊れていくポットを見て、ちょっとした満足感を覚えた。

sage