苦戦 その①
フレイヤは戦場で戦っていた。
両手にガトリングガンを手にして、それを宙に向けて乱射していた。銃身がグルグルと回り、圧倒的な熱と銃声を響き渡らせていく。強烈な反動も襲ってくるが、そんなものは魔法少女の筋力で何とでもなった。
ほかにもいくつもの銃火器が円を描くように配置されていて、自動的に銃弾を大量にはなっていた。
大量の銃弾が空を舞うと、次から次へと翼の少女を撃ち落としていく。
かれこれ十五分はこうしているが、減った気が全くしない。
後ろでは数十名の国連軍がレーザー銃を手にフレイヤの援護をしていた。彼らは周囲の重火器に身を守られながら、赤い閃光を飛ばしていく。
彼らの本隊は現在撤退中で、フレイヤその時間稼ぎに駆り出されていたのだ。
しかし、いかんせん数が多い
全戦力を集中しているだけあって、もう何百人と撃ち落としたが、まだまだ空を覆うぐらいの翼の少女が向かって来ていた。それは比喩などではなく、実際空を覆いつくしているのだ。
フレイヤは銃声に負けないぐらい声を張り上げるといった。
「あなた達!! 今すぐ撤退しなさい!! この場は私一人で平気だから!!」
「その命令には従えない!!」
「そうだ!! 年端も行かない少女を一人残して逃げられるか!!」
「――ッ!! 訳の分からないプライドを!!」
それに、自分はもう二五だ。
年端も行かない少女ではない。
そう言いたかったが、空の向こう側からさらに敵が来るのを見て、射撃に集中することにした。今のところ一匹たりとも逃がしていないが、はっきり言って戦況は不利だった。いかんせん数が多すぎる。
それに、後ろにいる奴らを守りながらでは、本気で戦えない。
「邪魔なのに……ッ!!」
だが、希望が全くないわけではない。
フレイヤはサッと顔を上げると小さく呟く。
「デルタ……早く来て!!」
いい加減魔力も限界を迎えそうだが、補給する隙が無い。
ひたすら引き金を吹き続け、銃弾を吐き出し続ける。翼の少女はそれを受け、ズタズタになり、消えていく。大量の粒子が淀んだ空気の中にたまって呼吸が苦しくなるような気がする。実際そんなことはないのだが、そんな感覚が頭にこびりつく。
耳が完全に麻痺してしまっている。
フレイヤは苛立ちに身を任せてもう一度叫んだ。
「さっさと撤退して!!!」
そしてまた、不毛なやり取りが繰り返される。
一方のデルタはビーグルに乗って道を進んでいた。
アクセルを思いっきり踏み込み、最高速度を出している。彼女はフレイヤ達のいた駐屯所で魔力の補給をしていたので遅れてしまったのだ、そのせいでフレイヤは一人で戦っている。
彼女はそのため、援護に向かっているのだ。
それでももうすぐ辿り着くはずだった、なぜならさっき撤退している軍隊とすれ違ったからである。また、両目のズーム機能を利用して翼の少女が集まっている姿を確認できた。
「ここら辺でいいかナ?」
デルタはそう呟くと、ビークルから降りる。
ちなみに、このビークルというのは達也がデルタ専用に作った次世代三輪高機動車両だった。時速百kmレベルを簡単に出すことができ、バイク以上の機動性を誇る。また、デルタ専用の武装を搭載できるようにもなっている。
ほかにも、ビークルにも多少銃火器が搭載されているので、強行突破も多少可能である。
デルタはブレーキをかけてビークルを止めると、一度降りて武装を切り替えることにする。
後ろにある四角い箱を開く。すると、中にはいくつもの武装が転がっていた。デルタは切り替える前に左腕を掴むと、肩のジョイント部分を切り離す。そして腕を投げ捨てると代わりに武装を取り付ける。
それはさっきまでの腕とはまた違うものだった。サイズが一回り大きく、より多くの火器を内蔵していた。
また、奥の方にあるバックパックも手に取るとそれを背中に取り付ける。これで滞空時間が増えるはずだ。
「準備良シ」
満足そうに頷く。
だが、あまり優越感に浸っている時間はない。
腰を低く構えると、バックパックを起動する。ガションという音が鳴り、装甲が開くとブースター顔をのぞかせる、同時に太もも部分のブースターにも火が付いた。これでいつでも飛ぶことができる。
「行っくヨー」
ドンッという音がして、真っ赤な火が噴き出す。
同時に地面を蹴ると、超高速で飛び上がる。
そのまま白い煙を吐きながら、まるでジェット機のように空を舞う。その間に左腕の装甲を展開すると、大量のレーザーの砲門を開く。全て銃口が元のものと比べて何倍も大きかった。
デルタは特に狙いをつけることなく、一斉に発射する。
「ファイヤ!!!」
その声と共に大量のレーザーが宙を舞い、翼の少女たちに襲い掛かる。適当に放たれたそれらだが、密集している少女たちに吸い込まれていく。照準など合わせる必要はなどない、放っておいても勝手に当たるからだ。
フレイヤの銃撃も合わせて一気に大量の少女たちも灰となり消えていく。
「やっと来たわね」
赤い熱線が飛び交う宙を見て、フレイヤはホッと一息つく。さすがに面倒だったので、これで相当楽になるはずだった。
一旦右腕の銃を下ろすと、そこに量産型のコアを取り出す。それで魔力の回復をする。これでまだまだ戦うことができる。
「あなた達、援軍が来たわ。これで撤退できるでしょ」
「拒否する」
「……邪魔なのに」
「なんか言ったか!?」
「邪魔なの!!」
もう一度銃を構え直し、迎撃を続ける。
仕切り直しだ。
二人の活躍もあって、十分もすると殆どの翼の少女を殺すことに成功した。
結局、最後まで小隊は撤退することなく後ろで援護を続けていた。はっきり言って役に立っていたとは言えないが、最後まで残っていた気概だけは評価できた。決して良いこととは言えないが
デルタはフレイヤの隣に来ると、いつも通り話しかける。
「ごめんなさイ。遅くなっタ」
「いいわよ別に」
「次は何をすればいイ?」
「そうね、彼らの撤退の援護をお願い」
「エ?」
「私にはまだ、仕事がある」
フレイヤはそう言いながら、顔を後ろに向ける。
すると一人の魔法少女が向かって来ているのが見えた。彼女は先ほどまでの翼の少女たちを操っていた司令官だった、もう手駒がなくなってしまったのでしょうがなしに自分が出てきたのだ。
彼女はまるで海のような深い色をした麗装を身にまとい、巨大な銛を手にして道を進んでいた。その目はまるで死んだ魚の目ようで、ゾンビのようにフラフラと前に進む。時々、崩れたアスファルトに引っかかって転びそうにもなっていた。
フレイヤは両手にサブマシンガンを顕現し、それを握って向かいあうように進んでいく。
「あなたは、他の敵に警戒しなさい」
「分かりましタ」
「彼女達には、私一人で十分」
「……達?」
ほかにも敵がいるのだろうか
そう思って目を凝らしてみる。すると、もう一人、近くのビルに魔法少女がいるのが見えた。どんな姿をしているのかはっきりと見て取れなかったが、魔法少女であることに違いはなさそうだった。
少し心配になったデルタはフレイヤの背中に話しかけようとする。
だが、自信満々のその姿を見て何も言えなくなる。
「……任せまス」
「じゃ、行ってくるね」
そう言い残して、フレイヤは地面を蹴って飛び出す。
まるでスーパーマンのように、両手をまっすぐ伸ばし、二丁のサブマシンガンの銃口を少女に向ける。それを受けて、少女も顔をパッと上げると、両手に持っていた銛をグルグルと回転させる。
フレイヤは引き金を引くと、一気に銃弾を放つ。
だが、その全ては銛に弾かれてしまう。
「あらあら、なら、これはどう?」
そう言ってサブマシンガンを投げ捨てると今度はグレネードランチャーを構える。足をしっかりと地につけて、寸分違わず狙いをつける。
これなら銛越しにでもダメージを与えられる。
フレイヤは引き金を引こうとする。
だが、その前に敵の少女が動いた。
「海の女をなめないでー」
「何?」
その少女は足を思いっきり天にあげた。
フレイヤは何かされるかも、と思い攻撃を少し躊躇してしまう。
その隙に、少女は足を思いっきり振り下ろした。