帰還 その①


 三人は一度集まってから、ユウキのテレポートの能力で研究所へと帰っていった。揃ってマリアと達也の部屋に降り立ったのだ。本当は自分の能力で行きたかったが、座標を間違えると「石の中にいる」状態になるのでやめた方がいいと言われたのだ。
 ちなみに、デルタは脱ぎ捨てた服を取りに行ってからのテレポーテーションだった。
 いちいちユウキの手を取るのは何だか頼りっぱなしのような気がして嫌だったのだ。
 といっても歩いて帰る道が分からない。
 渋々手を取って一緒に飛んで行った。


 「うし。到着」
 「……疲れた」
 「あ、達也」
 「「え?」」


 二人の声がピッタリと合う。
 デルタの言う通りに達也がいた。ユウキの部屋の椅子に座り、手にはコーヒーカップを握っていた。いつからそこに待っていたのだろうかと疑問に思うが、湯気が立っているのを見る限りそこまでではないようだった。
 マリアは渋い顔をさらにムッとすると、ジト目で睨み付ける。
 その視線からは非難の声が混じっていたのだが、完全にそれをスルーしてコーヒーを一口啜る。そしてカップを机の上に置き、隣にあった自分のタブレットを操作する。そこの数値を見る限り、クライシスは正常に機能しているようだった。
 マリアが自分の能力のうち一つを覚醒させたことで、さらに調子がよくなっているようだった。


 「さてと、能力を初めて顕現できたようだな」
 「……そうだけど…………」
 「まぁ、そのことはあまり関係ない。デルタ、頼みがある」
 「何? 達也の頼みならいくらでも聞くヨ」
 「フレイヤたちが柳葉町の外れにある国連軍の駐屯基地にいて、急遽呼び出したいんだ。ところがどっこい、通信が通じないと来ている。迎えに行ってくれないか?」
 「いいけド……遠くなイ?」
 「そうだろうと思ってビークルの修理を特急で終わらせた。これでいけるはずだ」
 「本当!?」
 「本当」
 「ありがとウ」
 「よし、じゃあ行け」
 「うン」


 元気そうに頷いてからデルタは出ていった。
 ビークルと一体何なのか少し疑問に思ったが、聞く前に達也が話を始めた。


 「さてと、マリアにはまだ話していないことがあったな」
 「……何?」
 「こちらの目的だ。能力が顕現したので、問題ないだろう」
 「とりあえず……話だけ聞く」
 「じゃ、座れ」
 「俺は?」


 ユウキがそう尋ねると、達也は冷たい目線を向けて言った。


 「今君に話しかけていないのだが」
 「達也のおっさん、そんな事聞いてない」
 「好きにしろ」
 「じゃ、一緒させてもらうわ」




 そう言って一つしかない椅子に座り込む。
 マリアはユウキに対して白い目を向ける。少しだけ悪いことしたかな、という思いを抱くが、自分も疲れているので席を譲るつもりなどこれっぽちもなかった。それゆえ、マリアは立ったまま話をすることになった。
 達也は白衣のポケットから量産型コアを引っ張り出すと、それをいじくりながら話を始めた。


 「いいか、こちらの目的は世界を救うことと言ったな。その具体的な方法を教えようと思う」
 「何よ」
 「こちらの目的は大きく分けて二つ、一つは翼の少女を全滅させることと、原初の魔法少女を殺すことだ」
 「それで?」
 「翼の少女を全滅させるには方法が二つあってな、が原初の魔法少女を殺すことと、翼の少女の本体を殺すことだ」
 「え? どうして?」
 「この間も話をしただろう、一人の少女が何人にも増やされたのが翼の少女だろう。この能力には二つの弱点があってな」
 「それは?」
 「一つは能力者が死亡したら、増えた物体が消滅するんだ。それと、増えた物体の本体が死亡しても消滅するのさ」
 「……なるほど」
 「そうすれば、情勢はガラリと変わる。翼の少女がすべて消えれば、こちらの勝ちは決まったようなものだからな」


 納得した。
 だが、殺すという単語が非常に気にかかる。なんだか受け入れることができないのだ。
 達也はもう一個新品の量産型コアを引っ張り出すとそれを投げつけた。ユウキは待ってましたとでも言わんばかりにキャッチすると、そこにある赤いボタンを押して魔力を回復させる。


 「いいか、翼の少女の本体……俺たちはアリヤと呼んでいるのだが、そいつの捜索は魔法少女の一人が担当している」
 「ということは……原初の魔法少女を見つけることが、わたしたちの仕事?」
 「その通り、だが、戦ってはいけない」
 「え?」


 意味が分からない。
 さっきまで殺せ殺せと言っていた割には戦うなという。
 その意図を計りかねて困惑するマリア。その答えは単純だった。


 「原初の魔法少女――アリスと呼んでいる――そいつは相手の能力をコピーする力を持っている。だから下手するとマリアの能力をコピーされるかもしれない」
 「それって……マズイの?」
 「マズイ」


 即答だった。
 達也は深刻な顔をすると言った。


 「いいか、君の能力はこの世で唯一アリスを殺すことができる。だがコピーされ、対策されては意味がない」
 「そうなの……」
 「だから逃げろ。アリスを見つけたら躊躇なく、な」
 「…………」


 それはなかなかありがたい申し出だった。
 個人的には積極的に戦いたくないのだ。
 そんなことを思っている間にも達也は話を続ける。




 「しかしな、君はアリスを殺すことのできる唯一の魔法少女でもある」
 「またそれ、いったいどういう意味なの?」

 呆れた声でそう尋ねると、達也は答えた。

 「少し難しい話をするぞ」
 「分かった」
 「いいか、アリスの持つ生き返る能力、これの仕組みは単純だ。肉体が生命活動を維持できなくなった瞬間に、全身を粒子化、そしてあらかじめ用意しておいた別のコアを依り代にして肉体を再構築する。だが、これにはある特徴があることが分かった」
 「特徴……?」
 「そうだ。本来、粒子化というのは魔力を使用しすぎた魔法少女が、肉体を維持している生命エネルギーまでもを利用して魔力を捻出した結果に起きる現象だ。つまり、普通の人間が死んでも起きないのさ」
 「へー……そんなことが」


 初耳だった。
 難しい話だが、スラスラと頭に入って来た。


 「だがな、アリスの蘇生能力の場合少し違う」
 「どういうこと?」
 「彼女の場合は、粒子に生命エネルギーが詰め込まれているのだ」
 「え?」
 「肉体を再構築するために、残った魔力を全て粒子に置換している。つまり、これを封じることができれば蘇生はできないということだ。それを封じることができるのが、君の能力ということだ」
 「……魔力吸収」
 「その通りだ。それなら、粒子化する前に彼女の魔力、および生命エネルギーを完全に吸い取ることができる。それで勝ちだ」
 「でも、それならどうして戦っちゃいけないの?」


 もっともな疑問だった。
 達也はゆっくりとそれに答えた。


 「さっきも言ったろう、確実に殺せる時でなくてはいけない、そういうことだ」
 「あー……そういうことね」


 完全に理解した。
 達也はこれで話が終わりとでも言いたげにこう言い放った。


 「よし、俺は戻るぞ」


 達也は背を向けて部屋から出て行こうとする。
 聞きたかったことのあったマリアは、急いで声を上げると呼び止めた。


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