初戦 その②


 一方のユウキとマリアはちょうどジャミング施設の正門の前に立っていた。
 白くてでかいその門は高い壁の中にあって、まるでそこに四角い穴がぽっかりと空いているようだった。しかし、その穴から内部に入ることは叶わなそうだった。周囲には何人もの銃を持った兵士が警戒していた。
 周りは森で囲まれていて、施設自体もそこまで大きなものではなかった。
 マリアは彼らが少し気になるが、ユウキにとってはいつもの光景だった。
 

 「よし、行くぞ。マリア」
 「え、えーと……あの人たちは?」
 「国連軍だ。と言ってもここは日本だから陸自の人かな?」
 「魔法少女と戦うために来てるの?」
 「その通りだぞ。じゃ、行くぜ」」
 「敵は…………どこなの?」
 「うーん、どこだろ……」


 そう呟きながら首を回すユウキ、マリアもつられて見渡してみる。だが、ぱっと見える範囲にデルタはいない。テレパシーを使って位置を探ることに決めると、額に指をあてて能力を発動する。
 その瞬間
 ドゴォォンという爆発音が遠くで響く。
 二人はほとんど同時に音がする方を向く。すると、黒い爆煙が黙々と立ち込めているのが見えた。


 「あそこだな」
 「だね」


 どうやら戦闘を行っている最中らしい。
 マリアはそちらに向かって行こうとするが、それをユウキが止めた。


 「ちょっと待て」
 「何よ、急がなくっちゃ」
 「大丈夫だ。デルタは強い、簡単には負けない。それよりお前に話さなければいけないことがある」
 「何?」
 「簡単な戦い方だ。あそこに向かいつつ話をするぞ」
 「そうだね、まだ何も分からないし……お願い」
 「といっても、脳内に戦い方はインプットされているはずだから俺はそれを引き出す手伝いをするだけだ、行くぞ」
 「うん」
 「じゃあ、変身しろ」
 「え……変身?」
 「そうだ。麗装を顕現して、魔法少女になるんだ」
 「うーん、難しいけどやってみる」
 「よし、念じるんだ。分かったな」
 「うん」




 いわれた通りにやってみることにすると、目を閉じて意識を集中する。
 そうすると、ゆっくりと体の内側から暖かいものがこみ上げてくるのが分かった。それをとどめることなく解き放つ。それらは、自分の周囲で渦巻くように動くと、明るい色をした球体を生み出す。
 その内部でマリアは自分の着ていた服が消え、全く別の何かが身を纏ったことに気が付いた。
 目を開いて、それが何か確認しようとする。
 それと同時に球体がはじけ飛ぶと、ガラリと変わったマリアの姿が目に飛び込んでくる。
 マリアの麗装はそこまで派手なもので無かった、だが普通の服装とはかけ離れたもので、テレビなどでよく見る魔法少女に見えなくもなかった。初めて着るにもかかわらず、それを完全に着こなしていた。


 ユウキはその姿を見ると「へぇ」と感心したような声を出す。


 「似合ってるじゃん」
 「え……そ、そう?」
 「よし、これで準備が整ったな。色々教えるからな、行くぞ」
 「お願いね」


 ユウキはまず、空中浮遊の方法から教えた。マリアはそれを一瞬の間に覚えてしまった、重力干渉波を自由自在に出して高速で宙を舞えるようになる。次に光弾の出したかも教えると、あっという間に習得する。
 もちろんそれはそうなるように達也が設定して作り上げたのだから当たり前のことなのだが、少し感心してしまう。
 さらに武器を顕現する方法を教えた。
 マリアはそれに従って、手をかざして魔力を集中させてみる。
 すると目の前に一本の剣が生み出された。少し消息の派手な中世のロングソードといった姿のそれは、少し大きめだったものの、簡単に扱うことができた。肉体強化のおかげである。
 柄を握り、それを何度か振るってみる。
 ヒュンッという風を切る音が心地よい。
 ユウキはウンウンと何度か頷いてからこう言った。


 「よし、これで大体は終わりかな」
 「え、こんなもの?」
 「光弾とか能力とかもあるが、達也が言っていたようにお前はまだそこら辺を扱いきれていない。実戦で覚えろ」
 「…………気乗りしないけど……分かったよ」


 顔をうつむかせてそういう。正直、まだ決心がついていなかった。しかし、ユウキやそんなことを気にしない。トンっと地面を軽く蹴って飛び上がると、そのまま爆煙の方へ向かって飛んで行く。
 一連の動きには全くよどみがなく、流れるようだった。
 マリアはそれに驚いて声を上げる。


 「ちょっ………」
 「おいてくぞー」
 「……もぅ……ヤダ」


 いっそのこと帰ろうかと思うが道が分からない。
 マリアはユウキの後にくっついていくほか選択肢などなかった。




 デルタはご満悦だった。
 左足の太もも部分に装備していた小型ミサイルで残った敵を殲滅して満足していたのだ、本当は一体ずつ丁寧に処理していきたかったのだがそうはいかない事情があった。別の魔力が接近していることに気が付いたのだ。
 おそらくは、さっきまで戦っていた翼の少女たちに命令を下していた一軍なのだろう。ということは司令官を務めている翼の少女か魔法少女がいるはず。
 となると、下手に時間をかけて戦うよりはさっさと終えてしまい、そっちの方に意識を集中させたかった。
 顔を上げて援軍が来ていると思われる方を見る。
 すると絶望少女が五体、翼の少女が十体ほどの群れであることが分かった。やはり、と言っては何だが被っている仮面の種類が明らかに違う少女が一人いた。仮面に真っ赤な目が描かれているのだ。
 あれは司令官の証である。
 あいつを倒すことができれば圧倒的に優位に立つことができる。
 デルタは少し腰を落とすとすぐにでも飛び出していこうとする。
 だが、それを止める声が一つ。

 「デルタ!!」
 「ン、二人とモ、待ってたヨ」


 ユウキはデルタの隣に降り立つ。マリアはその少し後ろに着地したものの、干渉波を止めるタイミングをミスって転んでしまった。ドテッという間抜けな音をして思いっきり鼻を地面に打ち付けてしまう。
 幸いシールド張っていたので大したことはなかったが、心は少し傷ついた。
 二人はちらりとそちらの方を見たが無視して話を続ける。


 「で、敵は?」
 「最初に来たのは全滅させタ」
 「早いな。それで?」
 「援軍がそこまで来ていル」
 「そうか」


 デルタが指さす方向にユウキも顔を向ける。そして敵の数を把握すると、どうするかを少し考える。今回の目的はマリアのデビュー戦を援護すること、つまりはマリアが戦えなくては意味がない。
 作戦を決めると、ユウキはそれをデルタに伝える。


 「頼みがあるんだが」
 「何?」
 「ザコどもを蹴散らしておいてくれないか? 司令官は俺が引き受ける」
 「分かっタ」
 「で、一体だけ隔離するからマリアと戦わせたいんだ」
 「そういうこト。ならいくらでも協力すル」
 「よし、それで決まりだ。いいなマリア」


 後ろを向いてそう尋ねると、マリアは頬を膨らませ不貞腐れたまま答えた。


 「……どーせ拒否権無いんでしょ」
 「分かってるじゃん」
 「ふざけないでよ」
 「ふざけてない」
 「でしょうね」
 「こいつ舐めてんのか」
 「何よ」
 「落ち着いテ。そんなことしている場合じゃなイ」


 また喧嘩になりそうだったので、それを止めた。二人は不満そうな顔をするがデルタが言うことはもっともなので、口をつぐんでジッとにらみ合うだけにとどめる。嫌な空気が流れるが、それはもうしょうがない
 自分が何をするべきか理解したデルタは、もう一度飛び上がると、掌を向けてエネルギー弾を放射する。
 それは一体の絶望少女に命中し、ドンッと爆発音を響いた。


sage