覚醒



 「マリア!! 俺が隙を作る、あとから来い、いいな!!」
 「分かった!!」
 「よし!!」


 ユウキはそう言い残して速度を上げると、アリスに向かい突っ込む。
 両手を開き、そこに魔力を集中させるといつでも超能力を発揮できるように準備を整える。だが、すぐに攻撃を仕掛けたりしない。どうするか少し悩んでしまう。燃やすか、潰すか、吹き飛ばすか
 不死身の怪物に対してどんな攻撃が効果的か、計りかねているのだ。
 正面切って戦うのはこれが最初にして最後になるだろうから、慎重にいかなくてはいけない。
 とりあえず
 テレキネシスでも放って牽制をしよう。
 そう決めた時、その瞬間。

 目に見える範囲にいたはずの原初の魔法少女の姿が消えたのだ。


 「え?」


 何が起きたのか理解するより早く
 目の前が真っ暗になる。


 なぜ?
 その答えはあっさりと出た。
 原初の魔法少女が目の前にいるのだ。
 一瞬、ほんの一瞬の間に自分の目の前にまで来たのだ。瞬間移動? しかし、マリアの能力をコピーされたはずがない。どういう訳だ。困惑するユウキだったが、答えは出た。優希の能力だ。
 原初の魔法少女は、呆気に取られて隙だらけのユウキを見ると自らの勝利を確信した。
 一瞬の隙も与えない。
 剣を持った腕をブンッと振るうと、その先をユウキの腹に突き刺す。服を裂き、肉を突き抜け、内臓を潰して骨に鋭い傷を入れる。一秒も経たずに剣の先端はユウキの背中からひょいと顔を覗かせ、先から紅蓮の滴を地面に染み渡らせる。
 少し遅れて
 ユウキの全身を痛みが支配する。


 「―――ッ!!」


 唇を閉じ、声を出さないように
 それはマリアを心配させたくないという思いから出た物だが
 もう手遅れだった。


 全身が硬直した瞬間に、原初の魔法少女はユウキに刺した剣を遠隔操作すると、刺さったままの格好で飛ばすと、数m後ろにある民家の壁に背中からぶつける。ドゴンッという鈍い音と、剣が刺さるガッという音も聞こえてくる。
 ユウキの串刺しの完成だ。
 マリアはそれを見て顔を真っ青にすると、急いで彼を助け出そうとする。これ以上何も失いたくない、これ以上誰かが死ぬ瞬間を見たくない。本当に一人ぼっちになってしまうのが、本当に恐ろしい。
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
 頭の中がその言葉でいっぱいになって、何も考えられなくなる。
 完全に頭が沸騰していた。

 だがそこに、ユウキの叫び声が響く。


 「待て!!」
 「え?」
 「く


 パチン
 ガオン

 不可思議で、無慈悲な何かがその言葉を遮った。
 そのせいで、ユウキの声が途切れ、虚空へと消えていく。

 何が起きたのか
 それは単純だ。

 原初の魔法少女が空間削除能力を使い、ユウキの頭部を消し飛ばしたのだ。

 何の変哲もない民家の壁に
 まるで蝶国のような首の亡くなった少年の串刺し死体が完成した。

 こんなにあっさり
 死んでしまった。

 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハ!!!!! 死んだァッ!!! 死んだァッ!! 殺したァ!!!!! ハハハハハハハハハハハハ!!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 楽しい!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
 どうしようもなく憎たらしい声が脳裏に響く。

 マリアは
 心の奥底に眠っていた悪鬼が目覚めたことに気がついた。
 絶望に満ち満ちて、どうしようもなく染まり切った顔をして、滝のように涙があふれる目に烈火のごとき怒りの炎を宿らせると、激情に身を任せて口を大きく開いて、今まで出したことのないような大きな声で、大地を震わせながら叫んだ。


 「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!」



 マリアは一転
 非情なまでに冷静になると、何が起きたのか確認してみる。

 すると
 ユウキの死体の右腕がピクリと動いたのが見えた。一瞬上に持ち上がったかと思うと、すぐ重力に引かれてぶらりと下がる。

 「なんで……」

 どうやら強力なテレキネシスを集中放射して、原初の魔法少女の頭部を弾き飛ばし多様だった。
 なぜ?
 どうやって
 すでに彼は事切れているはずなのに

 執念か。
 はたまた怨念か。

 どちらか分からないが
 これはユウキが自分のために生み出してくれた好機であるに違いなかった。


 『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』


 頭を潰され
 視界を失った彼女は苦し気に呻いている。
 死にはしないようだが、こらえきれない苦痛が襲い掛かっているらしい。

 マリアは重力干渉波を一気に放ち、宙を飛ぶと地面すれすれを飛びながら原初の魔法少女の元へと向かって行く。今なら彼女はこちらの姿を検知することができず、攻撃を仕掛けることができる。
 勝機があるとしたら、彼女が再生を終えるまでのこの短い間だけだ。
 全力で叩きのめす。


 「うわぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 これで
 これが
 これを

 最後にする。

 マリアはそう決心した。

 頭を潰され
 視界を失った彼女は苦し気に呻いている。
 死にはしないようだが、こらえきれない苦痛が襲い掛かっているらしい。

 マリアは重力干渉波を一気に放ち、宙を飛ぶと地面すれすれを飛びながら原初の魔法少女の元へと向かって行く。今なら彼女はこちらの姿を検知することができず、攻撃を仕掛けることができる。
 勝機があるとしたら、彼女が再生を終えるまでのこの短い間だけだ。
 全力で叩きのめす。


 「うわぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 これで
 これが
 これを

 最後にする。

 マリアはそう決心した。


 『―――ッ!!!』


 何が起きた。

 原初の魔法少女は暗闇の中、ひたすら痛みにもだえ苦しんでいた。
 頭部が潰された。
 あの魔法少女の姿を確認することはできないが、居場所を感知する程度のことはできる。どうやら彼女はこのわずかな間隙をついて勝負を決めるつもりらしい。

 小癪な

 とりあえず、再生は後回しにすることにして、彼女を迎え撃つことにした。

 殺す。
 彼女にとってはこの戦いも、今までの中の有象無象の一つに過ぎない。
 それでも、全力で剣を交えるつもりだった。



 この時は
 まだ二人とも知らなかった。




 この最終決戦の決着が


 五分も経たずにつくということ。



sage