アリーナ戦 その②


 ユウキはそれに気が付いて近くに寄ると話しかけた。


 「遅かったな」
 「ごめン」
 「急ぐぞ、敵の数は結構多い」
 「分かってル」
 「じゃ、俺はマリアの面倒見ながらだから」
 「任せテ、先に下りてるかラ」
 「おう、行ってこい」
 「うン」


 その言葉を最後に、ブースターを全力で吹かすとまっすぐ地面に向かって行く。邪魔するものは、切り捨て、撃ち抜き
 五分もしないうちに彼女は見事包囲網を突破して降り立った。
 そのそばに、詩音と朱鷺も降りてくる。
 彼女たちは三人で背中を合わせると、お互いの死角を補い合いながら向かってくる敵を殺していく。二人はデルタに聞きたいことがあり、わざわざここまで来たのだ。詩音が代表して口を開くと話しかけた。


 「おい!! 敵の数は!!」
 「少し待っテ、今数えているとこロ」


 魔力レーダーを活かして大体の敵の数を割り出す。
 細かい数こそ分からないが、これで大まかな数は分かる。計測にまで一分もかからなかった。


 「四〇〇から五〇〇かナ」
 「……少なくないか!?」
 「詩音の言う通りだ」
 「そう言われてモ……」


 一個師団が動員されるということは、千五〇〇から二千いてもおかしくはない。多少は出撃していていないとしても、千以下というのはどう考えてもあり得ない。衛星での計測に間違いがあったのか
 もしくはこっちの襲撃がばれていたか
 だが、ここを制覇するのに数が少ないのはありがたいことだった。
 話を聞いて少し考え込んでいた朱鷺だが、近くに司令官の魔法少女達がいるのを見てそこに向かって行くことにした。彼女たちは、顔見知りだった。最後に二人に向けて一言いい残しておく。


 「国連軍はどうだ?」
 「え?」
 「あっちの動きがばれていたのでは?」
 「可能性は、あル」


 冷静にそう返すデルタ
 だが、それは最悪のパターンだった。


 「まぁいい。私は行く」
 「司令官?」
 「二人いる」
 「なら、私モ」
 「おう、背中は任せとけ」


 その言葉を背に、朱鷺とデルタは司令官に向かって飛んで行った。詩音は二人の背中を守るために一人、戦闘態勢をとる。両掌から氷の氷柱を生やすと、その先を翼の少女たちに向ける。
 ついでに光弾をいくつか生み出し、先に飛ばし、攻撃する。
 ドンッ!! ドンッ!! という爆発音が響く。
 その後で詩音は飛び上がると敵に向かって切りかかる。


 「ぶっ殺すぜ!! 覚悟しな!!」



 「デルタ、お前は右を頼む、俺は左の奴を殺す」
 「分かっタ」


 二人はまっすぐ魔法少女に向かって突っ込んでいく。
 敵はそれぞれの得物を手にしたまま、ニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべながら話を始める。


 「薔薇さんさん、朱鷺さんさんですよ」
 「そうなのです。三年ぶりなのですよ、絶望少女戦以来なのですよ」


 刀を持ち彼岸花のように真っ赤な髪をした少女と、同じく真っ赤な瞳をした少女。刀を持った方が彼岸で、ボウガンのような武器を持っている方が薔薇だった。二人とも原初の魔法少女側についたベテランだった。
 過去は朱鷺と組んで由良という魔法少女の手足として働いていた時期もあった。
 しかし、史上最悪の絶望少女戦を境に解散してバラバラになった。
 彼女たちは、戦闘態勢をとる。刀を構え、ボウガンに矢を生み出し、射撃準備を整える。
 朱鷺はそれを見て、フッと苦笑を浮かべると話しかける。


 「久しぶりだな」
 「そうなのです」
 「朱鷺さんさん、容赦しませんからね」
 「構わん!! デルタは薔薇を頼む!! 私は彼岸をやる」
 「了解!! 行きまス!!」


 その声と共に掌を向けると、そこからエネルギー弾を放射する。
 薔薇はボウガンの先をそちらに向けると引き金を引き、矢を放つ。高速で放たれたそれは二人のちょうど中間の位置でぶつかり合い、爆発を起こす。デルタはそれだけではなく、両腕からレーザーを放つと追い打ちをかける。
 しかし、薔薇はそれをサッとかわす。そのまま後ろに飛んで行くと、デルタから距離を取る。
 朱鷺はその煙を死角にしてあっという間に彼岸に近づいた。


 「覚悟!!」
 「朱鷺さんさん、私の強さ忘れたのです?」
 「覚えている!! 斬撃伝播、あの能力は強力さ」
 「なら、油断してはいけませんせん」


 そういうと、彼岸は刀を振るう。
 朱鷺はそれを七節棍で受けることなく、急停止してかわすと右手を前に出し、式神を大量に放つ。目隠しのつもりだったのだが、彼岸は刀を何度も振るうとそれですべての式神を切り裂き視界を開く。
 一瞬だった。
 しかし朱鷺はその隙に後ろに回り込むと、七節棍を突き出す。


 「うーん。能力ばれてるとやりづらいね」
 「お互い様だろ?」


 彼岸は刀を構えたままその場で高速回転すると、ヘリコプターの羽根のように回転させ、朱鷺を振り払う。
 刀で切り裂かれるとやばいので、速度を一気に上げると弾丸のように後ろに飛ぶ。
 彼岸の能力、斬撃伝播は切り裂いた物質に斬撃を伝わせることができる。つまり切られた場合、全身を斬撃が駆け巡ることとなる。強力な能力だが、切られなければたいしたことはない。
 ある意味では対処のしようがいくらでもある能力だ。
 おまけに、今は薔薇と連携を取ることができない状態なのでその力も半減している。
 だが強い。



 警戒して一旦距離を取った朱鷺はもう一度式神を放つ。
 大量の紙が束になって襲い掛かるも、やはりあっという間に振り払われる。


 「朱鷺さんさん、がんばれー」
 「――ッ!! 馬鹿にして!!」


 そう叫び、ギリギリまで接近すると七節棍の鎖を伸ばしてそれを振るう。彼岸の刀を弾き飛ばそうとしたのだ。その目論見は半分だけうまくいった。ガキンッという鈍い音が響いたが、それだけだった。
 刀は飛ぶことなく、しっかりと彼女の手に握られている。


 「うーん、惜しい!!」
 「茶化すな!!」


 しびれを切らした朱鷺は、棍を元に戻し、槍のように持つと首元を狙って突き出す。彼岸も同じように刀で突きを繰り出して、七節棍を止める。
 すると、命中したその場所から斬撃が走ると棍を伝って時に襲い掛かる。


 「――ッ!!」
 このままでは自分が切り裂かれてしまうので、棍を手放すと一気に懐まで飛び込んで、右足を振るうと思いっきり蹴りを決める。グニュッという感触と共に彼岸の顔が醜く歪む。見事に決まった。
 体をくの字に折った彼岸を見て、朱鷺は足を戻すと同時に腕を伸ばし彼岸の頭を掴む。
 そして頭を引き寄せると、同時に思いっきり膝を開けると顔面に叩きつける。
 ゴギャッという嫌な音がして、顔が潰される彼岸。その痛みに負けてうっかり刀を手放してしまう。 


 「――ッ!!」
 「忘れたのか? 私の本職はこっちだぞ」


 次に手を放し、一旦彼岸の体を自由にすると、一瞬のうちに棍を一本生み出す。それをしっかりと右手に握ると、全力で彼岸の腹部に突き刺した。それはほんの少しの抵抗があっただけであっさりとめり込んでいく。
 そして、あっという間に左わき腹を貫通した。
 彼岸は顔を真っ青にし、口を開くと悲鳴を上げた。


 「あああああああああああああ!!!」
 「死ねぇっ!!」


 最後に空中で一回転すると見事な回し蹴りを顔面に叩きこんだ。
 見事なまでの追い打ちだった。
 彼岸は顔面についた傷から盛大に血を吹き出しながら吹き飛ばされていく。意識が飛んでいるわけではないようだが、少し力が抜けているらしい。枝のように生えた七節棍に手を当てながら落ちていく。
 隙だらけだ。
 朱鷺は腕をクロスさせ、大量の式神を彼岸の体にまとわせていく。
 すぐそれに気づいたものの、手遅れだった。
 彼女はまるでミイラのように紙に包まれて動きを制限されていく。刀を何とか顕現して振り払おうとするが、間に合わなかった。そもそもすでに刀を握ることさえままならない状態に陥っていた。
 朱鷺は冷たい目で彼女を見下ろして小さな声で呟いた。


 「終わりだ」


 そう宣告する。
 棍を生み出して、その先を向ける。
 最後に一言だけ呟いた。


 「今生の別れだ。お前のことは嫌いじゃなかったよ」


 次の瞬間
 腕を振るい、まるで矢のように棍を投げつけた。
 彼岸にそれを躱す術はなかった。


sage