デルタ その②



 「あれ?」


 困った顔をして首を傾げる。
 デルタは一瞬の隙を突いて宙に舞って、御雷の姿をこっそりと見下していた。
 これではすぐにばれる。
 だが、一瞬の隙を突くことぐらいはできる。
 デルタはトンネルの天井の地面を蹴ると、勢いをつけて御雷へ向かって行く。その途中、デルタは右手のひらの装甲を展開し、エネルギー砲を起動する。だが、そこからエネルギー弾を放つわけではない。
 代わりと言ってなんだが、エネルギーを集中させて、直接それで殴ることにした。


 だがうまくいかなかった。
 デルタの伸ばした腕が御雷に命中するかと思われた瞬間に、強力な電流が腕越しに伝わって全身を苛んでいく。それで気が付いた。彼女は常に身の回りに電流を走らせシールドを張っているのだ。
 ポンッという軽い音がして腕のエネルギーが霧散した。
 それだけではない
 集中的に電流を浴びたせいで、左腕に搭載している兵装全てが破壊されてしまった。それだけではない、強烈な電流が腕を貫き、コードを伝い、破壊しながら自分の体にせりあがってくる。
 デルタは腰のブースターを起動し、後ろに飛びつつ、左腕を切り外した。
 外れた腕は火花をまき散らしながら、重力に引かれていき、そのままゴロリと地面に転がる。
 御雷は自分の目の前に降り立ったデルタの姿を見るとこう言った。


 「残念だなぁ、お前」
 「ナ……ナ、何ガ……」
 「私とお前の相性は、俗にいう最悪ってやつだ」
 「…………」


 デルタははっきりと理解した。
 勝てない
 この調子では

 デルタはいい加減覚悟を決めることにした。
 奥の手だ。



 「いくヨ」
 「はぁ? 勝つ気?」
 「……違ウ」
 「なら?」
 「死ぬ気」
 「え?」


 御雷の動きがぴたりと止まる。
 デルタはその隙を突くと、全力で地面を蹴って飛び出した。そして、あっという間に距離を詰めると残った右腕をグイッと伸ばして御雷の喉元を掴んだ。もちろん、電流のバリアーもあるがそれは無理矢理突き抜けた。
 柔らかい感触と、電気が流れる衝撃が同時に伝わってくる。
 しかし、今度はひるまない。
 全力を発揮すると、腕をゆっくりと上げて御雷の体を宙に浮かす。
 御雷は悔しそうに顔を歪ませるも、すぐに腕を上げると自分を掴んでいるデルタの腕を両の掌で包み込んだ。
 するとそこからもすごい勢いで電流が走る。


 「―――ッ!!」
 「クソッ!! 離せ!!」


 御雷は暴れ、何とかデルタから逃れようとする。充電した電気も全て吐き出すつもりで、デルタに流し込み続ける。この調子ではここまで来るのに溜めた電気を使い切ってしまうが、気にしてはいけない。何が起きるのか分からないのだ。このまま殺されるよりははるかにそっちの方がましだった。
 デルタは全身がボロボロになっていくのを感じながら、自身のコアに魔力を集中させる。それと同時に、胸の中心部分にある黒く、薄く透けている装甲がバシュッという軽い音をたてて開いた。するとその内部から紫色の眩い光が放たれる。
 御雷はそれを見ても、何が起きるか分からない。
 でも
 よくないことが起こっていることだけは分かる。
 今すぐにでもデルタを弾き飛ばさなくては
 そう思った瞬間
 デルタの小さなつぶやきが聞こえてくる。


 「さよなラ」
 「な――ッ!?」

 次の瞬間
 デルタのコアが暴走すると――

 ドゴンッという大爆発音が響く。
 デルタの体が内側からの衝撃に負けて吹き飛び、体のパーツが弾ける。それに御雷も巻き込まれると、全身がズタズタに引き裂かれただの肉片と肉塊と化す。そしてそれらは全て爆風に乗るとトンネル中にまき散らされた。
 一瞬の間に二人は絶命した。
 だが、それだけではない。
 爆発の勢いはそのままドンドン広がり、大爆発となるとトンネルを内部から破壊していった。


 「自爆?」
 「そうだ、研究所の魔力生成装置と同じ理屈だ。魔力コアを暴走させて、自身の体ごとトンネルを吹き飛ばすのさ。これで中を崩して、通路を閉じて敵の追跡を止めることもできる。一石二鳥だろう?」
 「そ、それは……」


 マリアは口ごもる。
 それとほとんど同時に
 ドゴンッ、という鈍い音が響いてくる。


 「これ……?」
 「…………首尾よくいったようだな」
 「…………もしかして……」
 「あぁ、トンネルの壁が崩れた音だろう。これで簡単に敵は追ってこれない」
 「――ッ!!」


 マリアは動きを止めると、朱鷺のことをジッと睨む。
 その視線を背中に受けつつも、完全に無視する。その代わりと言っては何だが、ユウキが動きを止めるとマリアの事をジッと睨み付けた。その唇はしっかりと結ばれて、少しも開かれようとしない。
 それでも言いたいことは分かった。
 マリアは先に進む朱鷺の背中に向かって全力で叫んだ。


 「覚悟しとけっ!! すべて終わったら、全力でぶん殴ってやる!!!」
 「…………マリア、行くよ」
 「うん……分かった」


 二人は並んで、同じ道を進んで行った。
sage