出撃 その②



 朱鷺は二人の話が聞こえているはずだった、魔法少女の聴力ならそれぐらい簡単である。それでも何も言おうとしなかった。彼女にとって昔話など一銭の価値もない物だった。なぜなら、大切なものは心にしまっておくべきだと考えていたからだ。
 結局、彼女が言葉を発したのは目的のものを見つけた瞬間だった。


 「あれだ」


 そう言って腕を伸ばすと指を差す。
 すると視線の先に五台のトラックが山道を走っている姿が目に飛び込んできた。あれがレーザー銃を運んでいるというトラックなのだろうか、答えを知っている朱鷺は高度を下げるとそこに向かって行く。


 「うし、行くぜ」
 「あ、わかりました」


 二人もその後を追って地面すれすれまで降りて飛び続けた。
 マリアは詩音について行って最後尾のトラックの後ろについた。
 朱鷺は一番前で走っているトラックの隣まで行くと、窓ガラスをコンコンと叩いてそこにいる小隊長に合図した。あらかじめ話は通じているのでそれだけで十分だったらしい。話をせずに詩音たちの方に戻ってくる。
 そして、同じく無言のまま腕を振ると前に行くように促してくる。


 「よし、マリア、お前は私のバックにつけ」
 「え、でも……」
 「朱鷺は一人で平気だよな」
 「構わない」
 「だってさ」
 「え、そういう訳じゃ………やっぱ、いいです」


 本当はもっとばらけてどこから敵が来てもすぐに対応できるようにするべきじゃないかと思ったのだが、なんだか面倒くさくなったので文句を言わないことにした。
 推測にすぎないが、二人には一か所で固まっていたとしても十分対応できる自信があるのだろう。
 詩音とマリアはそのまま最後尾につくこととなり、朱鷺は前から数えて三台目のトラックの上で飛ぶことになった。彼女は宙を舞いながら腕をサッと振るうと袖から大量の紙を吐き出した。
 それらは宙を舞うと、道の両端に生えている木々の中へと消えていった。
 式神だ。
 初めて見るそれにマリアは驚いてしまう。それに気が付いた詩音は朱鷺の能力の説明をした。


 「あれが朱鷺の式神だ」
 「式神」
 「そうだ。色々便利な奴だ。お前にも一枚くっついているぞ」
 「え!?」


 詩音は肩甲骨の辺りを指さしていた。
 角度的にマリアに見ることのできない位置だったが、そこには確かに式神が一枚張り付いていた。ピッタリと、まるでシールのように。見ることができずに少し歯がゆい気持ちになるが別におかしなこともないので放置することにした。


 それよりも、周囲の警戒をしなくてはいけない。
 マリアは今更ながら緊張してきた。
 ガチガチになったその姿を見て、詩音は笑いを堪えることができなかった。





 「何なんすかね、あいつら」


 トラックを運転していた若い男が助手席に座っている年配の男に向かってそう話しかける。彼はつい先日死んだ運転役の男に代わって派遣されてきた兵士だった。普段は補給節意を運んでいるので、こんな第一線に来るのは初めての経験だった。
 そのため魔法少女をしっかりと見るのも今日が初めてなのだ。
 小隊長は渋い顔をしたまま返事を返す。


 「何が、何なんだ?」
 「何様って話ですよ。年端も行かない少女がどうしてあんな偉そうなんすか?」
 「彼女たちは特別だからな」
 「それでもっすよ」


 男はそういうと腹立たし気な顔をしたままこう言い放った。


 「あいつらだって自分たちの敵と同じ存在なのでしょう。信じられるわけないっすよ」
 「……ま、言いたいことは分かるな」


 確かにそうだった。
 彼女たちは人知を超えた存在で、いつ敵対することになるかもわからない。それに今世界を滅ぼそうとしているのは、間違いなく同類である魔法少女達なのだ。信頼などできるはずがなかった。
 しかし、小隊長の考えは少し違った。


 「まぁ、お前の言うことも一理あるな」
 「そうっすよね」
 「だがな、彼女たちのおかげ勝利を得ることができていることも事実なんだよ」
 「まぁ、こっちの装備じゃせいぜい翼を殺せる程度ですものね」
 「俺たちは、彼女たちに頼るしかないんだよ」
 「……悲しいっすね」
 「そうだな」


 この後二人はジッと黙り込んだままになった。


 十分間ほどは特に何も起きず時間が過ぎていった。
 その間、ジッと周囲に気を配り続ける。わずかな物音にも過敏に反応してしまう。近くにハエが通りかかっただけで、ビクンッと体が跳ね上がる。それとは対照的に、詩音はあくび交じりに飛んでいた。
 どうしてそんな余裕でいられるのか、マリアは詩音の考えがよく分からなかった。
 ただひたすらに飛んでいた朱鷺は、ジッと前だけを睨み続けている。
 だが、その表情が一変した。仏頂面から険しい顔になるといきなり大きな声を上げた。


 「詩音!!」
 「おっ……思ったより早かったな」


 そう呟くといきなり戦闘態勢をとる詩音、突然速度を落とすと地面に降り立って、両手を地面につける。朱鷺は腕をサッと上げると一度トラックの運転を止めさせた。その一連の動作を見て、マリアは察した。
 敵が来たのだ。
 ゾッとする、冷たい感覚が背中を駆け抜けていく。まるで服の襟から氷を入れられたかのよう。



 詩音はマリアに向かって言った。


 「いいか、地面に降りるなよ!!!」
 「え?」
 「朱鷺!! どれぐらいだ!?」
 「分からん!! だがそこまで多くない!!」
 「よし、なら全滅させるぞ!!」
 「分かった。仕掛ける!!」


 その次の瞬間
 周囲の木々から何人かの翼の少女が飛び出してきた。
 こちらに攻撃を仕掛けて来たのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。なぜなら、彼女たちの体には白い紙が大量に張り付いているのが分かった。どうやら、それから逃げようとしているらしかった。
 しかし、そう簡単に逃がすわけがない。
 一方の詩音は能力を発動すると、自分を中心として氷を張り巡らしていく。パキパキパキという冷たい音がして、まるで凍土のようになっていく。それは一瞬のうちに木々の影に隠れていく。


 すると、木の陰に隠れて式神から逃げることができた数人の翼の少女たちがそれに捕らわれて凍り付いていく。
 狙い通りだった。
 その間に宙を舞っていた翼の少女たちは完全に動きを封じられて、数体は重力に引かれるとゆっくりと落ちていく。
 朱鷺は近くに数体に落ちてきた二つの白い塊に向かって七節棍を伸ばすと、式神越しに貫き殺した。グチャリという肉が潰れる音がして、ジワッと血が滲み出る。だがすぐに粒子化して消えてしまう。
 少し赤くなった式神がまるで雪のように降り注ぐ。
 詩音は地面から手を離して飛び上がると、掌から氷柱を伸ばすとそれで近くに落ちてくる敵を突き殺していった。
 一仕事終え、ふぅと息をついてから首を回すとマリアに話しかける。


 「マリアもやれよ」
 「え……でも……」
 「あ、まだ抵抗ある?」
 「……ちょっと」
 「ならいいや。徐々に慣れな」
 「そうします」


 そう言ってから、周囲に落ちた残りの翼の少女を殺しに行った。結果、五分も経たないうちに初めに現れた敵は全滅した。
 圧倒的だった。
 これだけでマリアは分かった。この二人は相当強い、能力を使いこなしていて、連携プレーも見事に成り立っている。
 自分なんか入る隙間もなかった。
 朱鷺と詩音は先頭のトラックの前に降り立った。


 「やったぜ!!」
 「……いや、ちょっと待て」
 「なんだよ」
 「敵が来る」
 「んなわけ」


 そこまで行ったとき
 ドゴンッという音がして宙から一体の絶望少女が降り立った。
 身長3m程度、まさに巨人と言った見た目で両手は地面につくほど長かった。さらに、腰のあたりからびっくりするほど太い尻尾が一本生えていた。両肩には大きな翼が生えており、どうやらそれで飛んできたらしい。
 その絶望少女は体をのけぞらせ大声で叫ぶ。


 「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
 「なんだこいつ」
 「ふむ、殲滅するか」


 朱鷺は一本の七節棍を顕現すると、それを両手に持って構える。詩音もハンマーを生み出し、いつでも振るえるようにする。マリアはどうすればいいのか分からず困り果て、手持無沙汰で震えている。


sage