朱鷺 その②



 追手の魔法少女たちはそれが何を意味するのか分からず、それぞれ困惑を隠せずにいた。
 そんな彼女たちをよそに、朱鷺は両手の七節棍を地面に突き刺して腕組みすると言い放った。


 「この線を越えて、私に背中を見せてみろ。その瞬間がお前たちの最後だ」
 「なっ!!」
 「ふざけて!!」
 「――ッ!!」


 それぞれが違った反応を見せる
 最後に朱鷺はこう言い放った。


 「覚悟しろ」


 静かな一言
 だが、敵を抑圧するには十分する力を持っていた。
 魔法少女たちは完全に気圧されていた。
 だが、一人だけ無謀な少女がいた。


 「フンッ!! そんなコケ脅し……」
 「有馬!! 勝手に動かないの!!」
 「うるさい!! 舐められてたまるか!!」


 改造したセーラー服のような麗装を身にまとったその少女は、手斧そっくりの武装を手にして燈子を差し置いて前に出る。彼女は連れてきた少女たちの中では一番血気盛んで、好戦的だった。
 燈子は彼女の動きを止めようとするも、遅かった。
 有馬は地面を蹴って宙を舞い、生い茂る葉の中に飛び込み、姿を隠しながら前に進む。そして、わざわざ朱鷺の真後ろに降り立った。
 どうせ口だけだと舐めているからこそできる所業だ。
 有馬は武器を構え、振り向いて、朱鷺の背中に攻撃を仕掛けようとする。
 だが遅かった。




 振り向く前に、朱鷺が仕掛けた。
 朱鷺の右足がうなると、ヒュッという軽い音と共に宙を切り、首元を狙った回し蹴りが見事に命中する。するとバキンッという儚い音が響き、有馬の首の骨が砕け散った。グニャリと不自然に首が曲がる。
 それと同時に有馬は「かひゅ」と掠れた声を出して、倒れていく。
 あっという間に死体が生まれた。
 朱鷺は見せしめという意味も込めて、その死体をつまみ上げ、投げ捨てると燈子の足元に叩きつける。
 それを見て、残った五人の魔法少女たちはピタリと動きを止める。
 認識を改めた。


 燈子は後ろにいるジャージのように地味な麗装を纏った魔法少女に目配せする。
 それを受けて、その魔法少女は燈子の隣に来ると小さな声で話を始める。


 「宮崎」
 「…………」
 「朱鷺に勝てるとしたら、あなたの能力しかない」
 「…………」
 「キャンディーをみんなに渡しておいて、分かった?」
 「…………」


 宮崎と呼ばれた少女は小さく頷くと、ポケットから紙に包まれた丸い球体をいくつか取り出すと、それを一つ燈子に手渡す。そして、他の子にも与えるべく、その場から離れていった。
 燈子はそれを口に含んでから、一度ナイフを消す。そして、素手のまま構える。
 するとボッという音共に真っ赤な炎が彼女の両腕を包み込むように生まれる。周囲の空気が熱されて、蜃気楼が生み出される。火の粉が散り、燈子の周りにいた魔法少女たちが鬱陶しそうに顔を歪める。
 朱鷺はその炎を懐かしそうに眺めながら、こう言った。


 「しかし、一対五か……」
 「ちょどいいハンデだと思うけど……」
 「面倒だ、これでいい」


 朱鷺がそう言うと同時に、周囲の式神が二つに分かれ、まるで意思でも持っているかのように、地面に刺さっている七節棍の周囲で集結し始める。初めて見るその動きに、燈子は眉をひそめる。
 先に仕掛けるか
 それとも様子を見るべきか
 悩んでいたのだ。


 それは彼女のミスだった。
 悩んでいる間に、朱鷺の準備は整ってしまった。
 式神は二つに分かれたまま、人のような形になるとそのまま動きを止めた。ミイラのような中身がスカスカの紙人形が生み出されたことになる。それらは直立不動の姿勢を保ったままじっとしていた。
 だが、朱鷺が拳法の構えをとった瞬間、それらはまるで自らの意思を持っているかのように動き出した。
 急いで腕を伸ばすと地面に突き刺さった七節棍を握りこみ、朱鷺そっくりに先端を魔法少女たちに向けて、腰を低くする。


 「なっ!!」
 「これで三対五、まぁ、対等だな」
 「――ッ!!」


 ぶっちゃけ、宮崎は戦えないので三対四と言って過言ではない。
 もう数で優位に立てなくなった。

 せめて先手は取ろう
 そう思った瞬間
 燈子の目の前に、地面をすべるように移動してきた朱鷺の姿が飛び込んできた。


 「早ッ!!」
 「フン!!」


 隙だらけの彼女の顎を狙って、朱鷺は左手で掌底を繰り出す。
 早すぎて、回避が間に合わない。
 燈子はとっさの判断で動くと、逆に自分からその掌に向かって顎を突き出した。
 それで力を込めるタイミングがずれたのか、それとも打点がずれたのか。掌底はバチンッという軽い音と、ちょっとした衝撃を与えるだけにとどまった。酷いダメージは追っていない。だが、ほっとしたのもつかの間。
 燈子の腹部を鈍い衝撃が襲う。


 「ガッ!!」
 「詰めが甘い」


 右手の拳がめり込んでいる。
 ベキッと儚い音が聞こえてきたことから察するに、あばらが折れたか
 燈子は目を見開き、口の端から涎を流しながら声の出ない苦しみに耐えていた。
 その姿は隙だらけで
 朱鷺からすると格好の的だった。
 怯んでいる隙に追撃をしようと、動く。この至近距離で全力を込めた蹴りを叩きこもうと、右足に力を込める。燈子は、朱鷺のその動きに気が付いていた。気がついていたのだが、体が動かない。
 このままでは腹を蹴り破られるかもしれない。
 そう思った彼女は、何とか両掌を開くと、燃え盛る炎を吐き出す。
 朱鷺はそれを察し、追撃を諦めると後ろにとんで炎を躱す。
 燈子はそれで、一息つくことができた。



 「カハッ!!」
 「お前、何年魔法少女やってるんだ……」
 「う、うるさい……」


 胸の傷に魔力を集中し、何とか骨折だけでも治す。
 そして気丈に顔を上げると朱鷺のことを睨み付ける。
sage