出撃 その③



 ちらりと後ろを見てそれを確認した朱鷺は強い声で話しかける。


 「マリア!!」
 「えっ!?」
 「お前は一人でトラックの護衛を頼む。行け!!」


 その声と同時に三台のトラックが同時に動きを見せると、高速で後ろに下がっていく。呆気に取られていたマリアは反応が遅れてしまうが、急いで追いかけていく。
 それを見た絶望少女はもう一度「グギャァァァァァァ!!」と叫ぶと、翼を大きく振るう。
 すると、バクンッという音がして尻尾が二つに割れ、中から何かが飛び出してくる。
 翼の少女が数体飛び出す。
 どうやら、そこに収納していたらしい。
 二人は目を丸くして驚く。あまりに予想外のことだった。


 「ヤバッ!!」
 「詩音、あれはマリア任せろ」
 「それは……」
 「あんな奴らにやられるようなら使い物にならん!! 足手まといは死ぬべし」
 「――ッ!!」


 逡巡する詩音
 本当はマリアのサポートに回りたかった。
 しかし、その考えを吹き飛ばすかのように、絶望少女が攻撃を仕掛けてくる。長い腕を鞭のように振るうと二人まとめて絡めとろうとしてくる。その攻撃をかわすために地面を蹴って飛び上がると、一旦距離を取る。
 もう今から行っては隙を見せるだけである。
 これではどうにもならない。
 戦うしかない。


 「クソッ!! さっさと終わらせるぞ!!!」
 「相分かった!!」

 それぞれの得物を携えて、二人は絶望少女に向かって行った。



 「嘘でしょ…………」


 マリアは小さくそう呟くと自分に向かって来る翼の少女たちを見る。まさか、あの絶望少女からこんなに出てくるとは思っていなかった。だが呆然としながらも、体は勝手に動いていた。
 右手を開くと、そこに剣を作り出す。
 しっかりとそれを握りこみ、先を向ける。


 「…………戦わなきゃ……」


 嫌だった。
 だが、やらなくてはいけない。
 なぜなら翼の少女たちが完全に自分のことを敵と認識しているからだ。逃げたところで追いかけてくる、おそらく彼女たちは地獄の果てまで自分を追い詰めるだろう。それなら戦う方が十倍もマシだった
 それに、敵の数はたったの三体、集中すれば勝てないことも無いように思えた。この間の初めての勝利がマリアにそう思わせていた。
 マリアは一瞬の間に覚悟を決めた。



 しっかりと中段の構えを取ると、そのまま少し前かがみになって宙を飛ぶと翼の少女たちに向かって行く。


 「ああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 やけくそになり、大声で叫ぶ。
 翼の少女たちはその姿を見ると、散開する。
 二人が左右に、残った一人が刀を突き出すようにそのまま突っ込んでくる。どうやら、かわす気など全くないらしい。マリアはとりあえず目の前の翼の少女から片付けることにした。


 「ああああ!!!」
 「…………」


 先に動きを見せたのは翼の少女だった。
 ヒュッと宙を切る音がして、刀が突き出される。それは寸分違わず首元を狙って来ていた。
 手首だけをサッと動かすと、剣先で刀を弾いた。そのせいで狙いが外れた刀は、そのまま首筋をかすっていく。一方で、翼の少女の懐に入ったマリアは、そのまま腕を大きく振るうと翼の少女を真っ二つに切り裂く。
 腹が裂けて、力を失った上半身がマリアに向かって倒れ込んでくる。


 「ヒッ!!」


 マリアは思わず後ろに下がると、それを躱してしまう。
 その姿は隙だらけで、格好の的だった。
 左右に分かれた翼の少女のうち、右に行った少女が刀を振るうとマリアの首を落とそうとする。ちらりと左目の端でそれを確認したマリアは、咄嗟に腕を振るうと剣で刀を受けようとする。
 ところが、その少女は思いもよらない行動をとった。
 パッと手を放し、刀を消すと右足を上げ、剣を蹴り上げたのだ。ガキンッという音がして腕が跳ね上げられてしまう、まるで万歳のような格好になってしまった。完全にやられてしまった。
 少女はもう一度刀を生み出すと、それでマリアを突き殺そうとする。
 このままでは簡単に逃げることはできない。


 「ヒィッ!!??」


 このままでは突き殺されてしまう。
 そう思った瞬間、マリアの脳内はたった一つのことでいっぱいになった。
 死にたくない。
 その時、突然声がかかった。


 「マリア!! 瞬間移動をするんだ!!」
 「――ッ!?」


 誰の声か分からないが、マリアは無意識のままそれに反応した。
 一瞬の間に大量の魔力を放出すると、姿が消える。翼の少女はそのまま虚空に向かって攻撃を仕掛けた。だが、それは見事なまでに無意味な行動だった。少女はマリアの姿が消えたことに困惑し、動きをピタリと止めると顔をキョロキョロとする。
 マリアは、数m後ろに飛んでいた。
 咄嗟に思いついた場所が底だったのだ。おそらくこれが座標を指定するということなのだろう。
 感覚だけだが、マリアは瞬間移動の発動に成功した。


 「これが……瞬間移動」
 「その通りさ」
 「クライシス!! どこにいたの!!」


 さっきの声は彼のものだった。



 クライシスはいつも通りの声のトーンと顔でさも楽し気にマリアに話しかけてきた。


 「すまないね。最終的な調整に時間がかかっていて、おかげで完璧になったけど」
 「もー!! そうならそうと言ってよ!!」
 「ハハハ、すまない。それより、早く敵を」
 「忘れてた!!」


 マリアは急いで顔を向ける。
 すると同時に翼の少女の目と自分の目とがピッタリと合った。すぐに命の危険を感じ戦闘態勢をとる、今度は右手に剣を構え、左手はいつでも振るえるようにする。翼の少女も同じように構えの姿勢を取った。
 緊迫した空気が流れる。
 クライシスはそれを壊さない程度にマリアに話しかけた。


 「いいかい、君の魔力吸収の射程は短い。せいぜい掌から1m範囲内だ」
 「そうなの?」
 「だから残った二つの能力はその能力を補助するものになっている」
 「どういうこと?」
 「瞬間移動は即座に離脱するため、もう一つの能力は接近するためにある」
 「なるほどね……」
 「いいかい、君は今すぐもう一つの能力を顕現するんだ」
 「どうすればいいの?」
 「単純だ、止まれと願え」
 「……止まれ……?」
 「そうだ」
 「……OK、分かった」


 とりあえず言われた通りにしてみることに決めた。目を閉じて、意識を集中させる。クライシスの言うことを脳内で反芻する。意味は分からなくていい、マリアは今までの戦いで感覚で戦うことが一番だと悟っていた。
 翼の少女は間髪入れず地面を蹴って飛び出した。
 目を閉じたマリアの姿は完全に隙だらけなのだ。
 刀を振りかざし、その切っ先をマリアの喉元に浮きつけようとする。
 だがその前にマリアは目を開けた、そして目と鼻の先までで迫ってきた少女のことを睨み付ける。


 死が迫ってきている。
 その恐怖感がマリアを強くする。


 「止まれ!!!」


 声に出していたつもりは無かったが、どうやら無意識のうちに口走っていたらしい。少し震えた声が軽やかに響き渡る。


 その瞬間


 能力が顕現した。



 
sage