逃走 その②


 二人は顔を見合わせると小さな声で話し合う。


 「どうする?」
 「……彼女が邪魔ヲ?」
 「その可能性は高いな……どうする?」


 朱鷺がそう尋ねると、デルタは黙り込む。
 そして、一言。


 「私が行きまス」
 「……いいのか? 私が行ってもいいのだが……」
 「いエ、朱鷺さんはリーダーですシ、それニ……」


 そう言ってデルタは指を指の付け根辺りを展開すると、そこから空中に映像を投影する。
 そこにはあるグラフが一つあった。
 朱鷺はそれを見て目を伏せると小さく言った。


 「……そうか、すまないな」
 「気にしないでくださイ。忙しかったんですかラ」
 「…………」
 「じャ、行ってきまス」


 デルタはそう言って、電車のドアの前まで歩を進める。
 マリアはなんて声をかけたらいいかわからず、困った顔で彼女を見つめる。その視線に気が付いたのか、デルタは無表情のままマリアの前に立つと、いつもとまったく同じ口調で話しかける。


 「マリア、ちょっと行ってくル」
 「……行ってらっしゃい…………」


 次にユウキの方に顔を向けると言った。


 「ユウキ」
 「なんだよ?」
 「頑張りなさいヨ」
 「何をだよ?」
 「分かっているくせニ」
 「……フンっ」


 それを最後に
 デルタは既に止まった電車のドアを無理矢理こじ開けた。
 すると、真っ暗な世界への扉が開かれ、デルタは永遠に続きそうな虚無の前に立たされる。その先に何があるのか、さっぱり見当がつかないが、そんな事ほとんど関係ない。彼女は何の躊躇もなくそこに降り立った。
 すると
 ストンッという軽い音と共に足に地が付く感触が伝わってくる。
 そして、先ほど敵がいた場所に顔を向ける。
 次の瞬間、デルタは全速力でそちらに向かって突っ込んでいった。

 朱鷺はその背中を見送ってから、席を立つとマリア達の方を向いて話しかけた。


 「よし、行くぞ」
 「え?」
 「え、とは何だ。ここから真っ直ぐ第二研究所へ向かうと言ってるんだ」
 「でもデルタが」
 「おいていく。行くぞ」
 「ちょっと!! 待ってください!!」


 マリアは声を上げると朱鷺のことを呼び止める。
 すると彼女はさも迷惑そうな顔をして、こう尋ねた。


 「なんだ、お前も置いて行かれたいか?」
 「違います!! どうしてデルタを置いていくんですか!?」


 感情的になって怒鳴るマリアと対照的に、朱鷺は冷めた目でマリアの顔をジッと見る。どうやらユウキは既に理由が分かっているらしい。既に諦めたように何も言うことなく開きっぱなしになったドアの前に立ち、出立の準備を整えていた。
 朱鷺はゆっくりと非情な言葉を吐く。


 「いいか、もうここまで敵が来たということは、他にも原初の魔法少女の手先が来るかもしれない。もし、この狭いトンネルで質と量で押されると面倒なことになると、そう簡単には勝つことができない」
 「………それは……」
 「いいか、ここは彼女に任せて逃げるのが得策だ」
 「で、でも!!」
 「それに」


 話が遮られる。
 マリアはそれに臆してしまい、口を開けたまま固まってしまう。

 その隙に朱鷺は畳みかける。


 「彼女はもう終わりだ」
 「え?」
 「魔力さ」
 「……どういう意味ですか?」
 「コアに十分な量の魔力が充電されていないのさ」
 「………………え?」
 「下手に乱戦になったら、彼女はろくに戦えないだろう」
 「でも、それじゃ、なんで……」


 どうしてわざわざ戦いに行ったのだろうか
 疑問に思っていると、ユウキがそれに答えた。


 「奥の手か」
 「そうだ。それで足止めする気だ」
 「おくの、て?」


 何のことか分からず首を傾げるマリア
 二人はそれを無視するとドアから線路に降り立った。マリアは答えを聞きたかったことと、おいて行かれてはたまったものではないので、急いで降りた。そして問い詰めようとするが、そんな暇はなかった。
 朱鷺はさっさと準備を整えると、こう言った。


 「行くぞ」
 「ちょっと!!」
 「マリア、詳しくは後でだ」
 「ユウキまで!!」


 さっさと宙を舞い、飛んで行く二人。
 マリアはその後を追うので精一杯だった。


sage