朱鷺 その①


 数分後
 三人は研究所外の森の中で佇んでいた。
 ユウキは持ってきたタブレットで自分たちの位置とアリスの位置を確かめて、どちらの方向に行けばいいのか探っている。その間手持無沙汰なのか、朱鷺はしきりに首を回して周囲を探っている。
 マリアはボーッとほんの少しだけ見える空を見ている。
 たまに、鳥が飛んでいるのが目に飛び込んでくる。
 自由でいいな
 そんなバカみたいな考えが共に空の果てへ飛んで行く。

 何か気を紛らわさなければ
 また絶望の淵に叩き落されることとなる。
 嫌だけど朱鷺にでも話しかけようか、そう思い、彼女の方を見る。

 すると、朱鷺がある一点を凝視していることに気が付いた。
 眉をひそめて、険しい顔で
 マリアはそれを不思議に思い、話しかけた。


 「朱鷺さん、どうしたんですか?」
 「…………ユウキ、マリア」
 「なんです?」
 「どうしました?」


 朱鷺は麗装を身にまとい、その両手に七節棍を握りこむ。さらに袖から大量の式神を発生させると、自分の周囲で渦巻かせる。臨戦態勢に入っている。そして朱鷺は視線の方向へ七節棍をサッと向けた。
 ユウキは急いでそちらを見る。
 だが、パッと見では特に異変は無い。
 それでも朱鷺がこうしたということは何かしらがあるはずだ。
 そう判断したユウキは透視能力を発動して、何が隠れているのか確かめてみた。
 すると

 数人の魔法少女の姿が確認できた。


 「な――ッ!!」
 「ユウキ、どうしたの?」
 「クソッ!! 朱鷺さん!!」
 「あぁ、分かっている」


 そう言って
 朱鷺は一歩前に進み、背中で語り掛ける。


 「だから行け」
 「え?」
 「朱鷺さん……」
 「ここは私が引き受けよう」


 一瞬の沈黙
 もう、マリアは何も言う気になれなかった。
 ユウキは少し目を伏せた後、小さな声で言った。


 「分かりました。任せます」
 「おう」
 「…………行くぞ、マリア」
 「分かった」


 そう言ってあっさりとマリアはユウキの方へ歩いていく。彼女のことはあまり好きではない、それだからか別れがあまり悲しくない。その代わりと言っては何だが、そんなことを思ってしまう自分が非常に悲しかった。
 マリアと朱鷺
 二人の間の距離がどんどん離れていく。
 それを知ってか

 朱鷺は低い声で語り掛けた。


 「マリア」
 「……何すか」
 「私はお前が嫌いだ」
 「――ッ!!」


 こんな時まで
 文句の一つでも言ってやろうかと思った瞬間
 それにかぶせるように朱鷺の言葉が続いた。


 「だがな、お前が世界を救うことができると信じている」
 「え?」
 「頼むぞ」


 その言葉が最後だった。
 マリアが振り返った時
 既に朱鷺は敵に向かって飛び出して行っていた。



 朱鷺が来るのを見て、敵の魔法少女は一斉に動かなくなった。
 理由は単純、彼女たちを指揮しているリーダーの魔法少女が、サッと手を上げて後続の魔法少女たちを止めさせたのだ。それにあわせて朱鷺も動きを止めるとその場で仁王のように立ちはだかる。
 彼女の前に立つ魔法少女は計六人
 そのうち、一番前に立つ魔法少女に、朱鷺は見覚えがあった。
 おおよそ自然の物とは思えない真っ赤な髪の毛をして、それとは不釣り合いに落ち着いた色調をした短めの浴衣のような麗装を身にまとう。また、手にはアフリカ投げナイフめいた邪悪な武装が握りこまれていた。
 彼女はハッと目を見開くと小さく呟いた。


 「……朱鷺さん」
 「ふむ、遠藤燈子か……久しぶりだな」


 また、あの史上最悪の絶望少女戦の生き残り
 何年ぶりかの再会だが、朱鷺は彼女のことがどうにも好きではなかった。汚物でも見るような目で彼女の顔を睨み付ける。仮に眼孔で射貫くことができていたら、燈子はこの時点で死んでいただろう。
 代わりと言っては何だが、彼女は気圧されたかのように一歩後ろに下がる。
 朱鷺はそれを見て小さくため息を吐くと、こう言い放った。


 「お前がフレイヤさんを裏切るのは初めての事じゃないが、いい加減嫌気がさしてきた。ここで死んでもらおうか」
 「クッ…………私だって弱くはない」
 「弱者と群がっている辺り、その強さもたかが知れているがな」


 それを聞いて、燈子の後ろにいた魔法少女たちの顔が曇る。
 彼女たちは朱鷺の怖さを知らないのだ。無駄に大きい刀を手にし、鎧のような麗装をにまとった魔法少女が一歩前に出て燈子の隣に立つと、朱鷺のことを睨み付けながら小さな声で話しかけた。


 「あの魔法少女、殺しましょうよ」
 「ちょっと、落ち着いて」
 「何でですか?」
 「あの魔法少女は、強い」
 「でも数では勝っていますよ」
 「そういう問題じゃないのよ」


 燈子はちらりと朱鷺の方を見てから、後ろにいる魔法少女たちに聞こえる声で説明を始めた。


 「いい? フレイヤは質と量を兼ね備えた最強の魔法少女だった……でも、単純な戦闘能力の話をすると、彼女はフレイヤを超える」
 「は? そんなの……」
 「あなたたちは知らない………彼女の身体能力は、普通の魔法少女を軽く超えるわ」
 「…………どういうこと?」
 「見てればわかる」
 「……は?」


 そんな会話を交わしている隙に
 朱鷺は七節棍を握り、それをサッと振るうと地面に一本の線を描く。

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