研究所 その①



 勝利の余韻に浸るデルタ、その姿はまるで機械仕掛けの天使のよう。


 「終わったヨ」
 「相変わらず仕事が早いな」
 「そもそも私は一対多数の戦闘が得意だからネ」
 「そうだな、じゃあ帰るか」
 「そうだネ。歩いていク?」
 「いいや、こいつがある」


 そう言ってユウキは敵の落としたコアを拾い上げる。
 するとそれは淡い光を放ち、やがて消えていく。


 「これで良し」
 「何がいいの?」
 「うん? エネルギーが回復したのさ。これで全力出せる」
 「何を言ってるの?」
 「……めんどくさいから、詳しい説明はあとでいいか?」
 「べ、別にいいけど」
 「じゃあ、帰るか」


 そう言ってユウキは右手を差し伸べる、それをどうすればいいのか分からず小首をかしげる。数秒間、二人とも何もせずに時間が過ぎていく。デルタはこの空気を放っておいてどこかに行く気になれず立ち尽くす。
 ユウキはようやくマリアが困っていることに気が付くといった。


 「手を取れ」
 「あ、そういう意味」
 「早くしろや、このトンマ」
 「トンマじゃない!!」
 「じゃあ早くつかめ」
 「――ッ!! うざー」
 「何でもいいから早く!!」
 「……ふんっ」


 不満げにそう言いつつも、手と手を握る。
 男らしい硬い感触が伝わってくる。お互い限界まで力を込めると、潰す気で握り合う。額に青筋を浮かべながら、嫌な笑顔を浮かべにらみ合う。完全に相手のことを敵と認識している。
 あからさまに仲が悪そうだった。
 デルタは表情を一切変えず、呆れ声を出す。


 「二人とモ、急がないと敵がまた来るヨ」
 「ちょっと待って、こいつの手を潰してから」
 「ハハハハハ、やれるものならやってみなさいよ」
 「……バカ」
 「「誰が馬鹿だって!?」」
 「二人とモ」
 「「…………」」


 反論できなかった。
 同時にパッと手を放すと、数歩後ろに下がって距離を取る。
 いろいろと終わったことを察したデルタは「じゃア、先に行ってるネ」と言っておもむろに走り出した。数十m行ったところで地面を蹴って飛び上がり、そのまま建物の影へと消えていく。
 その背中を見送った後、ユウキは言った。


 「じゃあ、飛ぶぞ」
 「え?」
 「ご待望のテレポーテ―ションだ」
 「ちょっ……ま」
 「待たん!!」


 無情な宣言が下された。
 その瞬間、二人の姿はその場から消えた。




 「――ッ!?」


 気が付くと景色がガラリと変わっていた。
 どこかの室内らしく、白い壁が目の前に現れた。足元には冷たい床の感触がして、無機質な人口の光が降り注いでいた。さっきまでは外の冷たさが体を蝕んでいたが、今は無機質なそれが全身を包み込んでいる。

 嫌だ。

 反射的にユウキの手をギュッと握ってしまう。
 それに気が付いて、何とも言えない顔をするユウキ


 「おい」
 「な、何よ」
 「手を離せ。痛い」
 「別にいいでしょ!?」
 「いくない」
 「うぅー」


 これ以上不機嫌にさせるのは良くないように思えた。
 なのでおとなしく手を放した。


 「ところで……ここはどこ?」
 「研究所」
 「けんきゅうじょ」
 「俺たちの家、生まれ故郷だ」
 「へー……生まれ故郷?」
 「そうだ」


 そう言ってユウキはへたり込んでいるマリアから離れていくと、出入り口へと向かって行く。扉の隣にある指紋認証用のパネルにタッチする。すると、ピコーンという音がして開いた。
 首を回してそれを見たマリアは何とか持ちこたえると、立ち上がりユウキの後ろに立つ。
 すると、外に廊下が広がっているのが見える。そこも部屋と同じで、冷たい雰囲気だった。


 「じゃあ、行くぞ」
 「こ、これ以上どこへ……」
 「所長室」
 「え? それってどこ?」
 「すぐそこ。デルタも待ってるとさ、ついて来てくれ」
 「で、でも……」
 「俺たちの生みの親もいる」
 「え……? 親……? 誰?」
 「説明が面倒だからついて来てくれ」
 「分かった」


 ユウキは後ろのことを気にせずに迷うことなく廊下を進み続ける。マリアは少し走りながら、必死に追いかけていく。文句を言いたいところだったが、また喧嘩になりそうだったからやめることにした。
 しばらくの間無言で歩き続ける。ただ、カツンカツンという硬い靴底が床を叩く音と、ペタンペタンという間抜けな音だけが響く。


 「お、ここだ」
 「え?」


 ひときわ大きい扉の前で二人は足を止める。ユウキは手早くその扉を開くと中に入っていく。その背中を追いかけるように、マリアもこそこそと中に入る。




 すると、そこにあるデスクの一人の男が座っているのが目に飛び込んできた。彼は一心不乱に備え付けのパソコンの画面をじっと眺めていたが、ユウキ達が来たことに気づいているのか低い声で話しかけてきた。


 「ユウキ、どうだった?」
 「無事保護したぜ、ほら、隣にいる」
 「ん、そうか。よくやったな」


 ここで初めて顔を上げる。
 すると、その男の顔がマリアの目に飛び込んできた。


 「あっ!!」
 「久しぶりだな」
 「――ッ!!」


 目の前にいたのはベッドの上で目覚めた時に自分に話しかけてきたあの男だった。マリアはあの時と同じ冷たい視線を受けて恐怖感を抱き、反射的にユウキの腕に縋りついてしまう。
 それを受けて嫌そうな顔をしたユウキは、面倒くさそうな声で文句を言う。


 「お前、邪魔だよ」
 「だって……この人、怖い」
 「うん? 俺が怖いか、ハハハハハハ。面白いジョークだ」
 「ジョークじゃないんだけど……」
 「いいから、離れろ」
 「う、うー」


 文句を垂れつつも離れるマリア
 そんなこんなしているうちに、デルタがやって来た。彼女は一瞬二人の方に視線を向けたものの、すぐに逸らすと脇を通り抜けて奥の方へと向かって行く。そして、椅子に座る男の隣に立つと話しかける。


 「達也」
 「なんだ。デルタ」
 「無事に終わったヨ」
 「そうか、よくやったな」
 「ほめてほめテ」
 「あとでな」
 「え……寂しイ」
 「すまんな、彼女との話が先だ」


 達也と呼ばれた男はそういうとマリアの方を向きなおした。
 ビクッと肩を震わせると、ユウキの背に隠れようとする。それを一歩右の動いてかわす。手持無沙汰になったマリアは恨めし気な目線を向けるも、ユウキはそれを見事に受け流し口笛を吹きだした。
 すごく下手だった。
 二人のやり取りを無視して達也は話を始める。


 「マリア、君は自分が誰なのか分かるか?」
 「え……えーと……」
 「分からないだろう?」
 「そ、それはそうだけど」
 「俺が教えてあげよう。君が誰なのか、何のために生み出されたのか」
 「…………あなたが?」
 「そうだ。デルタ、椅子を用意してやってくれ」
 「分かっタ」


 そう言って淡々とデルタは部屋の奥にあった椅子を引っ張ってくる。
 それをマリアの前にまで持ってくると、無言のまま座るように促す。マリアは少しだけ悩んだあとゆっくりとそこに座った、デルタとユウキはその後ろに並んで立つ。達也はその姿を見て満足そうに頷く。


sage