一騎当千 その②



 フレイヤに向かって今度は親指を下に向けると言った。


 「あなたがどれだけ強かろうと、この五〇〇人の軍勢に勝てると思っているの? サッサと諦めたら?」
 「あら、じゃあ私は一分で殲滅してあげるわ」
 「ハッ!! 強がりを」
 「これを見てもそう言えるかしら?」


 そう言って腕を上げる。
 すると空中に大量の重火器が生み出された。空を埋め尽くすほどのそれは、全て同じタイプのアサルトライフルだった。数多の銃口が翼の少女たちに向けられる。日光が遮られ、辺りが深夜のように真っ暗になる。
 椎名は顔を上げると「え?」と小さく呟いた。
 サンはフレイヤが動くと同時に地面を蹴って飛び出すと、どこかへと消えて言った。それを見た詩音は「待てこの弱虫が!!」と言ってその背中を追いかけていった。二人はあっという間に視界から消える。


 「クスクス、終わりね」
 「――ッ!!」


 間一髪、椎名は正気に戻るとこの場から離れる。
 フレイヤは追うこともできたが、あえてしない。
 その代わりに朱鷺が椎名のことを追って行った。
 翼の少女たちは身の危険を察したのだが、明らかに反応が遅かった。彼女たちは司令官――今は椎名――の命令でしか動かないので、自発的に逃げることができない。それなのに椎名は何もせず逃げてしまった。


 今の翼の少女たちはただの的だった。
 フレイヤはサッと腕を振る。すると、冷たく重い引き金があっさりと引かれると、雨あられのように鉄の嵐が襲い来る。翼の少女たちは無機質なそれに全身をずたずたに引き裂かれ、次から次へと死んでいく。
 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガという耳をつんざくような轟音が響き渡る。
 風に乗り、視界を奪いつくすほどの粒子が舞い散る。一年前までなら銃弾が周囲の物を傷つける前に銃弾を消し去るのだが、もう気にすることはない。ただのゴーストタウンだった周囲の風景が完全に激戦区のそれになる。


 一分と宣言したが、実際はそこまでかからなかった。
 圧倒的な暴力が一瞬の間にこの場を支配し、蹂躙すると消えていく。
 フレイヤはサッと手を振るとすべての銃を無に帰す。空が晴れ渡り、再び明るい日光が周囲を満たす。するとさっきまで翼の少女がいた場所が、はっきりと見えるようになる。さっきまで何の変哲もない道路だったが、すっかり荒れ果ててしまった。


 「十秒もかからなかったわね」


 楽勝だった。
 勝利の余韻に浸りながらどうするべき考える。
 詩音や朱鷺の手伝いに行こうかと思うが、すぐにその考えは吹き払う。彼女たちはベテランで、一人で十分に戦える。おそらく下手に手を出すと邪魔になるだけだろう。とりあえずは敵の援軍が来るかもしれないのでそれに備えることにした。
 顔を上げて空を見上げてみる。
 失った人がそこにいることを期待して。
 だが、今日も今日とて代り映えしなかった。


 「…………」





 「待てくらぁ!!」
 「ヒィィィィィィ!! 誰か助けて!!!」


 悪魔のような笑みを浮かべながら、泣き叫ぶ少女を追いかける詩音
 完全に危ない人だった。
 かれこれ五分間はこんな追いかけっこを続けている。二人とも限界ギリギリの速度を出して宙を飛んでいるのだが、どうしても埒が明かない。サンは捕まるわけにいかないし、詩音は詩音でここで引いたら名が廃る。
 だが、これではいたちごっこだ。
 見かねたルナは声を上げる。


 『おい、サン』
 「な、何よ………こんな状況で何!?」
 『このまま逃げ続ける気か?』
 「そ、そ、そ、それは……」
 『いいから迎え撃つぞ』
 「で、でも……」
 『オレがやるから』
 「…………」


 速度を落とすことなく考え込むサン
 ルナの言うことはもっともだった。
 このまま逃げ続けることはできないだろう、だったらここらで腹をくくって撃退した方がよさそうだった。幸いにも詩音一人だけだし、ルナがやる気になっている。サンでは勝てない相手でもルナなら可能性がある。
 そう結論づけると、小さく頷く。


 「分かった、行くよ」
 『オーケー、俺の出番だ』


 二人の声がぴったりかあさなる。
 それと同時にサンの顔に異変が起きる。気が弱い少女の顔がグニャリと歪むと打って変わって色の黒い、男勝りな顔に変わる。それと同時に麗装も形を変えると、病院の白衣のような物から西部劇のカウボーイのような物になる。
 何も持っていなかった手には古めかしい二丁の拳銃が顕現され、体つきまでもがガラリと変わる。
 詩音はそれを見て「チッ」と舌打ちして呟いた。


 「クソッ……ルナが出て来たか」
 「ヘイヘイヘイヘイ!! オレの時間が来たぜ!!!」


 完全に別人へと変化した。
 これがサンの能力だった。
 ルナという少女は動きを止めぐるりと空中で向きを変えると二つの銃口を真っ直ぐ向ける、寸分たがわず頭部に狙いがつけられていた。詩音も一旦動きを止めると、掌に魔方陣を形成する。
 そしてそこから巨大な氷の塊が生み出される。
 「久しぶりだなぁ、ルナ」
 「東雲ぇ……容赦しねぇからな」


 メンチを切りあう二人
 ガンガンと銃声が響き渡る。
 二発の弾丸が宙を切り向かって行くが、それらは全て吸い込まれるように氷の塊に命中する。その瞬間に詩音は氷を投げ捨てると、上昇し、そこから攻撃を仕掛けようとする。
 ルナもそれを察していた。
 なので次は銃口を上にあげると待ち構える。
 すると、予想通り射線の先に詩音の姿が見える。


 「へっ!! 甘い!!」
 「どっちが、かな」
 「んなっ!!」




 ルナが引き金を引く直前
 詩音が動きを見せると、掌から鋭く太い氷の氷柱を超高速で伸ばしていく。それで視界を遮られ狙いをうまいことつけられなくなる、無理矢理にでも撃とうと思えば撃てるのだが、そんな軽率な行動はとりたくなかった。
 しょうがないので右に飛ぶと、氷柱を回避し、少し離れたところにある大通りに降り立つ。
 詩音もそれを見て氷柱を切り離すと、ルナを追いかけてそこに立つ。
 再び相対する二人


 「やるじゃん」
 「オレを舐めるんじゃねぇぞ」
 「舐めるわけないだろ、お前は強い」
 「じゃ、死にな」


 そう言ってルナは銃口を地面に向ける。
 まるで戦うことを放棄しているような行動だが、詩音はヤバいという顔をして身構える。ルナはそれを見てニッと笑った後、連続で引き金を引くと銃弾をいくつも放つ。それらは地面に向かって行くと、そのままめり込んでいく。
 普通ならそこで動きが阻害され、銃痕だけを残こる何の意味もない行為だが、ルナに限ってそんなことはなかった。
 銃弾は動きが止まることなく、魚のように地面に潜っていく。
 詩音は地面を蹴って飛び上がると、両手から程よい長さの氷の剣を生やした。何かをされる前に接近戦で叩きのめすつもりでいた。だが、それに対抗するようにルナも飛び上がると、向かって来る。


 「死ねぇ!!!」
 「お前がな!!」


 詩音は間合いに入ったのを察すると腕を振るう、冷たい剣がヒュッと宙を切ると寸分違わず首元を狙う。
 それを見たルナは思いっきり足を上げると履いていたブーツで氷の剣を跳ね上げた。だが、すぐに二撃目が襲い掛かる、左腕の剣の先を向けると思いっきり突き出される。しかしそれはルナの予想通りだった。
 右手の拳銃でそれを弾き飛ばすと、少し後ろに下がる。
 攻撃を全てかわされた詩音はしょうがないので氷の剣を外すと、もともとの自分の武装であるハンマーを顕現し、勢いよくそれを振るった。
 だがルナは両腕にシールドを集中させ、それをクロスさせるとハンマーを受け止めた。鈍い衝撃が襲い掛かってくる、骨が折れたか筋肉を傷めたか。どっちにしろ最悪の事態は避けることができた。


 「クッ!!」
 「痛いかな? 痛いよなぁ!!」
 「余裕だねー。オレの能力を忘れたか?」
 「うん? そういえばそろそろか」


 詩音はそういうと顔をうつむかせて地面を見る。
 すると、そこから銃弾が飛び上がってくるのが見えた。ルナの能力は銃弾を物体内部に潜行させて、自分の好きなタイミングで好きな場所から出すことができるのだ。自分の真下から襲い掛かツいくつもの銃弾を見て、詩音は少し焦る。
 思ったより距離が開いていなかった。


 このままでは回避は難しい。
 そう判断した詩音は両手から高速で氷を発生させる、それは一気に自分の周囲を囲うように広がっていく。それは銃弾が命中する直前に氷の球体となり、宙に浮かぶ。まるで小さな星のようだった。
 銃弾は全てその氷の壁に命中し、そこで完全に動きが止まる。
 バキッ、バキッという何かがめり込む音が聞こえてくるが、ここまで来ないという自信があるので慌てない。
 ルナの能力は銃弾を最初に命中した物体内部に潜行させるというものだった。どこから来るか分からない銃弾というのが売りなのだが、弱点として二回目に命中した物体には潜行できない。
 それが分かっているので、詩音は外に出ようとする。


 「…………」


 その直前、少し嫌な予感がした。

sage