アリーナ戦 その③




 デルタは指先からレーザーを放つと、それで撃ち抜こうとする。。彼女はそれを見事にかわすと、ボウガンの矢を連続して放つ。
 目の前にまで来たそれを、両手を高速で動かして弾き飛ばした。
 二人の間の距離がさらに開いていき、十mほど


 「やるじゃん!!」
 「…………殺ス!!」


 舐められている
 そう思ったデルタは、腰の装甲を展開しそこからレ―ザーを放つ。予想外のところからの予想外の攻撃に、薔薇は目を丸くするものの、反射的に手の平を広げると能力を使って対処をする。
 指先から糸のようなものが放たれると、それが繭を作るように自分の周囲をグルグルと回り始める。
 レーザーはそれに命中すると、バチュンッという儚い音をたてて消える。
 デルタは魔力で織りなされたそれを見て、訝しげな顔をして呟く。


 「何こレ」
 「糸なのです。これが私の能力なのですなのです」


 そう言って大量の糸をデルタの方に向かわせる。それで捕まえようとしているのだが、そううまくいくわけがない。
 デルタは両腕のエネルギー刀でそれらを切り裂き、そのまままっすぐ薔薇に向かって行く。


 「殺してあげますます」
 「やってみナ」


 薔薇がボウガンの矢を放ち、デルタはそれを眼前で掴んだ。
 二人は視線を合わせてジッとにらみ合う。
 デルタは目からレーザーを放ち、顔面を吹き飛ばそうとする。だが薔薇は首を傾げてそれを躱す。だがレーザーは頬を少しだけ掠めて酷い火傷を残していく。
 薔薇は目の端でそれを見ると、冷たい表情を浮かべる。


 「生意気なのです!!」
 「うるさイ!!」


 デルタは指からワイヤーを放ち、薔薇も同じように糸を放つ。
 お互いの両手から放たれた色とりどりの二十筋にそれらは、一本一本正面からぶつかり合うと、そのまま勢いが死んでしまい垂れる。薔薇は腕を振るい、デルタは回収をしながらそれぞれを鞭のように振るう。
 バチンッという激しい音が鳴りあって、ぶつかり、弾かれる。
 このままでは埒が明かないのでデルタは一度距離を取ることに決めると、肩にある緊急回避用のブースターを吹かすと後ろに飛ぶ。


 「逃げてはいけないのですです」


 そう言って薔薇は雲のように大量の糸を放つとそれでデルタを捕らえようとする。
 しかし、遅かった。
 デルタは急いで右胸の装甲を展開するとそこにある大きな砲門を露出する。プシュッという軽い音がして、起動する。ゆっくりと銃身に当たる部分が伸びていくと、淡い光を放ち始める。
 魔力の充填が終わるまで約十秒
 異変を察した薔薇が鋭い糸をまっすぐ伸ばす。
 デルタは下手に動くことができないので躱せない。代わりに左腕をかざすとそこで攻撃を受ける。
 ベキッという嫌な音がして体の表面に張っている薄い魔力のシールドが突破されると、あっさりと突き抜ける。内部の危機がいくつか潰され、コードがちぎれる。傷跡から透明な冷却液が血液のように流れだす。
 痛みも違和感もない。
 だが、嫌な感じはする。


 デルタは「チッ」と舌を撃ちつつも、腕をブンッと乱暴に動かして糸を抜こうとする。
 しかし糸はまるで意思を持っているかのようにグルグルと動くと、デルタの腕を拘束してくる。これでは簡単に逃れることができない。


 「捕まえたのです。逃がさないのですよ」


 薔薇はそういうと、まるで魚のかかった網を上げる時のように腕を動かすとデルタを自分の方に引き寄せようとしてくる。
 グイッとものすごい力で引っ張られる。
 何とかブースターを全力で吹かして逃げようとする。
 体を使った全力の綱引きだが、はっきりしたことを言うとデルタに勝ち目はなかった。そもそも魔力で織りなして糸がそう簡単にちぎれるはずがない。


 「クッ!!」
 「こっち来てくださいなのです」


 数十秒間拮抗していたが時間の無駄だと悟るとデルタは最終手段をとることにした。
 突然、何かが外れる軽い音がする。それと同時にデルタの左関節部分が外れると、その部分だけが薔薇に向かって飛んで行く。
 それを反射的にキャッチすると、驚いた声を上げる。


 「何なのですこれ!! 仕掛け多すぎですです」
 「うるさイッ!! くらエッ!!」


 そう叫ぶと同時に左胸の魔力砲が火を噴いた。
 カッと一際激しい光を放つと、大量の魔力が砲弾となって放射され、薔薇の全身を包み込む。あっという間だった。デルタの腕を見て目を丸くしていた彼女は避けることができなかった。
 麗装と肉体が焼けていく。シールドなんて何一つとして役に立たなかった。
 薔薇は粒子一つ残すことなく、全身が焼けていく。
 魔力砲が通過し、宙に消えていくまで十秒もかからなかった。
 デルタは背中から大量に蒸気を吐き出して、体内を冷却していく。魔力砲は強力は兵器なのだが、代償が大きすぎるのだ。まず有効射程距離が短く、接近戦でしか使えない。おまけに一対多の戦闘では真価を発揮できないのだ。
 デルタは何も無くなった空中を見つめる。もう欠片も残っていない。


 「……まだ敵はいル」


 左腕を失ったのは痛いが戦えないことはない、まだまだ敵はいるのだ。こんなところでのんびりしている場合ではないのだ。
 これで司令官は一掃したので敵の動きもだいぶ鈍くなるはずだった。




 マリアは能力を使い、翼の少女の魔力を吸収しようとする。
 しかし、浅かった。左腕から伸びた不可視の腕は少女の魔力を半分ほど奪い取ったところで逃げられる。体の半分が粒子化しつつも、マリアから距離を取る。それを追いかけようと思うがその前に攻撃をしかけられる。
 光弾が生成されると、マリアに向かって真っ直ぐ放たれる。
 咄嗟に右腕の剣を掲げてそれを受ける。
 その瞬間に爆発を起こし、マリアを巻き込んで爆煙が広がる。その上勢いに押されて尻もちをついてしまう。


 「いたっ!!」


 隙が生まれた。
 別の翼の少女はそれを見逃さず、一気に近づくと刀でマリアを切り裂こうとする。
 目の端でそれを見たものの、間に合わない。


 「ヒィッ!!」


 ひきつった声を上げてしまう。
 翼の少女の白い顔が目の前にまで来た時
 いきなりベキンッという鈍い音がして翼の少女の首が折れる。


 「え?」
 「マリア!! 油断するなよ!!」
 「ユウキッ!!」
 「おら!! 右側にさっきのいるぞ!!」
 「――ッ!!」


 マリアは急いで態勢を立て直しそちらを向くと、剣を突き出す。
 すると半身を失った少女の平らな胸に剣がブスリと突き刺さった。そしてそのまま傷から真っ赤な血液を流しながらゆっくりと崩れ落ちていく。結局、彼女は地面に倒れ込む前に完全に消えてしまった。
 ユウキはマリアと背を合わせるように立つと話しながら敵を倒していく。


 「結構数減ったぞ!!」
 「本当!?」
 「あぁ、あと百体いるかいないかだ」
 「すごい……早い」
 「フレイヤさんのおかげだな」
 「確かにそうね」


 そう呟いて、空中でガトリングガンを乱射するフレイヤの姿を見る。
 飛び交う銃弾や銃火器が日光を反射して美しい輝きを見せる。荒々しい戦い方の割には、見事なまでに美しく。気をしっかりと保たないとそのまま見惚れてしまい、敵にやられてしまうかもしれない。
 話には聞いていた
 百花繚乱・一騎当千の二つ名があると
 なるほど
 納得だった。




 おそらく彼女の戦いっぷりを見た人間はみな同じ感想を抱いたのだろう。

 百花繚乱

 一騎当千

 それ以外にぴったりな言葉など、この世のどこにもないように思われた。

 結局、彼女一人でほとんどの敵を倒したのではないのだろうか

 一時間もしないうちにアリーナは制圧された。
 魔法少女たちはすっかり何も無くなったアリーナの中心に集まって、地面に座り、魔力を回復していった。マリアと詩音、デルタは勝利の余韻に浸って喜び合い、ユウキはその姿を優しい目で見ていた。フレイヤと朱鷺はぼそぼそと何か相談していた。
 どうやらフレイヤと朱鷺は無線機を使って達也と連絡を取っていたらしい。
 話が終わってから、フレイヤは全員の注目を集めると話を聞くように促した。


 「いい、撤退命令が出るまでここに待機するように言われたわ」
 「マジ!? 何でだよ」
 「敵の数が少ないことが気にかかっているらしくってね、国連軍が来て安全が確保できるまで待機らしいわ」
 「そういうことなら仕方ないネ」
 「……嫌だな……」
 「そうだな、ここには何もねぇじゃんか、つまらねぇな」


 詩音とマリアのぼやく声
 しかし、フレイヤは完全に無視した。


 「という訳だから、ごめんね」
 「私は構わん」
 「フレイヤさんが言うならしょうがねぇな、マリア」
 「そうだね、ユウキ」
 「分かりましタ」
 「チッ……ひと眠りでもしようかな」


 思い思いのセリフを吐いて、地面に座ったままくつろぎ始める。
 中々、平和な時間だった。


 マリアは空を見上げながらふと思った。
 結局国連軍が来る前に終わってしまった。
 それはいいことなのか、マリアには判断しかねた。



sage