出撃 その①



 次の日
 マリアは起きてすぐ達也に呼び出された。少し寝過ごしたようで、時間は朝の十時、ユウキはとっく起きていたらしくすでに朝食も終えていた。マリアも何か食べたかったが、先に達也のところに行くことにした。
 てっきりユウキもついて来てくれるかと思っていたのだがそうではないらしい。
 地下の魔力生成装置の様子を見に行かなくてはいけないと言っていた。


 なのでマリアは一人で道を進んでいた。所長室までの道は教えてもらった、もし迷ったりすると大変なことになる。なぜなら誰にも聞くことができないからである。
 昨日は裸足だったが今日は違う、部屋に会ったスリッパをはいておりパタパタという足音が響く。
 そういえば、服も病服しか持っていない。さすがに、こんなのをずっと着る気にはなれない。もっと普通のものが欲しかった。


 一瞬、贅沢かなと思うがそれぐらいの権利はあると思った。
 数分後、所長室にたどり着いたマリアは挨拶もなしに部屋に入った。
 すると、三人分の歓迎の声が聞こえてきた。


 「遅かったな」
 「へー、こいつがマリアか」
 「…………」
 「……え? …………誰?」


 初めて見る顔に困惑する。
 その様子を見てにやりと笑った一人の少女が右手を差し出しながら自己紹介を始めた。彼女はボーイッシュな服を着ており、男っぽく見えたが、胸のサイズと髪が宝女子であることが分かった。


 「私は東雲詩音っていうんだ。魔法少女だ、よろしくな」
 「え、は、はい……よろしくお願いします」


 マリアもその手を取るとギュッと握手を交わす。
 一方で作務衣のような服を着た隻眼の少女は、冷たい視線を向けながらそっけない声で言い放った。


 「一寸木朱鷺だ」
 「ますき、さん?」
 「朱鷺でいい」
 「朱鷺さん」
 「…………」


 無視された。
 朱鷺は達也の方に顔を向けると、不服そうな声でこう言った。


 「こいつが優希の代わりか」
 「代わりという言いかたは感心しないな、こっちが本命だ」
 「役に立たなそうなんだが」


 目の前に本人がいるのに臆面もなく言い放つ。マリアは少しムッとするが、確かに戦闘経験もほとんどないのでそう言われてもしょうがない。それでも複雑な気分ではある。




 それに気が付いたのか、詩音はマリアの横に立ち背中をバンバンと叩きながらこう言った。


 「こいつの言うことは気にするな、ちょっと気難しいんだ」
 「……悪かったな」
 「私じゃなくてこいつに謝れよ」
 「…………」
 「ほらな、気難しいだろ」
 「あ、はい……」


 確かにそのようだった。
 少し苦笑しながら、マリアは二人の方を見ている。
 達也は話に割って入るように、渋い声で言った。


 「あともう一人いるんだが、彼女は今デルタと一緒に救援に向かっている。自己紹介はまた今度だ、いいな」
 「それはいいけど………どうした彼女たちを」
 「あぁ、今日も仕事だ」
 「え……」


 嫌そうな顔をしてあからさまに顔をしかめる。それを見て、朱鷺は不服そうな顔をする、彼女はマリアのことが気に食わないらしい。それがマリアに居心地の悪さを感じさせていた。
 モジモジと体を動かして早く話が終わらないかな、と思う。


 「いいか、君たちにはこれから護衛任務に就いてもらう」
 「護衛……?」
 「ああ、国連軍が使っているレーザー銃の新型をここに運び込むんだが、近くの敵が集結している場所があるのさ。もしかすると、敵が感づいて襲って来るかもしれない。つまりは念のためだな」
 「……それだけ?」
 「それだけだ。しかも今国連軍がその近く交戦中でな、そっちの方に戦力が行くからこちら側には何もないかもしれない」
 「…………」


 じゃあ別にいいじゃん、と言いたかったが我慢する。
 もし下手なことを言うと殴られるかもしれなかったからだ。もちろん朱鷺に
 それを見て達也は文句がないと判断したのか、「詳しい地図は朱鷺が預かっている、俺は寝る」と言って所長室から出ていった。反論する暇などなかった。マリアは何となく不平不満を持て余してしまった。
 ユウキは悪い奴でないと言っていたが、やはり納得がいかない。どう考えても人の話をまともに聞かないクソ野郎だった。


 ため息を禁じ得ないマリアだった。
 詩音はその姿を見てこういった。


 「あいつはそういう奴なんだ。許してやれ」
 「……知っているけど……なんか、イラつく」
 「ハハハハハ、率直だな。そういうの嫌いじゃないぞ」


 どうやらお気に召したらしい。
 詩音とは仲良くやれそうな気がした。




 三人は宙を切って飛ぶと、指定された場所に向かった。
 地図を表示したタブレットを片手に持った朱鷺が先行し、その後を二人が追っていく。詩音とマリアはその間に何の意味もない会話を続けた。と言っても、主に詩音が喋りマリアが相槌を打つだけである。
 それに何を言っているのかよく分からないことが多々ある。それでも楽しいものだった。
 ふと、マリアは一つ気になっていたことがあったので、詩音にそれを聞くことにすると少し近づいて小声で尋ねる。


 「あの、一ついいですか?」
 「うん? 改まってなんだよ」
 「あの朱鷺さんって……どうして片目を失ってしまったんです?」
 「あぁ…………あれの事……」


 突然、詩音の顔が暗くなり、伏せられる。
 そして表情にピッタリと合った声で話し始めた。


 「半年ぐらい前か? 朱鷺と、ユウキ。他に二人の魔法少女が偶然にも原初の魔法少女――アリスと遭遇してしまったんだ」
 「え…………」
 「その際に負った怪我なんだと」
 「でも、治せないんですか? 私たちって傷が修復できるんじゃ……」
 「治せるぞ。でも治さないんだ。彼女は」
 「それまたどうして」
 「その時の戦いで朱鷺の唯一の親友が、自分の命を犠牲にしてアリスから彼女たちを守ったのさ」
 「え……」
 「優希って名前の魔法少女だ。強かったんだがな……」


 思いもよらない話にマリアの心は少なからず揺さぶられていた。少し顔を上げると、朱鷺の背中をじっと見る。そこからは、はっきりと見て取れるぐらいの哀愁が漂っているのが分かった。それが彼女の背負う物なのだろう。
 彼女はあまりいい人には見えなかったが、それは撤回しなくてはいけないようだった。
 少なくとも悪い人ではない。
 そんなことを考えている間にも詩音は言葉を続ける。


 「それ以来、彼女は失った目をそのままにしているんだ」
 「……どうして……?」
 「戒め、だそうだ」
 「…………」


 自分も悲しい気持ちになってしまう。
 二人の会話はそこでぴたりと止まってしまった。


sage