全てはこの瞬間のために



 五秒も経たないうちにマリアは原初の魔法少女を剣の射程に入れる。
 それに気づいている原初の魔法少女は、どうするべきか少し悩む。見えないせいで狙いをしっかりと付けることができない。それに相手の能力が分からない今、下手に攻撃を受けるつもりにもなれなかった。
 つまり選択肢は一つ
 躱すしかない。
 剣の長さは分からない。だが、戦闘になる前チラリと見た限りはそこまでではなく、片手で扱えるぐらいのサイズ。
 それなら思いのほか簡単にいくかもしれない。

 マリアは腕を力任せに振るうと原初の魔法少女を真っ二つに切り裂こうとする。
 ブンッという宙を切る音がして、刀身がきらめく。その一撃は原初の魔法少女の体を傷つけるかと思われたが、そうはいかなかった。原初の魔法少女はゆらりと揺らめくと、後ろに下がった。
 そのせいで剣はただ虚空を切り裂くだけにとどまった。
 マリアは剣を振るった不安定な姿勢のまま、動きを止めようとする。しかし、何も考えずに放った斬撃だったため、バランスをとることができなかった。一歩足を前に出して、それでやっと静止できた。

 そんなことしている間に原初の魔法少女はまるで取り網のように全身をバッと大きく広げると、黒い霧のようになり、目の前にいるマリアに襲い掛かる。


 「なっ!!」


 思いもよらない攻撃にマリアは対応できなかった。
 そのままその黒い霧に飲み込まれ、押し倒される。鈍い痛みが遅い、衝撃に唇を噛んでしまう。ほのかな血の香りが広がっていくが、そんなこと気にしている余裕はこれっぽちもなかった。
 倒された直後はその霧は質量を持たなかったが、すぐに異変が起きる。
 霧が一気に硬化すると、マリアの胸から腰にかけてを拘束したのだ。まるで岩が地面から生えて、自分のことを捕えているかのように。
 ちょうど肘までが捕まっているので、腕を上げることができない。
 一応魔力の腕は伸ばすことができるのである意味チャンスと言えないこともなかった。

 だが、遅すぎた。
 原初の魔法少女は下半身でマリアを捕まえたまま、剣を逆さに握ると、両腕を空高く上げると、鋭い切っ先をいつでも首に突き刺せるようにする。
 マリアの剣とは対照的に、原初の魔法少女の剣はどす黒く降りかかる日光を全て吸収していた。例え、この一振りがマリアの体を貫いたとして、決して真っ赤に染まることはないだろう。
 まさしく、悪の根源を体現するのにふさわしい剣だった。
 マリアは死ぬかもしれないと思った。

 今から魔力を吸収しようとしても間に合わない。
 敵が攻撃を仕掛ける方が早い。


 「クッ!!」

 一瞬でいい
 一瞬の隙ができれば勝てるのだ。

 それなのに
 マリアは顔を悔し気に歪める。苦し紛れに唾でも吐き掛けてやろうかと思うがやめた。
 万策尽きたか。

 そう思った時だった。



 原初の魔法少女はマリアを拘束し、最後の一撃を繰り出す直前に顔の修復が終わった。

 彼女は
 深い意味のないただの好奇心から、今から抹殺する少女の姿を見てみることにした。魔力感知ではなく、普通の目で。おそらく、達也が残したであろう最後の遺産、彼がこの世界にいたことを示す数少ない作品
 それにどうせ、再生にはまず肉体を戻し、それから粒子化するしかない。直津粒子を集めるだけでは何の意味もない。
 ただの暇つぶしで、ついでだ
 原初の魔法少女はそう決めると
 黒い粒子の下で
 まず人間本来の目を復活させ、こっそり自分が追い詰めた少女の姿を確認する。

 すると彼女の顔が目に入る。
 まるで世界に絶望したかのような暗い目、涙をとめどなく流し、しかしながらその奥には断固とした決意が眠っていた。お世辞に美人とは言えない顔立ち。頭からは長く美しい髪が伸びているようだったが、そのほとんどは体の陰に隠れて確認することができない。全体的に少しやつれているようにも見えるが、気のせいだろう。
 それを見た瞬間

 原初の魔法少女

 否

 アリスは

 まるで金縛りにあったかのように、体の動きをピタリと止めると、

 聞こえるか聞こえないか
 ギリギリの声を

 ぽつりと漏らした。
























 「マリア?」























sage