死後 その②



 「何するかな……」
 「え? 決めてないの?」
 「マリアは何がいい?」
 「何も分からないから、別に何でもいいよ」
 「じゃ、これで」


 そう言ってユウキは近くにあった本屋を指さす。
 マリアはそれに惹かれる。あまり自分には合わない本しか読んだことが無いが、読書は性に合っているような気がしていた。ただひたすら文字の世界に没頭する。それはなかなか楽しい経験だった。
 ユウキを先頭に、二人並んではいる。
 すると新しい紙の匂いと、数えきれないほどの量の本が詰まった棚が並んでいた。
 それを見て目をキラキラとさせる。様子がガラリと変わったことに気が付き、ユウキは苦笑する。


 「え!! え!! これ全部本!?」
 「そうだぞ」
 「見てきてもいい!!」
 「好きにしろ、ただしあまりはしゃぐなよ」
 「分かった!!」


 マリアはそう言って真っ直ぐ向かって行く。
 特に本の種類など分からないが、適当に見て回ることにしたのだ。ユウキは入り口付近にある雑誌を適当に手に取ると、手の中で弄ぶ。特に読書が好きという訳ではないので、あまりやることが無いのだ。
 正直本屋はあまり好きではないが、マリアが楽しそうなのでそれで良しとする。
 フレイヤが死んですぐ、こんな場所へ連れ出したのは元気づけるためだ。
 何とかうまくいきそうだった。
 一方のマリアはクライシスとコソコソと話しながら、本を選んでいた。


 「何が読みたいんだい? マリア」
 「とりあえず読みやすいのかな……クライシスはなんかおすすめない?」
 「ボクはよく分からないけど、ミステリーとかどう?」
 「それって読みやすい?」
 「お世辞にも読みやすくはないかな」
 「話聞いてた?」
 「聞いてない」
 「ふざけないでよ」
 「ごめんごめん」


 二人の仲はなかなか良好だった。




 「よし、魔力の充填が終わったぞ」
 「ありがとウ、達也」
 「気にするな。そうじゃなきゃお前は戦えないからな」
 「そういう問題じゃなイ」
 「じゃあこれからちょっと手伝ってくれるか?」
 「いいヨ」


 そう言ってデルタは達也にピッタリとくっつく。
 すると冷たい鉄の感覚が白衣越しに伝わってくる、デルタは脳とコアを除いた全ての部分が機械でできているサイボーグだ。しかも、その脳も優希の物をベースに培養されたものである。
 心があり、自我があるがどうしてもロボットという印象が抜けない。
 しかし当の彼女は達也になついている。
 何となく複雑な気分になる。
 だが、とりあえずは忘れることにする。達也は真っ直ぐ充填室からエレベーターに向かって行く。所長室に戻り、戦況の確認や世界中の魔法少女に命令を下さなければいけない。戦況は芳しくないのだ。
 いろいろとやらなければならないことはあるのだが、達也の思考はあることでいっぱいだった。


 昨日解読したA文書と∀文書
 それに違和感を覚えたのだ。あるページに差し掛かったところで、達也は詰まってしまった。解読できる限界を迎え、中途半端にしか読みとれなかったのだ。そのため自分なりの解釈を加えてみたのだがどうにも納得がいかない。
 一晩たった今でも、そのことについて悶々と考え込んでいるのだ。


 誰かに相談したいが、そういう訳にはいかない。
 マリアやユウキは論外だし、唯一できたと言えばフレイヤだが彼女は死んだ。
 達也は珍しく、誰でもいいから話をしたい気分だった。
 半分やけくそのまま、デルタに話しかける達也


 「デルタ、聞き流してくれ」
 「何? 達也」
 「仮に人類が人類じゃないとしたらどう思う?」
 「エ?」
 「俺たちが人類ではなく、もっと別の生命体だとしたら、どう思う?」
 「どういう意味かしラ」
 「いやなんでもない……何でもないんだ」


 クライシス

 スパラグモス

 そして


 オモパギア



 達也はふと思った。
 小岩井所長が発狂したのは、この事実を知ったからではないか
 あくまで仮定だが、あり得ない話ではないように思えた。



 二人は所長室で考え込んでいた。
 アメリカの情勢が思わしくない。主要な軍事基地周辺を除き、ほとんどの地域が魔法少女により侵略されてしまっている。もうそろそろ放棄するしかないようだった。幸いなことに核兵器はまだ奪われていない、原子力発電所は占拠される前に核物質を急遽廃棄したので問題はない。
 だが核ミサイルとなるとそうはいかない。
 アメリカの軍部はいまだに渋っている。
 このままでは間に合わない。
 この一か月が肝である。


 「早めにアリスかアリヤを殺さないとな」
 「そうネ。でも、アリスが近くで発見されたじゃなイ。これは幸運じゃなくテ?」
 「そうだな、しばらく彼女は国内にいるだろうな」
 「今がチャンス?」
 「そうだ」


 この後、当面の方針などを決めた後で書類の整理などをして時間は過ぎていった。
 そんな中、一時間程立ったところで、デルタはあることを思い出した。


 「ア」
 「なんだ?」
 「この間の戦闘の時、おかしな魔法少女を発見したノ」
 「何?」
 「戦闘に加わらズ、いつの間にか消えていたノ」
 「それは不思議だな」
 「デ、私もそいつを見たかラ」
 「よし分かった、確認してみよう」


 そう言って達也は机から黒いコードを一本持ってくると、次にデルタの顔の側面に手を伸ばす。そして立体映像の裏に隠されている鉄の装甲の手に触れる。すると、人間でいうところの耳の上あたりがパカッと開く。
 そこにコードを差し込む。
 すると、デルタの記憶領域から録画したその日の映像がパソコンに送り込まれる。
 達也はすぐに椅子に座ると、即座に解析を始める。デルタはデルタで自分でデータを整理すると達也が見やすいようにする。彼女が言っていた時間帯、魔法少女と思し着姿を発見する。
 結局、終わるまで五分もかからなかった。
 達也は出てきた画像を見て、嫌な笑みを浮かべると、言った。


 「さすがはフレイヤだ。最高の遺産じゃないか」
 「エ?」
 「見ろ、これだ」


 そこには
 この情勢を一変できるかもしれない物が映っていた。



sage