一騎当千 その①


 「ここがお前の部屋だ」
 「あ、そう」
 「案内してやったんだから、ちょっとぐらい愛想よくしろよ」
 「うっさい、ユウキ」
 「悪かったな。マリア」


 軽口を言い合う二人だが、どうもマリアの元気がない。顔をうつむかせて上の空で返事を返している。その反応に何となくつまらないものを感じるユウキだが、その気持ちがよく分かるので何も突っ込まない。
 自分もそうだった。
 実験体二号として三年前に生まれたユウキは、生まれてすぐに自分の能力を使いこなすことに成功していた。
 その分聞き分けもよかったのだが、不満は常に感じていた。
 戦うことは楽しい、楽しいが、それで終わりだ。
 それに、戦うことは自分の義務なのだ。生きるためには戦わなくてはいけない。
 それゆえか、どれだけ殺しても心があまり満たされない。


 マリアは今、色々なことが立て続けに起きて混乱しているうえ、人間であることを否定されて落ち込んでいる。励ましたいところだが、そんな気の利いた言葉は思い浮かばない。デルタがいれば任せるのだが、彼女は達也の助手も兼ねているのでここにいない。
 無言のまま達也は機器を操作して扉を開くと部屋の中にマリアを案内する。
 部屋は無機質なものだった。
 白い壁に二段ベッドが中央に一つあり、それを挟んで対照的に机と椅子、本棚が置かれていた。窓はなく、まるで刑務所の一室のようだった。部屋の広さも必要最低限しかなく、見ているだけで息が詰まるのが分かった。
 ユウキは先に部屋に入ると、左側にある椅子に座った。それを見て、マリアは困ってしまう。本当にここは自分の部屋なのか、ならどうしてユウキは何の躊躇もなく入っていったのか
 そんなことを考えていると、ユウキが顔を向けると言った。。


 「おい、入れよ」
 「え? ここ、私の部屋?」
 「おう。相部屋」
 「え、ヤダ」
 「わお、即答」


 何が悲しくてこんな奴と同じ部屋で暮らしていかなければならないのだろうか
 ただでさえ気分が落ち込んでいるというのに、これ以上嫌な思いはしたくない。だが、仮に部屋を変えるとしたら達也に会いに行って頼まなくてはいけないのだろう。そう考えると吐き気がしてきた。
 だったらまだ勇気と同じ部屋の方がマシだった。
 渋々ながら部屋に入ると布団の上に突っ伏す。下のベッドは布団がグシャグシャになっていたのを見る限り、ユウキが使っているのだろう。必然的にマリアは上の段に上がることとなった。


 「うー……もうヤダ」
 「生まれた日にこんな目にあうなんて災難だとは思うよ。うん」
 「同情なんていらない」
 「まぁ、その気持ちはわかるよ」
 「じゃあ最初っからしないでよ、馬鹿」
 「うっせー」


 無意味に軽口をたたきあうが、すぐに会話がぴたりと止まる。
 しばらくの間、静かに時間が過ぎていく。
 マリアはジッと考え込んでいたが、あることを思い出すとユウキに尋ねてみる。


 「ね、一つ聞いていい?」
 「どうぞ」
 「ここにいる魔法少女って、どんな人たちなの?」
 「あー、あの三人ね。すごく強い人たちさ」
 「そうなんだ。会ってみたいな」
 「今頃戦っているところだな」
 「敵は何人?」
 「五〇〇人ぐらい」
 「多くない!?」


 驚いたマリアは跳ね起きると顔をのぞかせる。
 椅子に座っていたユウキも顔を上げると上から見てくるマリアと視線を合わせる。そんなおかしな格好で会話を始める二人


 「え、え? 多いでしょ、それ」
 「大丈夫。あの人たちは一騎当千だから」
 「へー、余計興味が湧いて来た」
 「ま、帰ってきたら会えるさ」
 「少し、楽しみだな」


 翼の少女がまるで軍隊のように隊列を組んで進んでいる
 その先頭には二人の魔法少女が並んでいた。一人は気の弱そうな子で、もう一人は髪を色とりどりに染め、チャラチャラした雰囲気を身にまとっていた。彼女たちは原初の魔法少女側についた魔法少女達である。
 彼女たちは研究所を攻略するために動員されたのだ。
 誰もいない大通りを足音を響かせて、ゆっくりと進んでいた。
 それはまるで葬列のようだった。


 そんな軍隊を見下ろす三人の少女
 「たった五〇〇人だってね」
 「楽勝っすよ、これぐらい」
 「…………」
 そんなことを呟きあう。
 彼女たちは既に勝利を確信しているようだった。


 顔を青くして、辺りをキョロキョロと見渡し、警戒を続けていた魔法少女は、やがて自分たちを見る魔法少女たちに気が付いた。隠れようとしているようにはこれっぽちも見えず、堂々と立っていた。
 逆光のせいでうまく姿を見ることができなかったので、ピタリと足を止めるとじっと目を凝らす。
 それに合わせて後ろに並んでいた翼の少女と、一緒に歩いていた魔法少女の足が止まる。


 「おい、サン。なんで止まってるんだよ」
 「え……あの、ごめんね……椎名。あれ……何かな?」
 「マジあり得ないんだけど、この木偶の棒」
 「ごめんね、ごめんね」


 そう言って頭を下げるサンと呼ばれた魔法少女
 椎名と呼ばれた方は面倒くさそうに顔を上げながらブツブツと文句を言い続ける。
 ふと、どこからともなく第三者の声が聞こえてきた。


 『おいてめぇ、サンを馬鹿にするんじゃねえぞ』
 「……ルナは黙ってなさいよ」
 『オレに文句を言うんじゃねぇ、あれを見ろってんだ』
 「分かった」


 呆れた声で頷く椎名
 目を細めてジッとビルの上に立つ三人の影を見る。
 それが魔法少女であることに気が付くのにそう大して時間はかからなかった、だが、それが誰かまでは分からない。援軍か、もしくは敵か。いぶかしげな顔をする椎名。一方のサンは不安で顔をさらに青くしていった。
 しばらくの間、膠着状態が続いていた。
 しかし、ビルの上の少女のうち中心に立っていた一人がゆっくりと口を開くと話しかけた。


 「久しぶりね、サン」
 「―――ッ!?!?!?!?!?!?!? そ、……そ……その……声は……まさか」
 「そうよ、私よ」


 少女が地面に降り立つ。
 大人っぽい雰囲気を身にまとい、鮮やかな夜の色をした麗装を身にまとっていた。装飾に無駄こそなかったが、決して味気ない物ではない。中々独特なものだった。両手にはがら空きで武器は何も持っていなかった。
 彼女こそ、世界最強の魔法少女と呼ばれるフレイヤだった。
 サンはフレイヤの顔を見た瞬間に顔面蒼白となる。もう青いなんた生易しいものではない。もう半分気絶しているようなものだった。
 フレイヤは久しぶりに見る懐かしい顔に笑顔になってしまう。
 だがいつでも攻撃できるようにしている。全身から殺気が放たれているのがよく分かった。
 椎名はこの一年で生まれた魔法少女なので、フレイヤのことを知らなかった。それは、ある意味では非常に幸運と言えた、なぜならサンのように怯えることなく堂々と話すことができるからだ。
 声を荒げ、中指を立てると無謀にもフレイヤに向かって挑発を始めた。


 「誰なのよ。このクソビッチは」
 「椎名……やめて……」
 「ハッ!! 何をビビってんだよ敵はたった一人、こっちは五〇〇人だぜ」
 「…………無理、勝てないよ……だって……彼女は一騎当千・百花繚乱のフレイヤだよ」
 「なんだそのダサい異名は」


 そう言って鼻で笑う。


 三人が決して和やかとは言えない会話を続けている間に、残った二人も降りてくる。


 「フレイヤさん、何やら楽しそうじゃん」
 「なんだ、このこてこてした女は」
 「詩音、朱鷺、私たち舐められているわよ」
 「へー、いい度胸じゃん」
 「命知らず」


 不敵にそう言い放つ二人
 詩音は不思議なデザインをした近未来の戦闘服のような麗装を身にまとっていた。朱鷺は七節棍を手にしており、いつも通り和服のような麗装を纏っていたが、一つだけ一年前と違う点があった。

 左目だ。

 しっかりと閉じられた瞼の上に、一本の古傷の痕があった。
 失明しているのだ。魔法少女の能力を利用すればすぐにでも修復できるのだが、あえてこのまま残してある。
 三人は余裕の態度で敵を見下している。
 サンはもう限界だった。


 「うそうそうそ………詩音に朱鷺まで…………もう終わりよ……」
 「うん? お、よく見るとサンじゃねぇか。ルナは元気か?」
 『元気だぜ』
 「ふむ……相変わらずか」


 さも当たり前のようにどこからともなく聞こえてくる会話する二人
 椎名はこの三人が誰だかわからず困惑している、このままでは話にならないのでサンに尋ねようとする。だが半分気を失っているのに気が付く。これでは聞くことができないので、肩を揺らすと何とか目覚めさせようとする。
 それは見事成功し、サンは正気を取り戻す。
 彼女はハッとした顔をするものの、再びフレイヤの顔を見て意識が飛びかける。


 「木偶の棒!! 彼女たちは誰!?」
 「……あ、ああ……あの三人は……高名な魔法少女よ……右から冷血の詩音、先ほど紹介したフレイヤに……一寸木朱鷺まで……」
 「何それ、聞いたことないんだけど」
 「あなたは……知らなくて普通………でも、私は彼女たちの強さを知っている」
 「え?」
 「三年前…………共闘したことがあるんだけど……その時…………彼女たちはすさまじかったの……」
 「へー、ま、関係ないけどね」
 そう言ってダガーのような形状をした武器を顕現するとそれを構える。だが、三人ともにやにやといやらしい笑みを浮かべたまま、ピクリとも動こうとしない。サンはこの場から逃げ出したい気分でいっぱいだった。
 椎名は負ける気がしなかった。


sage