初戦 その③



 すると、煙を吹き払うように翼の少女や絶望少女がばらけて飛んでくるのが目に見えた。
 ユウキはそのうちの一体に狙いをつけると、サイコキネシスで動きを拘束する。そしてまるで縄を引っ張るように腕を大きく動かすと、その少女を強制的に引き寄せる。翼の少女は多少抵抗したものの逆らいきることができず、地面に叩き落される。
 その後、マリアに向かって叫んだ。


 「そいつは頼んだぜ!!」
 「ええ!?」
 「大丈夫!! 危なくなったらデルタが助けてくれる」
 「ユウキは!?」
 「俺は忙しくなるから無理!!」
 「無責任!!」
 「知るかボケッ!!」
 「――ッ!! 何よその言い草……」


 文句を言ってみるが、ユウキはそれに耳を貸さなかった。空中に浮かび上がると、見下す用に滞空していた指令係の少女に向かって行く。少女もそれを迎え撃つ気満々でいるらしく、両手に刀を持つと構えた。
 一方のデルタは再び塊となって向かって来る少女たちに向かって腕を伸ばすと、指をピンっと張る。
 すると、指先が展開しそこから十筋のワイヤーが射出された。それらは高速で飛んで行くと翼の少女や絶望少女の体を貫いていき、その動きを制限する。だが、それだけで死ぬはずもなく体を蠢かせている。
 何大家は刀や腕を振るい、ワイヤーを断ち切ろうとする。
 だがその前にデルタは強力な電流を流した。それはワイヤーを伝って行くと、貫いている敵たちを内部から焼き尽くしていった。


 「――――ッ!!!」


 言葉にならない悲鳴が響き渡る。
 だがそれも長くは続かず、十秒もすると彼女たちは全て粒子化して消えていった。
 これでほとんどまとめて片付けることができた。
 残った数体も手早く殺すと、デルタはそのまま滞空してマリアのことを見守ることにした。援軍がやってきてから早二分、あっという間のことだったので、まだマリアはまともに戦っていなかった。



 相対する二人
 翼の少女の方も相当警戒しているらしく、最初に落とされた位置からピクリとも動こうとしない。だが逃げるつもりもないらしい、刀の切っ先をマリアの喉元に向け、いつでも動けるようにしている。
 マリアも剣を正面にまっすぐ構える。剣道でいうところの中段の構えだが狙ってやっているわけではない。それ以外どうしたらいいのか分からないのだ。
 脳裏をいろいろな考えが
 駆け巡って消えていく。
 ここから逃げるわけにはいかない、おそらく一歩でも後ろに下がっては敵に畳みかけられてあっさりやられるだろう。だからと言ってこっちからあちらから動く様子はこれっぽちもないようだった。
 そうなると選択肢は一つ
 こちらから攻撃を仕掛けるしかない。


 「…………………」


 いい加減
 覚悟を固めるしかないようだった。

 「…………―――ッ!!!! あああああああああああああ!!!!!」





 


 もうなんだがいてもたってもいられなくなったマリアは、大口を開けて叫びながら少女に向かって突っ込んでいく。両手で思いっきり剣を振りかぶっている。完全に隙しかない初心者丸出しの構えだった。
 翼の少女はそれを見ても動くことなく、ジッと構えを崩さない。
 数秒で間合いに入ったマリアは力任せに大振りに剣を振るう。


 「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 「…………」


 ブオッという風を切る音が鳴るが、どう考えて鈍い。力が入りすぎているのだ。しかも、振るう位置が高すぎる。
 翼の少女は少し腰をかがめてそれを躱すとマリアの右わき腹に向かって刀を突き立てる。
 ザクッという嫌な音が聞こえてくる、マリアはちらりと刺されたところを見てみる。すると、冷たい銀色の刃がゆっくりと赤い血液に彩られていく姿がはっきりと見えた。異物が入ってくる違和感と、挿入感が何とも言えない気持ちにさせる。
 その時までは痛みはなかった。
 ところが、刺されたという事実を脳が認識した瞬間


 「――――ッ!!!」


 脳天を雷が貫く。
 鋭い痛みが全身を駆け抜けていく、痛いという意識に支配されて何も考えられなくなる。腕から力が抜けると剣が重力に引かれて落ちていく。膝が崩れると、そのまま背中から地面に向かって倒れてしまう。
 そのおかげで刀が抜けるが、そのせいで血液がブシュッと噴き出した。
 地面に倒れ込んだマリアは左手で傷跡を抑えながら痛みにのたうち回る。


 「うぐぅぅぅぅっ!!」


 歯を食いしばって叫びだしたいのを堪える。そんなことをして痛みが治まるはずがない、分かり切っていることだがそうせずにはいられなかった。ゴロゴロと同じ場所を行ったり来たりしている。
 無様な姿だった。
 翼の少女は暴れるマリアを陶器の仮面越しに見下していたが、刀の先を向けると、それを振り下ろそうとする。
 それを見てもデルタは動かない。
 マリアはうっすらと目を開けると自分を殺そうとしている少女の姿を視界に収める。
 その瞬間、死の予感が背筋を駆け抜ける。全身の鳥肌が立つ、血の気が引いていき、どんどん真っ青になっていく。視界が狭まっていき、まるで貧血の時のように意識が飛んで行ってしまいそうになる。


 死にたくない


 まだ、自分は何もできていない。


 その一心がマリアの体を動かした。
 残った右腕を翼の少女の方に向ける。すると、手が淡く光りだした。何か今までとは違う冷たい感覚が体の底で目覚めて、掌から放たれていく。少女はまるでそれに縛られたかのように動けなくなる。
 マリアは顔も上げると、両目から涙を流しつつ精一杯の声で叫んだ。


 「こっちに………来ないで!!!」


 その瞬間


 マリアの能力が顕現する。


sage