帰還 その②



 「達也さん!!」
 「なんだ?」
 「一つ聞いていい?」
 「……なんだ?」
 「私は今日、初めて殺しをやった」
 「そのようだな」
 「でも、罪悪感を抱かなかった。……これも、あなたのせい?」
 「あぁ」
 「――ッ!?」


 臆面もなくそう答える達也
 マリアは激昂すると、拳を振るい達也に向かってそれを叩きつけようとする。ユウキはサイコキネシスで止めようかな、と思ったが何となく気が乗らないので止めた。一発ぐらい殴る権利はあるとも思っていた。
 達也はそれを見ても大して驚くことなく、右手の義手を上げる。
 すると、装甲が一部展開し、淡い光を放つと同時にシールドを展開する。
 マリアのこぶしはそれにぶつかるとガンッという音をたてる。
 シールド越しに達也のすまし顔を睨み付けるマリア


 「クソッ!!」
 「残念だが、最低限自分の身を守る術ぐらい用意してある。諦めろ」
 「…………」


 やる気が失せた
 マリアは腕を下げて一歩後ろに下がる。
 達也は去り際にこう言い放った。

 「いいか、君は兵器だ。罪悪感など抱く余裕はない。分かったな」
 「…………」
 「明日からはまた働いてもらう。せいぜいつかの間の休息を楽しむんだ」
 「……分かった」
 「じゃあな」


 そう言い残して達也は出ていった。
 一人残されたマリアはうつむいて地面を見つめ続けていた。何も言わず、なにもしようとしない。何かを考えこんでいるように見えくもなかったが、ユウキはすぐに異変に気が付いた。
 小さな声が聞こえてくる。


 「う………うぅ………」
 「……おまえ……まさか……」
 「うぅぅ………泣いてない」
 「泣いてるじゃん」
 「…………うぅぅぅぅ……」


 限界だった。
 腰を下ろし床に座り込むと両手で顔を覆って声を忍ばせながら泣き始めた。はじめは、どうしていいか分からずあたふたしていたユウキだが、何とか落ち着かせようと思い背中をポンポンと叩いてやった。
 それが功をなしたのか、落ち着いて泣き止んだマリアは、そのままユウキに寄りかかる形で眠り始めた。スースーと寝息を立て完全に無防備だった。はじめは叩き起こそうかと思っていたが、なんだが可哀そうなので止めることにした。
 代わりに体を抱きかかえると、二段ベッドの上に寝かせてあげた。
 これが自分のできる精いっぱいの優しさだった。




 「……ごめん、寝てた」
 「別にいいぞ、それより夕飯食べるか?」
 「うん……食べる」
 「じゃ、どうぞ」


 そう言って達也は弁当を差し出してきた。中にはオムライスが詰まっていおり、いいにおいをしていた。ケチャップもすでにたっぷりかけられており、プラスチックのスプーンも用意されていた。
 ユウキはすでに半分ほど食べていた。
 正直なところ腹は減っていなかったのだが、何でもいいから食べなくてはやっていられなかったのだ。
 スプーンですくって黙々と口に運んでいく。
 食べている間は二人とも無言になってしまう。
 十分もしないうちに食べ終えたマリアは目をキラキラさせながら感動した声で言った。


 「おいしい!!」
 「だろ?」
 「なにこれ、初めて食べた!!」
 「当たり前だろ」
 「そうだね」


 そう言われればそうだった。
 マリアは空になった弁当箱を机の上に置きながら話しかけた。


 「ねぇ、一ついい?」
 「なんだよ」
 「これって、誰が作ってるの?」
 「え、達也のおっさん」
 「え?」


 あまりに予想外の答えに、おかしな声を出して呆然としてしまうマリア。予想通りのその反応に、ユウキは笑いを堪えることができず、ハハハハハハと大声で笑いだす。それで少しムッとする。
 笑いながらもユウキは説明を始める。


 「ここにいて料理できるのは達也だけ、というかまともな人間は達也しかいないからな。あいつ以外いないだろ」
 「嘘でしょ……あんな奴がこんな美味しい物作れるなんて」
 「ま、そんなこと言ってやるなよ」
 「え?」


 意外と好意的なことを言うユウキだった。
 てっきりユウキも達也のことを嫌っている物だと思っていたのだが、どうやらそこまででもないらしい。一緒に持って来ていたお茶を一口飲んでから、まるでマリアを諭すように話を始めた。


 「達也のおっさんは非情な奴だが酷い奴じゃない。最低な奴だが最悪な奴ではない。あいつだって血の通った人間だからな、俺たちのことを兵器兵器と繰り返して言っているが人間らしい暮らしをさせてくれている、違うか?」
 「まぁ……そうだけど……」
 「つまりはそういうことだ」
 「………分かった」


 一応は納得できた。
 だが、第一印象が悪すぎてどうも考えを変えることができない。
 渋い顔をしたまま、マリアはジッと床を見続ける。




 ユウキはそんなマリアの姿を見て、自分の話を始める。


 「俺はな、お前と同じ実験で生み出された超能力者だ」
 「それって……どんな?」
 「魔法少女は不幸な少女のコアが変質してなるって知ってるよな」
 「あー、そういえば……」
 「で、俺はそれを男でやるとどうなるかという実験で生まれたのさ」
 「え…………」
 「あらかじめコアに一定の強度を持たせておいて、そこに多量の魔力を照射した。結果、俺は超能力者として生まれたのさ」


 「…………」
 あまり聞きたくない事実だった。
 しかし、いつかは知らなくてはいけないことなのだろう。そう考えると、今のうちに知ることができていいともいえた。かける言葉が見つからず、ジッと黙り込むマリア。ユウキも何も言う気になれなかった。
 二人はしばらくの間、気まずい空気の中で過ごす。
 それに嫌気がさしたユウキは大きく伸びをすると言った。


 「よし、俺は寝る」
 「……え?」
 「じゃ、お休み」
 「え、えーと、うん。お休み」


 そう言い残してさっさと布団に潜り込んでしまう。
 マリアは何となく空気を持て余してしまい、少しの間お茶を飲みながらのんびりとしていた。だが、特にやることもないので同じように寝ることにした。
 布団に潜り込むと、すぐに眠気が襲って来る。
 すっきりとした寝つきだった。


 スースーと寝息が聞こえてくる。


 ユウキはそれをBGMにしながら、目を閉じて考え事を続ける。何となく、生まれてこれからのことを思い返していた。と言っても、三年間にわたる戦いの記憶ばかりである。大したことはない。
 だが、どう考えてもマリアのような思いを抱いた覚えがない。


 罪悪感とか


 人間だとか


 改めて考えてみると不思議な話である。
 ユウキは自信を持って自分が人間であると言えなかった。それは、もちろん超能力者という特異体質であることも理由の一つであるが、それ以上に普通の人間らしさというのがどういうものなのかよく分からなかった。
 生まれて最初の一年は超能力を磨き、勉強に明け暮れた。
 次の一年は今は亡き優希と共に絶望少女と戦ったり、達也の手伝いしたり
 今では世界の命運を握る最終兵器だ。


 これが人間の生活か
 そんなことはないだろう


 自分についてもっと考えてもいいのかもしれない
 ユウキは眠りにつく直前にそう思った。



sage