一騎当千 その③



 一瞬だけ躊躇した後、球体の一部に穴をあけ、そこから出ようとする。顔を上げてみてみると、ルナが狙いすましたかのようにそこで銃口を向けている姿が飛び込んできた。


 「おっ!?」
 「ざまぁ!!」


 勝ち誇った笑みを浮かべて引き金を引くルナ
 詩音は穴から半分身を乗り出した状態でいるので簡単には回避することはできない、
 これは予想通りのことだった。


 ルナにとっても、詩音にとっても
 銃弾を放った直後、ルナは違和感に包まれた。その正体がわからず眉をひそめるも、すぐに気が付いた。詩音の姿がどうにもおかしい、体を起こしてからピクリとも動こうとしないのだ。
 このままではただ撃ち殺されるだけなのに
 ところが、その理由まで分からない。答えが見つかる前に銃弾は詩音に命中する。能力を発動しなかったため、銃弾は普通に詩音の顔面に吸い込まれていく。そこまでは何の問題もないように思われた。


 しかし、着弾した瞬間にあからさまにおかしい音が鳴り響く。
 肉に当たるグチャという肉が潰れる音が響くはずなのだが、そうではなくバキンッという硬いものが砕ける音がした。
 それと同時に詩音の姿がばらばらになると、そのまま砕け散った。


 「なっ!! 氷!?」
 「せいかーい」
 「後ろッ!!」


 待ち伏せされていることを察していた詩音は、身代わりを作り、こっそりと後ろに作った穴から抜け出たのだ。そして、隙をついてルナの後ろに回り込んだのだ。完全に予想の範囲外だった。
 急いで振り返ろうとするも、間に合わない。
 詩音はハンマーを振りかぶると、それでルナの顔面を殴り飛ばそうとする。


 「死ねっ!!」
 「―――ッ!!!」
 『ルナっ!!』


 サンの叫び声が響く
 それと同時にルナの背中から、いきなり人間の上半身が生えてきた。顔が青く、幽霊のような白い麗装。手には楯のようなものを握っていて、それをしっかりと構えていた。詩音はそれに向かってハンマーを叩きつける。
 ガギンッという鈍い音が響き、ハンマーを弾き飛ばすことに成功したが、同時にサンの体も大きくのけぞってしまう。
 鈍い衝撃に両腕が悲鳴を上げる。
 だがそれでも必死に声を上げるとルナに呼びかける。


 「今の隙に急いで!!」
 「ありがとよ!!!」
 「チッ!! そう来たか!!」


 詩音も何とか態勢を立て直すと、すぐに攻撃を仕掛けようとするがその前にルナは間合いから離れる。その間ずっとサンはルナの背中から生えたままの格好で、詩音の方をじっと見ていた。
 その姿はまさに異形の怪物だった。
 ルナは動きを止め、もう一度銃口を向けると今日一番の笑顔で言った。


 「ありがとな、おかげで助かったぜ」
 「気にしないでよ……私たち……二人で、一人じゃん」
 「そうだったな」


 詩音は一度ハンマーを消すと、両手に魔方陣を形成する。
 そして悔しげな顔で叫んだ。


 「畜生!! 忘れてた!!」
 サンは他人を自分の体内に隠し、入れ替えることができる能力を持っている。ルナはその能力でサンの内部で居候しているのだ。二重人格などという物ではなく、二人は完全に他人なのだ。
 二人は詩音と相対する。一種の均衡状態に入る、お互いどうやって動くのか探りあっているところなのだ。
 そこで、サンが提案する。


 「ね、あ……あのー、詩音……さん?」
 「なんだよ」
 「こ、ここは引き分けにしませんか?」
 「あぁん!? 何言ってんだ。てめぇ!!」
 「そうだぜ、サン。俺も反対だ」
 「………見てよ……ルナ」
 「うん?」


 空を指さすサン
 つられて二人が見上げると、大量の翼の少女が向かって来るのが見えた。どうやら援軍らしい。ルナはにやりと笑うが、それとは対照的に悔しげな顔をする。非常にまずい状況だった。
 サンとルナだけが相手だったらまだ何とかなるが、ここに翼の少女の大群もやってくるとなると難しい。ただ単に面倒ということもある。
 ここはサンの言う通りにした方がいいのかもしれない。
 そう判断し、詩音は頷くと言った。


 「分かった。ここは引くわ」
 「……あ、ありがとう!!」
 「チッ!! しょうがねぇな」
 「じゃ、じゃ、じゃあ、私が表に出るね」


 そう言って、ルナの姿が変化するとサンに戻る。
 詩音はそれを見届ける前に背を向けると、さっきまで戦っていたところに向かって飛んで行く。約束通り、サンはその後を追いかけることなく、ジッと滞空していた。彼女はとりあえず身の安全が確保できたことを喜んでいた。
 体内ではルナが文句を言っているが、それはしょうがないとあきらめることにした。


 「……いつまで……続くのかな……」
 『あぁ!? なんか言った!!??』
 「う、ううん……何でもないよ。帰ろ」
 『チッ……しょうがねぇな』


 その言葉を最後に、二人も宙を舞うと翼の少女達の方へ向かって行った。
 




 一方、椎名は朱鷺相手に苦戦を強いられていた。
 何年も魔法少女として戦ってきて、フレイヤでさえ名前を知っている超ベテランの朱鷺がこの一年で生まれた椎名に負けるはずがない。力量に差がありすぎるのだ。戦闘が始まって早五分、椎名は完全にもてあそばれていた。
 七節棍をヌンチャクのように自在に操り、いつでも攻撃を仕掛けられるようにしている。その割には疲弊しきって、膝をつきうなだれている椎名に対して何もしようとしない。いつでも殺せると言わんばかりの態度だった。
 それに気が付いている椎名は非常に顔を歪ませている。

 屈辱的だった。

 何とか痛みが収まってきたので、ゆっくりと体を起こし立ち上がる椎名。そしてダガーを構えなおし、鋭い切っ先を向ける。雲の隙間から差し込む日光を反射して、きらりと輝く。彼女はまだ、諦めていなかった。
 その姿を見て朱鷺は哀れそうに呟く。


 「諦めた方が賢明だと」
 「う、うるさい……黙ってろ」
 「ふむ……ならいいだろう。引導を渡してやる」


 いい加減飽きてきた朱鷺はもうさっさと終わらせることにした。
 バラバラにしていた七節棍をヒュッと一振りすると、元通り一本の棒状に戻す。そして、両手でしっかりと握りなおし、しっかりと構えを取る。
 椎名も腰をかがめるといつでも突っ込めるようにし、同時に能力を発動する。
 すると椎名の姿が掻き消える。その上、まるで分身でもしたかのように周囲に何人もに分かれた。だが、全員がまるで鏡合わせのように全く同じ格好をしており、動きが完全にシンクロしていた。
 朱鷺は既にこの能力を見切っていた。


 「そんな子供だましが通用するとでも?」
 「私には、これしかない」
 「そうか」
 「いくぞ!!」


 椎名はそう叫ぶとまっすぐ朱鷺に向かって突っ込む、すると同時に何人もの椎名が全く同じ様に動く。
 これではどこから攻撃を仕掛けられるか分からない。
 だが朱鷺はピクリとも動かない。視線をチラッと左に向ける、潰れているため見えないが、そこに椎名がいるはずだった。人の影一つとして見えなかったが確信があった。目の前にいるのは偽物だ。
 その理由は、地面にまき散らしておいた式神である。
 パッと見では何も見えないが、左側にある数枚がグシャッと何かに踏まれているのが分かる。一方で周囲に何人もいる分身が踏んでも何も起きない。
 椎名の能力は光を屈折させて自分の姿を消して、別な場所に投影することができるのだ。つまり、周りにいる分身は全て実体がない。
 本体は左から襲ってきている。おそらく、失明している左目の死角を狙っているのだ、その心は分からなくもなかった。
 同じ状況なら、自分でもそうする。
 それゆえ、予測しやすい


 「死ね!!」
 「フンッ!!」


 椎名がいるであろう虚空に向かって七節棍を突き出す。
 すると狙い通りガッという鈍い音がして、椎名の苦し気な「クッ」という声も聞こえてくる。どうやら当たった感触からすると、ギリギリダガーで受け止めたようだった。一発で仕留められず少し残念に思う。
 ほとんど同時に椎名の分身がまるで幽霊のようにスルリとすり抜けていく。


 「子供だましはやめろ」
 「………そうみたい」


 そう呟くと能力を解除して、ゆっくりと出てくる。




 朱鷺は少しも力を抜くことなく七節棍を突き出し続ける、それを抑えるので精一杯なのか、一歩も動くことができないでいる。
 均衡状態に陥る二人
 その隙に、椎名は朱鷺に話しかけた。


 「あんた」
 「なんだ」
 「どうして戦うんだ?」
 「ふむ。どういう意味かな?」


 質問の意図がよく分からず、首を傾げる朱鷺
 椎名はそんな朱鷺のことなど一切気にせず言葉を続ける。


 「知ってるでしょ!? 魔法少女は不幸だってこと!!!」
 「知ってるが?」
 「私たちを不幸にしたのは何だと思う?」
 「教えてもらおうか」
 「世界だ!!」


 顔を真っ赤にし、思いっきり歪ませるとそう叫んだ。もし視線で射殺せるなら、既に朱鷺は無様に死んでいるだろう。そう思わせるぐらい椎名は鬼気迫った顔をして、必死に言葉を吐きだし続ける。


 「私たちを不幸にしたのは、この世界だ!!」
 「ほぉ」
 「私が戦う理由は復讐だ!!! 不幸にした世界に対する!! 報復だ!!」
 「ご立派だな」
 「そういうあんたはどうして戦っているんだ!!」
 「ふむ…………」


 朱鷺はそう呟くと、七節棍を跳ね上げていともたやすくダガーを弾き飛した。その勢いに負けた椎名はバランスを崩すと、一歩後ろに後退ってしまう。その姿は完全に隙だらけだった。
 それだけではなく、朱鷺は式神を操ると椎名の体をグルグルにまいて動きを制限する。体の八割がミイラのようになってしまい、ピクリとも動けなくなる、完全に拘束されてしまった。
 その後、朱鷺は椎名の目の前に棍の先を向けると言い放った。


 「私の戦う理由か…………」
 「教えなさいよ」
 「今は亡き、親友のために」
 「……え?」


 予想外の答えに驚く。
 次の瞬間、朱鷺は七節棍を振るうと椎名の胸を一突きした、その一撃は正確に心臓を貫いており苦しむことなく一瞬の間に絶命した。体から力が抜けて、ぐらりと椎名の体が倒れ込む。だがその前に式神が死体を包み込むと、そのまま地面に横たえた。
 これはせめてもの慈悲だった。
 朱鷺は血で真っ赤に濡れた棍を振るって綺麗にする。
 その後、顔を上げると小さな声で呟いた。


 「優希……」
 「終わったかしら? 朱鷺」
 「ん、終わったぞ」
 「なら帰りましょう。詩音も戻って来たわ」
 「そうか」


 顔を上げてみると、確かに詩音の姿が目に飛び込んできた。おそらく目的を達成したのだろう、二人はのんびりと待つことにした。
 このご時世でも、この三人は健在だった。



sage