アリーナ戦 その①



 フレイヤの言葉の通りだった。
 アリーナにつくや否や、彼女は無双し始めた。
 近づくにつれて翼の少女や絶望少女の数は増えていった。宙を舞う彼女たちを狙って光弾や特攻を仕掛けてくる。しかし、その数も大したことはなかった。どうやら迎撃より防衛に力を削ぐつもりでいるようだった。
 そのことを看破したフレイヤはサッと手を上げると無言のまま詩音と朱鷺に命令した。
 それだけで察した彼女たちは、先行すると露払いをして回った。
 ユウキ達はまだ動かない。彼らは一応本命なのだ。


「見えたぞ!! あれがアリーナだ!!」


 そう言って詩音が指さす。
 すると確かに円形のアリーナだった。天井が開いていて、そこにびっしりと翼の少女が待機しているのが見えた。そのうちの数体は普通の魔法少女らしく、ジッとこちらのことを観察している。
 あちらの司令官らしい。
 思いの外数が少なく、拍子抜けする。
 じっと見てみると、紫色の光が連なって見えた。どうやら光弾を一斉に放ってくるつもりのようだった。
 どうやらこちらを迎え撃つ気満々らしい。フレイヤは顔に笑みを浮かべるとこう言った。


 「私が止めるからちょっと待ってね」
 「任せた」
 「じゃ、行くよ」


 その声と共に大量のナイフが空中からポッと出てくると、鳥のように宙を切って、光の塊の方に向かって行く。それに合わせて敵も一斉に発射する。二つが正面からぶつかるまで大した時間はかからなかった。
 ドドドドドドドドドッ!! と連続して爆発音が響き、真っ黒い爆煙が雲のように満ちていく。
 完全に視界が遮られる。
 これは好機だった。


 「みんな!! 煙にまぎれて行って!!」
 「分かったぜ!!」
 「承知した」
 「行きまス」
 「マリア、ついてこい!!」
 「え、え、わ、分かった!!」


 とりあえずユウキの言うことに従うことにした。
 五人は一斉に煙の中へと突っ込んで行った。視界がまともに利かないが、他の人は迷うことなく突っ込んでいく。ユウキはマリアのために速度を少し落として、案内してくれているようだった。
 ありがたいことだった。
 だが、それでも煙を抜けるまで一分もかからなかった。
 黒い尾を引きながら全員が飛び出す。
 すると大量の敵が目の前に迫ってきているのが分かった。
 一番近くてもう目と鼻の先まで来ていた。
 ユウキはサッと腕を上げると、自分の体を中心としてサイコキネシスを放つ。すると、ドンッという音がして翼の少女たちが吹き飛んだ。腕や翼がちぎれて、ブシャッという音をたてて血を吐き出す。
 それでやられたのか、重力に引かれて落ちていく。
 詩音は両手から何度も冷凍光線を放ち、絶望少女や翼の少女を凍らせていく。
 朱鷺は朱鷺で一歩先を行くと、式神が舞う中で七節棍を振り回している。鎖を限界まで伸ばし、鞭のようにして翼の少女の体をズタズタにしていく。おまけに、式神のせいで連携もガタガタになっている。
 フレイヤは両手にAK―47を携えると、後ろに控えているマリアにちらりと視線を向けて呟いた。


 「頑張りなさいよ」
 「フレイヤさん」
 「何?」
 「ありがとうございます」
 「フフフフフ、礼を言うのは勝ってからね」
 「はい!!」


 自分のためにこの力を振るう。意味など考える必要はない。
 これならしっかりと戦えるような気がした。
 フレイヤはマリアが小さく頷くのを見てから、先に進んでいった。脇に銃を構えて、特に狙いをつけず引き金を引き、銃弾を吐き出し続ける。また、周囲にはRPG―7を生成してロケット弾を滅多撃ちにする。
 独特な形状をしたそれらは、次から次へと命中しいくつもの爆発を起こしていく。
 小さな黒い雲がいくつも発生する。
 マリアは左手に剣を持ち、右手に力を込める。いつでも能力を顕現できるようにしている。
 ふと気が付くと、目の前にまで翼の少女が来ている。間の距離は2mもない。あっという間に射程内に入るだろう。
 どうやらフレイヤ達の攻撃を抜けて来たらしい。右腕をヒュッと突き出すと、刀でマリアを突き殺そうとしてくる。


 「クッ!!」


 それを身をよじらせてかわすと、右腕から見えない腕を伸ばし、翼の少女に触れる。
 と、同時にボッという音がして粒子化して消える。
 その瞬間、また殺してしまったという思いがこみ上げてくる。だが必死にそれから目を逸らす。たぶんしっかりと受け止めたら崩れ落ちてしまう、弱い人間だと後ろ指さされても仕方ない。
 マリアは心の中で言い訳をする。


 「マリア!! 右から来てるよ!!」
 「――ッ!!!」


 クライシスの声が響く。マリアは急いでそちらの方を向くと、右腕の剣を振るう。するとそこまで来ていた翼の少女の体を切り裂くことに成功した。スパッと心地よく腹部に真っ直ぐ鋭い傷が付く。
 思いの外、深い傷だったようで、そこから内臓をこぼしながら高度を落としていく。


 「私は……悪くない」


 言葉にしてそう呟く。
 クライシスはフレイヤとマリアの話を聞いていたので、何も言わない。
 これは自分のためだ。
 だから
 しょうがない
 しょうがないのだ。
 何度も自分にそう言い聞かして、マリアは戦場へと降り立っていく。





 「殲滅ダー!!」


 デルタはそう叫ぶとアリーナの出入り口に向かって行く。
 そこまで距離は約三〇〇mあるが、その道中にも大量の翼の少女がひしめいている。その全てを叩きのめすつもりでいた。ビークルはここから数百m離れたところに置いて来た。代わりと言っては何だが、右腕に武装が追加されていた。


 口径50cmのレーザー砲
 遠距離殲滅用の武装。
 デルタは一旦足を止めると、右腕の砲口を翼の少女の集団に向ける。首元からコードが伸びていて、それがレーザー砲に接続されている。それで直接手を触れることなく、武装んぽ操作が可能なのだ。
 翼の少女は、攻撃される前に攻撃を仕掛けることにしたらしい。
 刀を構え、光弾を顕現するとまっすぐデルタに向かって突っ込んでくる。
 だがすでに手遅れだ。
 仮に彼女が生身の人間で、表情を出すことができていたら、勝利の笑みを浮かべているところだろう。しかし残念なことに彼女は普通の人間ではない、顔に見えるのはそこに投影されているただの映像なのだ。
 砲口の奥から鮮やかな光が放たれる。
 大量の魔力がそこに集中し、レーザーへと変換されていく。


 「喰らいナ」


 その声と共に引き金が引かれ、太いレーザーがまっすぐ放たれる。
 それはアスファルトで覆った地面を抉りながら、突き進んでいくと翼の少女を焼き殺していく。光に飲み込まれ、消えていく。塵一つ、翼の一枚、粒子の一つも残さない。完全なる消去だった。
 レーザーはそのままアリーナの外壁に命中、轟音と共に大爆発を起こす。
 一方でレーザー砲はバシュッという音をたてると、装甲の一部が展開し白い煙を吐き出す。排熱だ。
 それが終わるまでは約五分ほどかかる。
 しかし、それを待っている余裕はない。顔を上げてみるとマリア達がアリーナに攻撃を仕掛けている姿が見えた。


 「思ったより時間かかったナ」


 しょうがないので腕のレーザー砲は捨てていくことにした。
 その命令を送ると、また装甲が外れる音がしてレーザー砲が重力に引かれ、ゴトリという音をたてる。それと同時にレーザー砲の下に隠れていた腕が露わになる。
 それを顔の横まで持って来て、二度三度閉じたり開いたりする。問題なく無事に動いた。


 「さてト、デルタ、いっきまース!!」


 そう言って全力で走り出す。
 とりあえずアリーナまでの障害は消えてなくなったので、遠慮なく道を進むことができる。その間に、戦闘準備を整えておくことにする。
 前腕部の装甲を展開すると、腕の側面から三日月のような形をしたエネルギー刀が顕現する。それは魔力の粒をまき散らし、美しく輝いていた。


 「輝彩滑刀の流法ってネ」


 デルタはそのまま突っ込んでいくと、全力で地面を蹴って飛び上がる。火を噴いて宙を舞い、壁を乗り越える。
 そして、宙を舞う翼の少女や絶望少女を切り伏せたり、腰からのレーザーで撃ち抜いていく。


sage