フレイヤ その②



 フレイヤは原初の魔法少女と相対する。
 どういう訳かアリスは攻撃を仕掛けてこない。フレイヤはとりあえず先制攻撃を仕掛けるよりは様子を見た方が得策だと思ったので、いつでも攻撃を仕掛けられるようにしつつも、一度両腕の銃を下ろす。
 それを見て笑顔のまま首を傾げる。
 原初の魔法少女は、もうすでに人間の物とは違う眼球を持っている。そのため、フレイヤの姿は人間の形として映っておらず、魔力の塊にしか見えなかった。大量の魔力の壁が目の前に張り巡らされている。
 それは一魔法少女の姿としては異様なものだったが、アリスからすると大したことなかった。
 そんなアリスの胸中はいざ知らず、フレイヤはにっこりと笑うと呟いた。


 「本当に久しぶりね」
 『ハハハハハハハハハハハハ!!! だから何!? ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
 「あなたがここにいるということは、国連軍は全滅したのね」
 『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 何を言っているのか分からない!!! ハハハハハハハハハハハハ!! 私はただ殺すだけ!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』


 そう叫びながら身をよじらせて歓喜の踊りを見せる。
 非常に不気味な姿に不快感を覚えたが、それだけだ。それ以上何かできるわけでもない、ただじっと彼女の姿を見守るだけだった。アリスは人に見られていることに関して何も感じていないのか、おかしな動きを続けている。
 だが、それも長く続かない。
 突如、アリスは動きを止めるとダランと両腕を下げて空を見る。


 『私は何!? 私は誰!? 私は何でここにいるの!? 私はどうして死ねないの!! 死にたいのに!! 死にたいのに!!! 死ね!! 死ね!! 死ね!!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!! 馬鹿みたいっ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
 「本当、無様」
 『これは復讐だ。私をこんなのにした、世界に対する』
 「なら、私のこれも復讐よ」


 毅然とした態度でそう言い放つ。
 するとアリスは何かが気に触ったようで、今度はヒステリックに声を上げた。
 しかしそれは、言葉になってなかった。



 『―――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!』
 「もう、終わりね」





 その言葉を最後に、フレイヤは再び両腕を上げると引き金を引く。
 それと同時に周囲にあった銃火器も一斉に火を噴く。全身を揺るがすほどの銃声が鳴り響き、数えきれないほどの銃弾が全てまっすぐアリスに向かって飛んで行く。フレイヤからすると慣れた光景だが、なかなか圧巻だった。
 アリスはそれを見ると、対抗するべく大量のナイフを顕現した。
 銃弾と同じ数だけのナイフがアリスの背中からどこからともなく出現し、飛んで行くと銃弾と正面衝突していく。


 すると命中するたびに、バキンッという儚い音をたてていく。
 銃弾とナイフ、そして魔力の欠片が周囲に舞い散っていく。世にも奇妙な雨あられだった。その中を、フレイヤは銃を連射し続ける。じっと前を見て、アリスのことを睨む。毅然とした格好で姿勢を少しも崩すことなく銃を構え続ける。しかし、その体には少しずつ異変が起きていた。
 髪の毛の先から、足の指からゆっくりと体が粒子と化して消えているのだ。
 魔力が限界を迎え、粒子化を起こしているのだ。
 アリスはそれに気が付いているのか、轟音の中でも届くように脳内に直接語り掛けてくる。


 『ハハハハハハハハハハハハ!!! あなたは死ぬ!!! 死ぬ!!! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! 死ね!! 死ねっ死ねぇっ!!!!』


 そう言ってより一層攻勢を強めるフレイヤ。さっきまでとは一転変わりフレイヤが自分を殺されないように必死に銃を撃つこととなった。アリスは両手に剣を握ったまままっすぐフレイヤに向かって行く。
 彼女を見ながら物思いに耽るフレイヤ
 今の姿からはあのとき屋上に見たアリスとはこれっぽちも似ていなかった。しかし、何となく雰囲気だけは似ているなと思った。数多の銃とナイフに囲まれて、まるで女帝のように悠々と向かって来る。
 だが、誰がどう見ても悲し気な少女のようにしか見えなかった。


 どうしてなのだろうか


 見当がつかない。


 だが、フレイヤはそう確信していた。彼女はどこまでいっても一人ぼっちで、不幸なのだろう。


 「哀れね」


 その声は銃声等にかき消され、誰の耳にも入らなかった。




 フレイヤは笑みを浮かべたまま自分の死期が近づいていること気づいていた。服に隠れているだけで、既に体の四割は粒子化して消えてしまっている。というか麗装も端が少しずつ減っていっている。
 もう魔力は尽きていると言っても過言ではなかった。
 それなのに、フレイヤは攻撃の手を止めなかった。銃の数を減らすわけにはいかない、今、攻撃を続けているからこそアリスは自分に釘付けになっている。もし少しでも隙を見せたら彼女はマリア達の方に向かってしまう。
 それこそ最悪の事態だった。
 ここが自分の死に場所だ。


 死ぬのは怖くない。
 レイや家族のもとに行けるのだと思えば逆に喜ばしいものだ。



 「あとは、頼んだわよ」


 小さくそう呟く。
 アリスはフレイヤの体が限界を迎えていることに気づき、焦るといきなり速度上げて向かって来る。自分の手で切り刻んでこそ初めて人を殺したと実感できる、アリスにとってその感覚は至高の物だった。
 少しも妥協するわけにはいかない。
 アリスは剣を振りかざし、すぐにでも攻撃を仕掛けられるようにしている。多少の銃弾は喰らい、突き進み続ける。


 『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 「さよなら」


 その言葉を最後に、フレイヤの魔力は完全に切れた。
 ボロッという静かな音がたち、ピシッと顔に亀裂が入り、綻びていく。足元から粒子と化した肉体が消えていく、それに合わせて麗装もなくなっていく。しかし最後の最後まで両手はしっかりと銃を握っていた。
 首から上もゆっくりとボロボロとなる。皮膚が消え、頭蓋骨がゆっくりと削れて行って、中に詰まっていた脳味噌もなくなる。そこまで行くのに五分もかからなかった。
 もう残っているのは両腕の手首から先だけだった。


 『ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』


 アリスがフレイヤの目の前まで来た時
 バンッという音をたてて最後まで残ったフレイヤの両腕がはじけ飛んだ。
 それと同時に火を噴いていた銃火器が一斉に動きを止めると、重力に引かれて地面に転がっていく。ガタガタガタガタという激しい音が騒がしく響く。アリスは既にナイフの攻撃を止めていた。
 ゴミのように銃が横一線に転がっている。
 その中央にサブマシンガンが二丁、他の銃の下に敷かれることなく置かれている。






 さっきまでそこに世界最強の魔法少女がいたなんて嘘のように何も残っていなかった。
 アリスはさっきまでフレイヤがいた場所に立ち尽くし、ジッと地面を見つめている。


 『…………』


 つまらない
 ふざけている
 あっけなさすぎる


 『つまらない』


 アリスは逃げていった奴らを追いかけていく気になれなかった。
 その場で石像のように固まっていたアリスだが、突然まるでロケットのように直立した姿勢のまま飛び上がると、そのまま空に漂う雲の谷間に消えていった。



 アリーナにはもう何もない。
 終わった。



 戦いが終わった。
sage