朱鷺 その③




 そんなことをしている間に、周りの魔法少女たちは苦戦を強いられていた。
 宮崎を除く四人の魔法少女は、それぞれ自らの武器を振るって式神と戦っていた。
 まるでスケバンのような麗装を身にまとい、長い金髪を長く伸ばしたままにしている魔法少女は、長い一本の鎖を持ち、それを振るっていた。彼女はシノブという名前で、副リーダー的な立ち位置だった。


 「喰らえ!!」


 彼女は、鞭を扱うかのようにその鎖を七節棍を構える式神に向かって飛ばす。
 それは見事に命中し、頭部を吹き飛ばす。

 普通の人間だったらこれで死んでいる。
 だが、式神の紙人形は違った。
 頭を形作っていた式神が周囲に吹き飛ぶだけで、動きを止めることなくシノブに向かって来る。それだけならよかったが、さらに絶望的な事実が彼女に降りかかる。それは何かというと、紙人形が再生するのだ。


 「クソッ!! クソッ!!」


 何度も何度も腕を振り、鎖を叩きつける。
 その度その度に紙人形の体を吹き飛ばすことはできるのだが、数秒後には元通りになっている。
 なぜ? と一瞬疑問に思うが答えは単純だ。
 紙人形は式神が使用不能になるほどの傷を与えない限り、動きを止めることはない。それなのに、朱鷺は常に式神を放って紙人形に供給し続けているのだ。
 不死身の怪物
 シノブの目の前にいるのはそう表現しても過言ではないような奴だった。


 「くそ野郎がぁっ!!」


 悔し気にそう叫び、シノブは攻め手を変えることにした。
 三mは有ろうかという鎖の半分ほどを掌に巻き付ける。そして次に、腕を全力で振るう。すると長く伸びたそれは真っ直になり、そのまま不自然に固まる自身の能力で磁力を操作し、鎖を固めのだ。
 短剣のようになったそれを構え、向かって来る紙人形にその切っ先を向ける。
 遠くからの攻撃が通用しないなら、接近して叩きのめすまで
 そう判断したのだ。


 「行くぞ!!」


 一気に懐に潜り込むと横に一閃、紙人形を真っ二つに叩き切ろうとする。
 しかし、その一撃もやはり虚しいものだった。
 式神が周囲を舞い、シノブの視界を遮る。チラリと見た限り、人形の原型は残っておりダメージがなかったことを示している。もう一度、今度は頭の辺りを狙って攻撃を仕掛けようと思った瞬間
 トッ、という軽い音と共に、激痛が走る。


 「え?」


 首を曲げて胸の辺りを見てみる。
 すると、紙人形の持っていた七節棍の先が伸びて、シノブの右胸にめり込んでいた。ジワリと赤い液体が流れ出ると、麗装の上を伝い落ちていく。どうやら、当たりが浅かったためか、少し肉を削っただけらしい。
 だが、シノブのペースはこれで完全に失われた。
 紙人形は自身の体を再生しながら、くるりと体を回しながら一歩前に出ると、七節棍を首元めがけて一直線に突き出す。
 痛みのあまり、呆気に取られていたシノブは反応に遅れた。
 そのため、棍は特に障害なく命中するとベキリと嫌な音をたて、首の骨にヒビを入れる。朱鷺と同じく、一撃で敵をしとめるべく、確実に急所を狙ってきていた。だが、やはり少し浅い。

 「――――ハッ!!!」


 首の血管も潰されたのか、口から血液が吐き出される。
 紙人形は、とどめの一撃を繰り出そうと、七節棍を後ろに下げ、もう一度突きの体勢をとる。
 シノブはとっさの判断で動くと、地面を蹴って後ろへ飛ぶ。
 意識が朦朧としているせいか、着地に失敗し、ガクリと膝をついてしまう。


 「―――ッ!!! ―――ッ!!」


 声が出ない。 
 骨が再びつなぎ合わされ、傷が修復されていく。それは燃えるような痛みを伴うもので、息がとても苦しくなる。何とか、何とか傷が癒えるまでの間だけでも休みたかったのだが、そういう訳には行かなかった。
 紙人形はこちらの都合など考えてはくれない。
 外れた七節棍を振るいつつ、倒れている自分に向かって来る。


 「クッ!!」


 シノブは悔しそうに顔を歪ますと、掌を地面に向ける。
 すると強力な磁力が発生し、砂鉄を集める。だが、それだけでは何の意味もない、シノブは磁力を操り、砂鉄を大量に紙人形に向かって飛ばした。鋭い一迅の風が紙人形を切り裂かんと襲い掛かる。



 それでも
 死を恐れぬ紙人形は、そのまま何の躊躇もなく突っ込んでいく。
 砂鉄と紙人形がぶつかり合った瞬間
 バシュッという音をたてて式神が大量に切り裂かれる。
 紙人形の体がバラバラになり、紙の破片が周囲にまき散らされる。


 「っ!!」


 シノブは勝ち誇る。
 紙人形の姿が消えたことで、勝ったと思ったのだ。
 しかしその認識が甘かったことはすぐに分かった。
 舞い散る紙を吹き飛ばし、七節棍だけが真っ直ぐ突っ込んでくると、シノブの左胸を突き抜けたのだ。すっかり油断していたシノブは、それを避けることができず、致命傷を負うこととなった。
 ギリギリ心臓こそ外れていたが、酷い傷だった。
 噎せ返るほどの量の血がこみ上げてきて、シノブの口内を一杯にする。体から力が抜けていき、膝がガックリ折れる。


 「――ッ!!!」


 シノブは薄れる意識の中、自らの勘違いを悔いていた。
 紙人形にばかり攻撃を仕掛けていたが、それが最大の過ちだ。あれは式神で構成されているただの物、おそらくだが、あれの本体は七節棍だ。七節棍の動きに合わせて、式神を人型に操作しているだけなのだろう。
 つまり
 紙人形を攻撃しても何の意味もないのだ。


 「グッ…………」


 手足がしびれてくる。
 磁力も失われると、鎖が力なく垂れる。
 短い間に命に関わる傷を二度も負ってしまった。
 さすがに厳しいものがある。
 シノブは重力に引かれて地面に向かってダイブする。顔面から無様な格好で倒れ込む。鼻を強打してしまい、血管が破れると鼻血が噴き出す。だが、そんなことを気にしている暇などどこにもなかった。
 急いで立て直さなければ
 そう思った瞬間
 彼女の首を七節棍が何の躊躇もなく突き抜けた。


 「カッ……ハッ……」


 彼女の口からこぼれたのは
 断末魔の言葉ではなく、苦し気なうめき声と鮮血だった。
 七節棍はそのままグチャリと肉を裂いてシノブの首を中途半端に切った。噴水顔負けの勢いで大量の赤い液体が噴き出し、そのままシノブはピクリとも動かなくなった。彼女の手から、鎖が滑り落ちていく。
 まだ絶命していないのか、傷口から空気が漏れ出して「かひゅーかひゅー」という音が聞こえてくる。と言ってももう立ち上がって戦う力など残っていない。このまま死ぬのを待つだけだ。
 だが感情の無い七節棍はそんなことを気にしない。
 式神が再集結すると、紙人形が再び形成されて七節棍を手にした。
 そして、残る二人の魔法少女の方へと走りこんでいった。

sage