研究所 その②


 マリアは達也に向かって少し震えた声で話しかけた。


 「ねぇ、話してくれるんでしょ?」
 「話すとも、では始めよう。君が生まれたわけを」


 ごくりと息をのみ、達也の言葉を待つ。
 しかし、最初に吐き出された言葉は予想外のものだった。 


 「まず君には謝罪をしなければならない」
 「何を?」
 「君を生み出す際に名前等の情報を詰め込んでおくつもりだったのだが、ミスをしてしまったようだった。そのため、君を混乱させてしまった。すまない」
 「え、それって?」
 「結論から先に言う。君は我々が生み出した対魔法少女戦用魔法少女なのさ」
 「え?」

 どういう意味なのだろう
 対魔法少女戦とはいったい何なのだろうか?
 混乱している姿を見て、改めて一から説明することにした。


 「まず、今の世界情勢について詳しく説明しよう」
 「え、えーと……お願い」
 「分かりやすく説明すると、世界は戦争をしている」
 「え、戦争?」
 「そうだ。敵は原初の魔法少女率いる魔法少女軍団だ」
 「なに、それ」
 「全てを語るには、まず十年前に起きた事件が発端だ」


 そう言って達也は長い長い物語を語り始めた。
 一人の少女がクライシスと呼ばれる完全なる生命体と契約し魔法少女となり、世界を救うために戦いを始めたことから始まった。彼女は多大な犠牲を払いつつも勝利を重ねていき、最後には自殺をした。
 彼女が死んで困るクライシスは自身のコアを利用して彼女をよみがえらせたのだ。
 その結果、何が起きたのか


 その少女は永遠の命を手に入れた。
 また、人間を殺すことによって魂という名のコアを変質させ、不幸な少女は魔法少女へ、幸福な人間は絶望少女へと変化させることが可能となった。
 少女は原初の魔法少女と呼ばれる存在となった。
 当初、その目的はただ本能に従って人を殺しているのを楽しんでいると思われていた。
 しかし、真の目的は違った。




 すっかり物語に魅入られていたマリアは熱のこもった声で尋ねてみる。


 「真の目的……?」
 「そうだ、仲間の一人が発見したことなのだが原初の魔法少女と絶望少女が接触し、何かしらの指示を受けているのが確認された」
 「それが……?」
 「おそらくだが、原初の魔法少女が絶望少女などを生み出していったのは戦力なのだ」
 「……戦力?」
 「そうだ。彼女が世界と争うために、駒を増やしていたのだ」
 「そういうことだったの……」
 「あぁ、だが問題が起きた」
 「……それって?」
 「彼女にとって不運だったのが、世界中に生み出した魔法少女の半分がこちら側についたということだ?」
 「え?」


 こちら側、ということは味方なのだろう。
 その理由がよく分からず考え込む。
 その答えは達也が教えてくれた。


 「携帯やパソコンの掲示板、さらには一人の魔法少女によるネットでのつながり。そういったものが魔法少女たちを団結させていき、グループを組むようになったりした。全国区的に有名になった少女も生まれ、彼女を慕う者も現れた。それは原初の魔法少女にとって予想外の出来事だっただろうと思う」
 「それは、なんで?」
 「不幸な人間が好んで他人とつながると君は思えるか? おそらく、彼女はその隙をついて大量の魔法少女を仲間に引き入れるつもりだったのだろう。ところが、思いのほか魔法少女たちが団結してしまったのさ」
 「それだから……」
 「こちら側についたある魔法少女が、呼びかけてくれたおかげで原初の魔法少女は思いのほか戦力を得られなくなった。しかし、彼女はそのことも予想していた」
 「予想していたの?」
 「あぁ。だから彼女はある手段を取った」


 その手段とは何なのだろうか
 疑問に思うマリア
 達也はまるで苦虫を噛み潰したような顔をしてから話を続けた。


 「彼女は一人の魔法少女を味方に引き入れると、その少女を増やしたのだ」
 「増やした?」
 「そう、君も見ただろう。陶磁器の仮面を被り、翼を生やしたあの少女達。彼女たちがその魔法少女のなれの果てだ」
 「それは……」


 何とも言えない気分になった。
 おそらく翼の少女の元となった魔法少女は自分の意志でそうなったのだろうが、自分がそこらかしこに大量に存在しているのだ。それはどんな気分なのだろう、マリアにはうまく理解することができなかった。
 延々と答えの出ない問に悩んでいる間に達也は言葉を続ける。


 「彼女はそれで世界と対等に戦えるほどの戦力を手にしたのだ」
 「なるほど……」
 「さて、ここからが本題だ」
 「……確かに」


 そう言われるとそうだ。
 生み出されたという言葉の意味も明らかになっていない。
 話は始まったばかりなのだ。




 早くその理由を知りたいマリアは無言のまま達也を促す。


 「いいか俺は対魔法少女の第一人者として、世界を救うために色々と働いている。そのために生み出した最終兵器、それが君だ」
 「え?」
 「この研究所に残っていた二人の少女のDNAをもとに、君は生み出された。元から魂にある程度の強度を付与しており、生命エネルギーではなく魔力を消費して生きる存在。生まれながらの魔法少女なのさ」
 「…………そんな」
 「もう一度言う、君は兵器だ」
 「―――ッ!!」


 マリアは怒って立ち上がると、ジロリと達也を睨み付ける。
 ユウキとデルタもその姿を見ても特に何も言わず、
 口を開くと、思いっきり文句をつける。


 「ふざけるな!!」
 「ふざけていない」
 「私は兵器じゃない!!」
 「じゃあなんだ?」
 「人間だ、私は人間だ!!」
 「違う、魔法少女だ。そして兵器だ」
 「馬鹿にしているのか!?」


 悪びれもなくそう言い放つ達也
 マリアはさらに激昂すると声を荒げて言葉を続ける。


 「人を兵器扱いするな!!」
 「俺は兵器として君を作った。それは、後ろにいるユウキとデルタも例外ではない」
 「え――ッ?」


 驚いて、後ろを振り向くマリア。
 すると、小さく頷くデルタの姿が目に飛び込んできた。ユウキはその隣で苦虫を噛み潰すような顔をしているが、反論しようとしない。自分の味方がいない、その事実にマリアは少し絶望してしまう。
 ぎこちなく首を回すと前を向きなおすと、もう一度達也と向き合う。
 すると勝利を確信した笑みを浮かべ、非情な言葉を吐く達也の姿が目に飛び込んできた。


 「理解してもらえたかな?」
 「――ッ!?」


 嫌でも受け入れるしかないのだろうか
 絶望した。
sage