決戦直前



 柳葉町の一角へ向かう影が二つ
 マリアとユウキだ
 アリスの居場所を把握した後、二人はテレポート能力を利用して飛んだのだ。と言っても直接彼女の前に行ったのではなく、だいぶ離れた位置に降り立った。いきなり戦闘になるよりも、準備を整えられる方がいいと思ったのだ。
 その準備とは
 主にマリアの心構えだった。

 だが、なぜか理由は定かではないが、マリアの心は落ち着き払っていた。心の奥底に眠っていた黒く澱んだ何かは既にどこかへと消え去っていて、今まで重かった足取りは、普通の物と何ら変わりはないように思えた。
 それでも
 何となく疲労感は残っていて
 苦しかった。

 マリアはちらりとユウキの方を見る。
 彼は一体何を考えているんだろうか?
 そう思うが、残念なことにマリアにテレパシー能力はない。

 代わりと言っては何だが
 マリアはゆっくりと口を開くと、小さな声で話しかけた


 「ねぇ、ユウキ」
 「なんだよ」
 「私、思うんだ」
 「何を?」
 「この戦いが終わってさ、もし、普通の生活に戻れたとして」
 「として?」
 「その生活を楽しむことができるのかなぁ?」
 「…………」


 まただ。
 またこの疑問。
 だが、それもしょうがない。明確な答えが出ないままうやむやのまま終わらせたのはユウキだ。今のマリアには、それが一番の懸念なのだろう。


 「私はさ、なんだかんだ言っても、やっぱりただの人殺しでさ。それだけじゃなくって私がここまで来るのに何人もの人が犠牲になったんだよ。フレイヤさんに詩音さん、デルタに朱鷺さんもいなくなった。それって……私のせいなんだよね」
 「何とも言えねぇな」
 「それなのに、私だけがのうのうと生きていて……いいのかな?」


 両目からとめどなく涙を流しながら、それでも一瞬たりとも止まることは許されない。それこそ、今まで死んでいった人々に対する最大の裏切りにして最悪の侮辱だ。誰が何と言おうと、マリアは止まってはいけないのだ。
 隣に立つユウキは、目を閉じて少女の言葉をその身に刻み込む。
 ひたすら悲しみに暮れながら、マリアはさらに言葉を続ける。


 「私、何で生まれて来たんだろう」
 「……そんなの……」
 「知ってるよ。原初の魔法少女を殺すためでしょ」


 諦めきった声でそう呟く。
 直後
 ユウキはきっぱりと言い切った。


 「それは違う」
 「え?」
 「生まれてきた意味なんて、誰にもないのさ」
 「…………」
 「自分で見つけるか、作るんだ」
 「…………ユウキ」
 「なんだ?」
 「ありがとう」


 何とかその一言を絞り出す。
 胸の内から何かがダムが決壊するようにあふれてきそうで
 それを必死にせき止める。
 それを知ってか知らずか、ユウキはとどめの一撃を繰り出す。


 「まぁ、大丈夫だ。マリア」
 「え?」
 「この前も言ったろう? お前一人じゃ押しつぶされるって言うんなら、俺が一緒にいてやるさ。マリアとなら、俺も別に平気だし」
 「……ユウキ……」
 「あぁん? 何だよ」
 「…………」


 一拍おいて
 マリアは泣き顔のままこう呟いた。


 「ユウキ」
 「何?」
 「私…………」
 「早く言え」
 「あの、私」


 意を決してマリアが話を続けようとしたとき
 ユウキが手を上げるとマリアの話を遮ると、緊張した声でこう言った。


 「いたぞ」
 「え?」


 そう言って指を伸ばす。
 その先を見ると
 確かに原初の魔法少女の姿があった。
 何となく
 タイミングを逃してしまった。
 ユウキはマリアに顔を向けるとこういった。


 「で、なんか言ったか?」
 「ううん、何でもないの」
 「…………」


 実は
 ユウキはテレパシーでマリアの考えていることは全て把握していた。
 そのため、彼女が何を言おうとしていたか知っていた。
 知っていたが
 あえて何も言わないことにした。


 「マリア、厳しいこと言うぞ」
 「……何?」
 「俺たちは結局、アリスを殺すために生み出された兵器だ」
 「…………」
 「でもそれは俺たちだけじゃない。敵の魔法少女も、国連軍も、俺たちを操っていた達也も同じことだ。みんな、勘所のない道具のように扱われて、それぞれの事情をその旨の奥に抱いたまま死んでいったんだ」
 「…………」
 「だから、せめてアリスを殺すまでの間は俺たちも兵器でいよう」
 「………………分かった」


 遠回りの否定
 マリアにはそう聞こえた。

 「行こうぜ、マリア」
 「……うん、ユウキ、行こう。最終決戦だ」


 マリアは全身から大量の魔力を吹き出すと、それを織りなし麗装を生み出す。
 手にすっかり愛用となった剣を握り、左腕から強力な魔力を発生させる。
 ユウキもユウキで集中力を高めると、いつでも超能力を発生させられるように準備を整える。


 「行くぜ!!」
 「うん!! 行こう!!」


 そう言いあって
 二人は飛び出した。


 大通りの中央
 そこで原初の魔法少女は佇んでいた。
 どす黒い身体と、霧のように噴き出す粒子。どこまでが体でどこまでが地面に映る影なのか、見分けがつかない。黒い塊がのそりと生えているような感じで、ただ真っ赤な目と口が頭らしき部分で揺らめいていた。
 彼女は
 手にした剣を日の光で染め上げて
 ボーッと空を見上げると

 小さな
 本当に小さな声で呟いた。


 『達也、やっぱり私は……どうしようもなく殺しが好きみたい』


 直後
 首をぐるりと回すと向かって来る魔法少女と超能力者の方に目を向ける。

 敵だ。
 殺さなくては


 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』


 いつもの調子で大笑いしながら
 アリスは剣の先を向けた。
sage