災厄



 ある日の事
 災厄が天から降って来た。


 『原初の魔法少女捕獲及び抹殺計画』が終わってから一か月も経たない間にそれは起こった。始まりは何の変哲もないある日の午後だった、何一つとしておかしいことのないオフィス街に彼女たちは舞い降りた。
 始めそれに気が付いたのは母親と買い物に来ていた一人の少年だった。
 何の気もなしに顔を上げた少年は、いつも明るい太陽に何か影のようなものが入っていることに気が付いた。その影はゆっくりと大きく、数を増やしていっているように見えた。まるではっきりと目に見える黒い黒点がいくつも現れているようだった。
 だがそんな難しいことは年端も行かない少年には分からない。
 ただ、それらが段々としっかりとした姿を現していくのに興味を惹かれ、ジッとそれを眺め続けていた。
 母親に手を引かれて歩いていたのだが、足を止めて見つめ続ける。それに気が付いた母親も足を止めると、まずは少年に向かってこう囁いた。


 「こー君、何が見えるの」
 「てんしさーん」
 「え?」


 惚けた声で母親もそう呟き、一緒に顔を上げてみる。
 すると確かに天使だった。

 少し派手な制服のような服を着て、背中からは純白の翼を生やしていた。その手には日本刀にもよく似た刀を握っており、顔には陶磁器で作ったような真っ白な仮面を被っていた。それは顔全体を覆い隠すようなデザインをしていた。そのため、彼女たちはまるで顔が削げ落ちたかのように見えた。
 また、彼女たちは全く同じ姿かたちをしており、まるでクローンのようだった。
 彼女たちは翼をはためかせ、白い羽を撒き散らしながらゆっくりと地面に向かってくる。


 しかも、一人や二人ではない。
 何十人、何百人、いやそれ以上かもしれない
 それだけの数の異様な姿をする天使が天から湧いて出たのだ。
 それは非現実的でどことなく幻想的な光景だった。
 やがてその異変に気が付く人間が何人も出てきた。
 確かに上空での出来事だったが、一度気が付くとそれは目を引く光景で、足を止めてでも一瞥する価値はあった。一人が顔を上げると周りの人たちも顔を上げる、こうして連座は続いていき、一人一人と増えていった。


 十分もする頃には見渡す限り、ありとあらゆる人たちが天を見上げていた。
 大衆の視線が突き刺さる中、天使の一人がゆっくりと地面に降り立つ。そこにも人々はいたが、まるで海が引くようにその場から離れていき、小さな円形の隙間が空く。
 一番最初にやって来た天使は優雅にその場に降り立つとピタリと動きを止める。
 ピクリとも体を動かすことなく、じっと前を見る。仮面には穴が空いていないので、どう考えても景色が見えているとは思えなかったが、まるで目の前にいる誰かを凝視するかのようだった。
 やがて、五分もしないうちに半分ほどの天使が地面に降り立つ
 彼女たちは一人たりともピクリと動かない。その姿はまるで彫像のようだ。



 「何あれ」
 「イベント!?」
 「あれ……写真に写ってない?」
 「アハハハハ!! ほんと人間みたい、ウケる―」




 そんな声が辺りから大量に上がる。
 だんだん言いようも知れぬ恐怖感、未知の存在と出会った不思議な感覚に慣れていったのだ。目の前にあるのが全く持って別次元の怪物ではなく、何かここにあるものだという認識が芽生えてきたのだ。
 やがて人々は持ち前のマイペースさで完全にこの状況に適応していった。
 写真に撮りツイッターに上げる、電話で友達に話して見に来るように誘い始める。
 どこにでもある日常の一コマがそこには切り取られていた。


 だがそれも終わりを告げる。
 空中に新たな影が現れる
 全身真っ黒で顔には赤い二つの目が怪しく光っている。まるで不定形の体に、どす黒い剣を握っていた。風が吹くたびに魔力のかけらが吹き飛ばされ、キラキラとした光の尾を描いていく。
 それは原初の魔法少女だった。
 彼女はゆっくりと剣を天に掲げると誰にも届かない声で言った。


 『さぁ……世界よ、終われ』



 それと同時に地面に降り立った一人の天使が刀を振るうと、目の前にいた少年の首を切り飛ばした。
 まるで豆腐でも切るかのようにあっさりと首が飛ぶ、惚けた顔のままの少年の生首が宙を舞いゴロリと転がる。傷跡から血が噴き出すと、そのまま体から力が失われ、ゆっくりと崩れ落ちていく。
 あっという間の出来事に誰も反応できなかった。


 隣にいた母親も顔の半分を血で染めたまま、前を向いたままピクリとも動かない。
 だがそれも一瞬のことだった。


 「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


 誰の物か分からない悲鳴が上がる。
 それをきっかけとして周囲の天使たちも刀を振るうと手近にいる人を殺し始める。




 一分も経たないうちに柳葉町は悲鳴と死体があふれる凄惨なことになっていった。さっきまで周囲を満たしていた排気ガスのにおいや、汗のにおいは鉄のにおいでかき消されていく。
 死体がごろごろと転がり地面を埋め尽くしていく。パニックに陥った人々が歩道から車道に飛び出したせいで事故が起こる、飛び出した人を回避しようとして車がハンドルをきると隣の車線の車に激突する。
 あっという間に大惨事へと発展する。
 平和な町が阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌する。

 実は、ここにいる人たちは知らないことだが、この現象は世界中で起こっていた。アメリカ、ロシア、中国、世界各国の主要都市で天使のような姿をした少女たちが降り立つと大虐殺を始めたのだ。
 それこそ手当たり次第に無差別殺人だった。
 すぐに警察も出動したが、どういう訳かこの天使のような少女たちは不思議な力を持っており、警察では手も足も出なかった。


 後にこの事件は世界同時大虐殺と呼ばれる伝説となり、魔法少女大戦の始まりとなった。
 そしてこれが原初の魔法少女復讐の始まりだった。


 戦いが始まって数か月
 人類にはなす術がなかった。
 陶器の仮面を被った量産型魔法少女に加えて、仮面を被らず独自の能力を持ち、それぞれ違う不思議な服を身にまとった悪魔のような魔法少女達。さらに、それだけではなく影のようなどす黒い体を持つ絶望少女という怪物
 彼女たちが一斉に人類に牙を剥いたのだ。


 既存の武器が殆ど通用しない彼女たちに各国の精鋭の軍隊も歯が立たなかったのだ。
 降伏し支配下に入ると表明した国もあったが、原初の魔法少女率いる魔法少女軍はそれらを一切聞き入れることなく侵攻を続けた。慈悲などどこにもなかった、人間は片っ端から殺されていった。
 世界中が危機感を抱いていた。
 だが、どうすることもできなかった。


 核を撃つと宣言した国家もあった。
 そこまで追い詰められていたのだ。





 ところが、その状況を一人の科学者と彼のもたらした情報と技術が一転させた







sage