初戦 その①


 研究所に達也の声が響き渡る。アナウンスだ。
 それはマリアとユウキがいる部屋にも届いた。


 『マリア、ユウキ、二人ともすぐ来い』
 「え?」
 「お、招集だ。行くぞ」


 二人はユウキの部屋でくつろいでいた。
 あれからまだ一時間も経っていない。気を利かしたデルタが持って来てくれたココアを飲みながら、談笑というにはあまりにも暗い話をしていた。魔法少女についてだったり、戦況についてだったり
 戦うための予備知識を蓄えていた。
 拒否した分はいいがこの流れではまず戦うことは避けられない。マリアは冷静にそう判断したのだ。
 といっても、そこまで大した話はできていない。
 せいぜい敵の勢力がどんなものかについてぐらいだった。
 一旦話を切ると、ユウキは右手をマリアに向かって差し伸べる。一瞬、それがどういう意味か分からず惚けた顔をしてしまう。それを見て小さくため息を吐いた後、ユウキは呆れた声で馬鹿にするように言った。


 「ほれ、達也のところに行くぞ」
 「え、えーと」
 「テレポート」
 「あ、そうか。分かった」


 そう言ってキュと手を握る。
 それと同時にユウキは能力を発動し、達也のいる部屋まで飛んで行く。これで二度目だが、なかなか不思議な感触だった。瞬きする間もなく、あっという間に目的地にまで行くことができるのだ。
 まだこの感覚になれないマリアに対して、ユウキと達也はもう当たり前のような物らしく
 いきなり目の前に現れた二人に対しても何のリアクションもなく普通に話を始めた。


 「さてマリア、初陣だ」
 「へ?」
 「君にはこの戦闘で自分の能力に関して知ってもらおうと思う。ユウキ」
 「うッス」
 「君は子守りだ」
 「嘘だろ…………めんどくせえ」


 そう呟いてマリアの方をじろりと見るユウキ
 それで分かった。


 「私、子供じゃありません!!」
 「まだ〇歳だ」
 「あ…………」
 「ハハハハハ!! ガキじゃねぇかっ!!」
 「――ッ!?」


 顔を真っ赤にして怒るマリアと、大声で笑い続けるユウキ
 このままじゃ喧嘩になると思った達也はすかさず言い放つ。


 「ユウキ、お前も似たようなものだ」
 「ハハハハハ!! え?」
 「三歳だろ」
 「…………」
 「…………プッ」
 「笑うなてめぇ!!!」
 「あんたも笑ったじゃん!!!」
 「うるせぇバカ!!」
 「馬鹿じゃないし!!」
 「…………」


 火に油を注いだだけだったらしい。
 別に放置してもいいのだが、それはそれで話が進まない。しょうがないので達也はこぶしを振り上げると全力で机に叩きつける。するとガツンという大きい音が響き渡る。それに驚いた二人はビクッと肩を震わせると動きを止める。
 そして、同時に達也の方を見ると気まずそうにする。二人とも怒られると思ったのだ。




 だがそんなことはなく、達也はマイペースに話を始める。


 「すでにデルタが先に行って露払いをしてくれている」
 「あ、そうなのか」
 「今日はマリアの能力を覚醒させるのが目的だ」
 「…………で、どこに行けばいいんだ?」
 「第二ジャミング施設周辺だ」
 「オケ、分かった」


 二人の間で会話が進んでいく。困惑しているマリアは、どうすればいいのか分からずボケーッと立ち尽くしている。その姿に気が付いた達也はきちんと説明をすることに決め、何か機器を操作すると空中に映像を投影する。
 すると衛星写真のようなものが現れる。
 画面の中心には白い建物があり、その周辺に二つの丸い何かがあった。その周囲は森に囲まれていて、どこかの山の中にあるようだった。
 達也は中央の建物を指さすと言った。


 「いいか、ここが君たちのいる研究所だ」
 「あ、そうなの」
 「で、この周囲にある二つの建物がジャミング施設だ」
 「どうしてそんな施設が?」
 「いいか、ここからシールドが二重に張られている。その間に独特な波長をもつ魔力を充満させることで、ここの位置を特定できないようにしているのだ。おかげで、この研究所は原初の魔法少女たちに攻撃されずにいる」
 「なるほど……」
 「しかし、この施設の位置はすでに敵に知られている。そのためいつもなら国連軍や魔法少女が防衛に当たっているのだが、今日はその守りが手薄だ」
 「そういえばさっき魔法少女たちが出て行ってるって言ってましたね」
 「その通りだ。その上、軍から送られてきた情報で翼の少女たちの一群が施設に向かっていることが分かった」
 「大変じゃないですか!!」
 「大した数ではないから初陣にはちょうどいいだろう」
 「分かったぜ、座標は分かっているからすぐに飛べるぜ。マリアもいいだろう?」
 「…………拒否権がないのにどうして聞くの?」
 「よし、すぐ行け」
 「うしっ!! 飛ぶぜ、マリア」
 「ん」


 渋々ながらも頷くマリア、今度は自分から手を取る。ユウキはそんなこと気にせず目を閉じて意識を集中させる。脳裏にジャミング施設の位置と姿を思い浮かべる。距離がそこそこあるので下手すると町があった場所に飛ぶかもしれない。
 だがもう慣れたもので、十秒もすると完全に座標の固定に成功した。
 ニッと笑うとテレポーテーションを使う。
 すると、フッと二人の姿が消えた。
 達也はそれを見届けることなく、パソコンを立ち上げると仕事を始める。そろそろフレイヤ達の報告が来るはずだった。それに近くに駐留している軍にも命令を下さないといけない。
 その上、クライシスの微調整も終わっていない。今はクライシスが自分でやっているのだが、最終的にこの目で確認しないといけない。本当はマリアの戦う前に終わらせたかったのだが間に合わなかった。
 そのため、今回マリアはクライシスのサポートなしということになる。


 「面倒だな」


 やらなくてはいけないことは山積みだった。




 「…………」


 ガンガンガンガンという鈍い足音が響き渡る。
 デルタは森の中を全速力で走っていた。木々の間をすり抜け、邪魔な岩を飛び越える。悪路にもかかわらず速度が落ちるわけではなく、それどころかドンドンと速くなっているようだった。
 既にジャミング施設は通り抜け、その向こう側の偵察をしている。その理由は、先に敵を叩きのめす方がはるかに安心だからだ。
 ふと、搭載している魔力感知センサーが反応を見せたので顔を上げてみる。
 すると黒い点がいくつか空にあるのが見えた。ズームしてよく見てみると、数十人の翼の少女達が空を舞っている姿が飛び込んできた。それを見る限り、どうやらまだジャミング施設に攻撃は仕掛けられていないようだった。
 安心したデルタは小さく呟く。


 「間に合っタ」


 だが、戦いはこれからだ。
 ちょうどいいことに、周囲の木々の数が一気に少なくなっている。
 デルタは上下に着ていたのを服を投げ捨てて、全力で地面を蹴って宙に飛び上がった。それと同時に全身を覆っていた立体映像が消え、鉄の体が露わになる。両足のふくらはぎの部分が展開すると、そこからぶーすーたーのようなものが顔をのぞかせる。
 噴射口から青い炎を放つと、そのまま高度をドンドン上げていく。


 「行くヨ」


 そう呟きながら、掌の装甲を展開するとエネルギー砲を放てるようにする。両目のモードをズームからロックに切り替え、敵の少女の数を確認する。総勢二十名、司令官がいないところを見ると完全に遠隔操作されているタイプらしかった。
 なら、楽勝だ。
 翼の少女たちはデルタのことに気が付いたのか、高度を下げて二手に分かれると挟み討ちしようとする。
 それに気が付いたデルタは先制攻撃を仕掛けることにすると、両手を少女たちの方に向けて、エネルギー砲を発射する。
 ドンッ!! という鈍い衝撃と共に淡い胃光を放つ光の球体が高速で宙を飛ぶ。それらはまっすぐ少女たちの群れに吸い込まれていくと、ドンッという爆音が響き少女たちがばらばらになる。
 どうやら一~二体は撃破したらしいが、ほとんど逃がしてしまった。


 「想定内」


 とりあえず、まずは右側にいる翼の少女を殲滅することにした。
 まっすぐそっちに向かいながら両手からエネルギー弾を連射する、何十発も向かって行くがこれには追尾機能がない。それでも何発かは命中して三人ほどの翼の少女たちが死んでいく。
 だが犠牲を残しつつも、数人の翼の少女はデルタに接近し、刀を振るって攻撃を仕掛けてくる。


 「…………」
 「遅いネ」


 デルタは急いで右手の前腕部の装甲を一部展開すると、腕からエネルギー刀を発生させる。
 首元を狙ってヒュッと振られた刀を少しだけ高度を下げて躱すと、腕を振るって刀で少女の腹部を切り裂く。ズバッという心地よい音が響き、体が半分に切り裂かれる。傷跡から血と内臓が吹き飛ぶが、それらも一瞬の間に消える。
 死体は粒子と化しながら地面へと落ちていく。
 その陰から別の少女が二人、刀を振りかざして襲って来る。隙を狙ったつもりらしい。


 「フンッ!!」


 デルタは鼻で笑うとそちらに目を向ける。そして、モードをさらに切り替え、内部で眼球を入れ替える。すると瞳が鈍い光を放ち、真っ赤なビームを二筋放った。少女たちはそれで頭部を撃ち抜かれるとそのままぐったりとして動きが止まる。
 デルタは目の砲門を閉じると、一番後ろにいたもう一人の少女の方に目を向ける。
 翼の少女は光弾を顕現すると、それをデルタに向かって放った。


 「勝っタ」


 デルタは腰に手を当てるとそこにある小型レーザーの銃口を向け、光弾を撃ち落とす。レーザーと光弾が宙でぶつかり合うとドォンという鈍い音がして、周囲に爆煙が広がる。だがデルタは向こう側にいる少女の姿が見えていた。
 なので狙いをつけると、左掌を向けるとエネルギー弾を放つ。それは視界を奪われてた少女に見事命中し、爆殺させた。これで敵の半分は殲滅したことになる。それを確認して満足そうに頷いた後、デルタは残った敵の方に顔を向ける。


 「よシ、次」


 方向を転換すると、そちらに向かって行く。
 負ける気などしなかった。

sage