襲撃前



 かれこれ十五分は飛んだだろうか
 マリア達三人はトンネルの終わりにたどり着いた。途中から緩やかに上る坂になっていたトンネルは、山の中の小さな駅にたどり着いた。そこはもうすでに使われていない古びた場所で、達也が買い取ったのだ。
 そこで降り、ボロボロになった改札を通ると、そのまま緑溢れる森へと向かって行く。
 と言っても、全て雑草や茂る葉に包まれているわけではない。
 ほんの少しだけ舗装されている地面がチラリと見えた。


 その上を進んで行くと、やがてミステリーサークルのようにぽっかりと何もない場所にたどり着く。
 その中心にはマンホールの蓋のようにも見える物があった。どうやらこれが出入り口らしい。
 朱鷺はそこの前で腰を下ろし、あらかじめ持ち運んで来ていたカードキーを取り出す。そして、それを通すと空中にキーボード状の映像がポンッと浮かんでくる。それを見て、ピタリと固まってしまう。


 どうすればいいのか分からない。
 パスワードは把握しているが、どうやって押せばいいか分からない。
 無言で、無表情で困る朱鷺
 ユウキは朱鷺が機械に弱いことを知っているので、「代わりにやりますよ」というとキーボードの前に跪く。
 後ろに下がった朱鷺を見て、マリアは小さく呟く。


 「何やってんすか」
 「うるさい、これだから機械は嫌いだ」


 何もしてないじゃないか、とはあ言えないマリアだった。
 パスワードを入力し、音声認識と網膜認証で機械の扉を開くと、蓋のような物がゆっくりとせり上がっていく。数分後も経つころには人一人分するりと入れるようになる。それは祠か何かによく似ていた。
 その中へ、ユウキ、朱鷺、マリアの順に飛び込んでいく。
 と言っても、中に梯子やエレベーターと言った気の利いたものがあるわけではない。ただの縦穴なので、すぐに飛び込んでは奥の方で詰まってしまい、玉突き事故が起きることとなる。なので、一人一人順番に。

 マリアが縦穴の奥に到着し、すぐ目に飛び込んできたのは非常に狭い真っ直ぐの通路だった。
 どことなく研究所の廊下を彷彿とさせるその光景は、何となくマリアのささくれだった心を落ち着かせた。
 その奥へ、奥へと進んで行くとやがて自動扉にぶち当たる。
 それは戦闘の時が近づくと開き、自分たちを招き入れる。

 すると、やはり小岩井研究所の一室を思い浮かばせる部屋が露わになる。達也の言う通り、沢山の機器が並んでいるが、そのほとんどが画面を持つもので、常に何かを映し出していた。ずっと電源が点いていたのだろうかと少し疑問が浮かぶ
 朱鷺は部屋の隅にあった椅子にどっかりと座ると小さくため息を吐く。
 マリアはとりあえずどうすればいいのか分からず、ボーッとしていたがそれを見たユウキに話しかけられる。


 「マリア、一ついいか?」
 「何?」
 「そこにある丸い機械を起動させてくれ」
 「これ?」
 「違う、そっち」
 「あ、これね」
 「そう、そこのボタンを押せばいい」
 「分かった」


 ユウキの言う通りにハキハキと動く
 朱鷺は座った姿勢のまま、持ってきたコアを整理している。研究所にいることは、まだ力仕事が多くあったがここではそうはいかない。何となく手持無沙汰だった。一方でユウキとマリアの二人は一通りの仕事を終えていた。
 最後にユウキは投影機を起動させた。


 「うし、アリスの現在地を出せるようになったぜ」
 「本当か?」
 「あ、マジっす」
 「よし、ならさっそく頼む」
 「……何もしてなかったくせに」
 「何か言ったか」
 「別にー」


 ムッとした顔で文句を言う朱鷺
 マリアはサッと顔を逸らすと知らんぷりをする。
 そんな二人のやり取りと無視してユウキは手早く操作すると映像を投影する。

 すると、見慣れた町の様子が映し出される。
 その中心に赤いマーキングがつけられている。
 朱鷺はそれを見て、ゆっくりと口を開くと呟いた。


 「……柳葉町、だな」
 「そうみたいですね……」
 「でも、なんでこんな場所に」


 口々にそう言いあう
 朱鷺はうすぼんやりとだが、映っている地域に見覚えがあった。少し考えると、すぐに答えが出た、一年ほど前、アリヤと初めて戦った場所がこの近くにあったはず。もっと正確に言うと彼女が住んでいたアパートの端が映っている。
 どうしてそんな場所にいるのだろうか。
 今現在、そこにいるということは研究所自爆の後であまり時間を空けることなく移動したということである。自分たちのことは配下の魔法少女に任せて
 原初の魔法少女自身が追って行く方が確実だというのに
 なぜ?
 疑問は尽きなかった。

 だが、とりあえずこのことは忘れることにすると、朱鷺は別の質問をユウキに飛ばす。


 「一ついいか?」
 「何すか」
 「この周辺の映像も出せるか?」
 「え、できますけど」
 「頼む」
 「分かりまして、ちょっとこっちのモニターを起動するからちょっと待って」


 その場から移動するのが面倒だった彼は、サイコキネシスで手早く仕事を済ませる。
 すると、映像がパッと切り替わる。
 だが、特に何か異変はない。


 「…………これは今現在の物か?」
 「いいえ、データベースにあるものっす」
 「……今のは?」
 「ないです」
 「ならいい」


 そう言って顔を背ける朱鷺
 どうやら興味を失ったらしい。
 ユウキはそんな彼女に向かって口を開くと、こう話しかけた。


 「どうしますか? 朱鷺さん」
 「何が?」
 「いつ、攻撃を仕掛けますか?」
 「……私も知りたいです」


 二人の言葉を受けて、朱鷺は考え込む。
 今は彼女がリーダーだ。達也がいない今、朱鷺が指揮を下さなくては動くことができない。ほんの少しだけ悩むが、答えはすぐに出た。パッと顔を上げると朱鷺は二人に向かって力強く宣言する。


 「今すぐだ」
 「「え」」


 いきなりすぎる。
 二人は空いた口が閉まらなかった。
 訳が分からないでいる二人に朱鷺は補足説明を入れる。


 「いいか、幸いにも敵はこちらによく知る場所にいる。下手に遠くに逃げられる前に、さっさと仕留めるべきだ」


 理屈は通っていた。
 朱鷺は部屋の隅にある物置を開くと、その中にあった保存食を取り出す。と言ってもコンビニで普通に売っているような安物である。包装をはがし、せっせと口に運ぶ。一つ食べた後、彼女は新しいのを一つ手にすると、ユウキとマリアに向かって放る。


 「食っておけ」
 「え、でも腹は空いていませんよ」
 「気つけみたいなものだ、水もある」
 「……分かりました」


 二人は受け取ったのをモソモソと食べる。
 数分後
 準備を終えた三人はさっきはいた緊急時の出入り口ではなく、ちゃんとした正面出入り口へと向かう。少し広めの通路を通り、徒歩五分、すると立派なエレベーターのドアが目の前に現れる。
 ドアは自動で開くと三人を最後の戦場へと迎え入れた。




sage