全滅




 アリーナ周辺はまさに摩天楼といった様子だった。
 もちろん翼の少女や絶望少女が集中している場所が非常に近くにあるため、すっかり荒廃してしまい誰一人として住んでいない。前まではなかなか活気あふれる町だったが、その片鱗すら見て取れない。
 ゴーストタウンというにはあまりに豪華だがそれだけだ。
 今ではその代わりと言っては何だが約八千人からなる国連軍の一個師団がアリーナまで真っ直ぐつながる大通りを進軍していた。
 レーザー銃を手にした歩兵に、戦車、戦闘ヘリまで動員されている。
 はっきりしたことを言うと戦車など役に立たないのだが、アリーナの壁を破るのに利用される予定なのだ。


 彼らは戦場に向かうとは思えないほど軽い雰囲気を身にまとっていた。その理由とは単純で、フレイヤ達研究所の魔法少女がすでに戦闘を行っているからである。彼女たちが向かった戦場で負けは殆どない。
 というのも、彼女達だけで戦闘が終わってしまうことが多いからだ。
 わざわざ国連軍の兵士が戦わなくてもいいのだ。
 それでも出撃する理由はただ一つ、面子だ。
 彼らからすると、小さな研究所に所属しているたった六人だけで戦闘が終わっては、世界のためで戦っている自分たちの意味がない。世界のために戦っているアピールをするためにわざわざ戦場に向かっているのだ。
 それに、国連は魔法少女を信頼していないということもある
 しかし今実質世界を救っているのは世界に点在している魔法少女達である。


 彼らは隊列を組み、道を進む。
 一応警戒しているがどこか身が入っていない。
 そんな中、戦闘をきっている一人の兵士が数十m先にいる彼女を見つけた。



 彼女は道の中央で佇んでいた。
 明るい日光を吸収するどす黒い体で、ただひたすらジッと軍隊を眺める。普通の少女のサイズをしており、絶望少女とはまた違った特徴を有していた。目が真っ赤に光り輝いて、口はまるで三日月のようにぱっくりと開いていた。
 わずかばかりに吹く風に体の粒子が乗って、ローブのような体がまるで陽炎のように揺らいでいた。
 戦闘の兵士は訝しげな眼でそれを見る。


 違和感は一つや二つではなかった。
 まず、あれは確実に味方ではない。ということは自分たちの動きがばれていたということになる、それはあり得てはいけないことだった。次に彼女の周りに他の翼の少女や絶望少女の姿が見えないことだった。
 つまり、彼女はたった一人で自分達一個師団を相手しようとしていることになる。
 たとえ強力な魔法少女や絶望少女であってもさすがに八千人を相手にできるはずがない。
 それに先に敵を見つけたのはこちら側だ。



 兵士はヘルメットについている無線を起動すると、後ろの方にいる上官に連絡を取る。


 『なんだ、何か見つけたか?』
 「はい、敵を一人見つけたのですが………」
 『他の奴らも気が付いているのか?』


 そう尋ねられて初めて兵士は首を回すと周囲にいる仲間の様子を見る。
 すると数人が彼女のことを指さしている様子が見えた。


 「ほかのも気づいている様子です」
 『よし、なら射殺しろ、許可を出す』
 「分かりました!!」


 その後で上官は無線を前線にいる兵士たちに一斉に通信すると、射撃命令を下す。
 すると数十人いる兵士が一斉に彼女に向けてレーザー銃を構えた。その場にいる一番偉い男が、サッと手を上げると射撃命令を下す。
 その瞬間に引き金を引く。
 ヒュッという音がして、高熱の弾丸が宙を切る。
 何十本ものレーザーが全て彼女に命中する。腐っても兵隊なのか、見事なまでの照準だった。

 トスットスッという軽い音が何度もして、彼女の体が貫かれていく。体にいくつも穴が開き、翻弄される。ドンドン体がのけぞっていくがどれだけ攻撃を受けても倒れ込もうとしなかった。
 必死で堪えている。
 もしくはダメージを与えることができていないのか


 兵士たちの顔がどんどん曇っていく、何度も何度も引き金を引いてレーザーを放っていくが、それだけ攻撃が命中しても彼女は倒れようとしない。それだけではない、攻撃を食らえば喰らうほどそれに慣れていくのか普通に歩き始める。のけぞることもない、全く持って意に介してないようだった。
 兵士たちは焦り始める。
 こんな敵に、今まであったことが無かったからだ。


 「上官!! 敵が死にません!!」
 『なんだと!! 攻撃が当たっているのか?』
 「当たってます!!」
 『誰だ……ヘルメットのカメラで映像を撮ってこちらに送ってくれ』
 「分かりました!!」



 いわれた通りにカメラを起動して写真を撮る。
 上官はそのデータをタブレットで受け取り、そこにある敵のデータと照らし合わせて確認してみる。警察の顔認証システムを応用したもので、結果が出るまでほとんど時間がかからなかった。
 上官はそれを見て顔を真っ青にする。


 『これは……』


 無線がつながっていることを忘れていた。
 兵士は上官のつぶやきを聞き取り、嫌な予感を感じ取る。


 「どうしたんですか?」
 『いいか!! 今すぐ逃げろ!!』
 「え?」

 その会話が最後になった。


 彼女はゆっくりと腕を上げると、こすり合わせている右手の親指と中指をシュッ動かし、パチンッという甲高い音をたてて指を鳴らした。
 その瞬間
 師団の中心部が消える。
 文字通りだった。
 ガオンという音が響いたかと思うと、数十mにわたって列をなしていた人間がゴッソリと姿を消したのだ。その途中には戦車も含まれていたのだが、それも綺麗になくなっていた。地面も少し抉れていた。
 八千にもいたのに、半数以上が消えた。
 トンネルの穴が空中に空いたように空間が削除されたのだ。
 あっという間に国連軍は混乱の渦に叩きこまれる。
 半分だけ消えていしまった兵隊や、戦車、血液やオイルが噴き出していく。いきなりのことと、最高司令官がいた場所が削除されてしまっため、指揮系統が完全い崩れ去ってしまった。何十人かの兵隊がレーザー銃を捨てて逃げようとする。
 その様子を見て彼女はより一層真っ赤な三日月を大きくさせていく。

 彼女こそ、原初の魔法少女と化したアリスだった。

 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! ハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!』


 久しぶりの大虐殺
 アリスは全身全霊で楽しんでいた。
 基本的に単身で全世界を駆け巡り、翼の少女用の魔力コアを生成したり絶望少女生み出したりとしているアリス。そのため、最近は戦場に出ることが無かったので、色々と欲求不満だったのだ。
 しかし、空間削除では自分でやった感が薄れる。
 彼女は二本の剣を袖から取り出すと、両手でしっかりと握りこむ。
 そして音もなく宙を切ると、軍隊に向かって行く。それを受けて、再びレーザーとヘリからの機関銃の銃弾が襲い掛かってくる。体をピクリとも動かさず、かわすことなくアリスは突っ込む。
 誰一人として彼女を止めることができない。
 結局

 一個師団八千人が全滅するまで三十分もかからなかった。
 血塗られた勝利を得た彼女は、死屍累々の中で表情を変えることなく。ゆっくりと首を回す。
 その視線の先にはマリア達が戦ってたアリーナがある。
 アリスは無言のまま宙を切るとそちらに向かって行った。

sage