決着 その②


 ドサリと膝から崩れ落ちる。
 体が限界を迎えていた。
 彼女は気づいていなかったが、その肉体は変調をきたしていた。魔力の過剰摂取だ。顔の半分に黒色の筋がまるで血管のように張り巡らされ、黒目が赤に、白目が紫色に輝いていた。麗装に隠れていてわからないが、左半身は既に真っ黒に塗りつぶされていた。手にしていた剣と、神の先が粒子と化し、フワフワと舞って消えてていく。
 半身原初の魔法少女と名会っていたが、そんなことはマリアに関係なかった。
 彼女は膝立ちになったまま、空を見上げる。
 雲行きが怪しかった。今すぐに雨が降り出してもおかしくないような灰色の雲が視界の全てを覆いつくしている。マリアはそれを初めて感謝した。なぜなら、太陽が出ていたらまともに空を見ることなんてできないだろうから。
 何も映していない目から、とめどなく血の涙を流しながらマリアは小さく呟いた。
 「本当に……これで終わったの?」

 何と表現すればいいのだろうか
 この気持ちを
 この困惑を
 この絶望を
 この悲しみを
 この怒りを
 この悪意を

 意外と答えはあっさりと出た。
 マリアは本当に、聞こえるか聞こえないか、どちらともつかない声で答えを紡ぎだした。


 「つまらない」


 そう
 つまらない

 何が、とはあえて口にしないが、何もかもがつまらない。というかそもそも自分がどうしてこんな場所にいるのか、どうしてこんなことをしているのかさえ分からない。一体自分は何を苦しんでいるのか。
 フレイヤや詩音、デルタに朱鷺、最後にユウキの死を受け入れて、乗り越えてこそいないが受け入れて。それで得た物がこの勝利

 そんなわけがない。
 そんなわけであってほしくない。


 マリアは考え続ける。
 結局自分は何のために世界を救ったのだろう。
 自分のためだと思いたいが、そんなことはない。なぜなら原初の魔法少女を殺した今、それが自分のためになっているとは到底思えなかったからだ。彼女を殺したことで、果たして自分にとって利点があったのだろうか
 答えは単純
 そんなのない。

 逆に失ってばかりで損をしている。
 なら
 どうして?
 自分はどうして世界を救ったのだろうか
 一体、誰がために

 仮に「誰」というのならそれは今世界中で生きている人間のためだろう。これで国連軍――もとい人間は―――戦争に勝つことができるだろう。魔力の供給手段を失った魔法少女たちはただ死を待つことしかできないからだ
 おそらく
 十年もしないうちに戦争の傷跡は消しさられ、あの二人で遊んだ町と同じ光景が、変わらない日常となるのだろう。

 それを見ることができるとして
 マリアはその喜びを誰と共有したらいいのだろうか。
 知っている。
 そんな相手
 もうどこにもいない。


 マリアが完全に自分を見失い、永遠に続く至高の迷路に迷い込んでいた時
 彼女に優しい声がかけられた。

 「マリア」
 「…………」
 「マリアッ!!」
 「……クライシス……?」

 弱々しい声でそう呟き、顔を声のする方に向ける。
 すると、あのいやらしい笑みを浮かべたピエロのようなマスコットがそこにいた。クライシスだ。思い返してみると、彼と顔を合わせるのが久しぶりなような気がする。それが錯覚なのか、現実なのかマリアには判別が付かなかった。
 彼はやけに慌てた様子でマリアに話しかける。


 「すまない、ちょっと心配ごとがあって少し離れていた」
 「……………そう」
 「この様子だと……原初の魔法少女を無事、殺すことができたんだね」
 「…………だから、何って感じだけど……」
 「それはまずいな」
 「え?」
 「悪いことは言わない。マリア、今すぐこの場を離れるんだ」
 「何を言って……」


 クライシスが何を言っているのか理解できない。
 それは言葉の意味が分からないというよりも、その言葉が頭の中に入ってこないのだ。無意味な言葉が無意味に自分の周囲を浮遊している。そのため、耳から脳内に入り込まないのだ。
 クライシスはそれが分からず、ただ単にマリアがボーッとしているだけだと思い、苛立った。


 「早く!!」
 「え、えぇと」


 よく分からないことを呟きながらなんとか体を動かそうとするマリア
 だが、うまくいかない。
 理由は分からないが、どうにも体が動かないのだ。どうやら体は動くことを拒否しているらしい。今のマリアに、それを無理矢理動かせるほどの気力はなかった。せいぜい、指一本動かすのが限界だった。
 彼女はクライシスに目を向けながらこう呟いた。


 「ねぇ、どうして私は戦ってたの?」
 「なんだい、突然」
 「これで本当に終わったの?」
 「……ある意味では、これから始まるのかもしれない」
 「……今、なんて?」


 クライシスの声のトーンがガクッと落ちた。
 何か、自分は聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして
 マリアは初めて興味をひかれた。


 そのせいか、彼女は気がつかなかった。
 通りの向こうから、自分に向かってやってくる国連軍の部隊の存在に


sage