私が変身する光景を目の当たりにして隙が生じ、5人ほどの団員を退けることができた。しかし、残った団員はすぐに態勢を立て直して襲い掛かってくる。何かの見間違いかと捉えられているのかもしれないが、その切り替えの早さは大したものである。
 一方で再び腑抜けてしまった諸星の腕を引き、階段を駆け上がる。
 踊り場に出た所で一旦指輪を外し、宮田茜でもない、自分自身の姿を見せる。
「これが、本当の私なんです」
「は、はあ?」
 完全に理解が追い付かない様子だ。
「信じ難いと思うけど、私は変身する能力を持っていて、それで貴方を騙していたんです」
「不可解な事を続けて言われてもね、君がおかしな奴にしか見えないよ」
「そうは言っても、先程見せたとおりですよ。こんな感じで」
 指輪を嵌める。
「うう」
 諸星はまた、ふらつく。
 そして階段から追ってきた教団員を階下へ蹴り飛ばす。
 一息つき、再び指輪を外す。
 その時、視界の隅に影が過ぎった。慌てて視線を移すと、パイプのような棒を構えた団員が飛びかかって来ていた。
 まずい。
 完全に油断していたため、変身が間に合わない。腕を交差して、防御する。
 しかし、団員の攻撃が届くより先に私は姿勢を大きく崩した。諸星が私をかばうように飛び込んできたのだ。そして、鈍い音がした。
「うう」諸星は再び呻いた。
 私はすぐに立ち上がり、男が棒をふり抜き体勢を崩した隙に、蹴りを入れて階段から突き落とす。
 そしてうずくまる諸星の元へ駆け寄る。
「なんでこんなこと。私は宮田茜ではないし、貴方を騙していたのよ」
「それは君の正体が美人だったからさ。ムサイ男だったら、こんな事しない。騙していたというのはよく分からないけど」
「なにそれ」
 彼らしい、おかしな発言である。
「そんなことより、今はこの状況を乗り切らないといけない。教会に腰掛けている信者達まで襲い掛かってくるかもしれないからね」
 それはそうかもしれない。
「さっき話していた変身する能力について、もう少し教えてもらっていいかな。閃いたことがあるんだよ」

 ・

 打ち合わせを終え、新手が来る前にさっさと下へ降りる。
 先程、教祖が立っていた場所へ着く。
 一人の信者がこちらに気づき、野次を飛ばすと、波紋が広がるように怒号へ変わる。
 しかし、罵声ばかりで動きがない。攻撃の手が止んだのは、戦闘要員の教団員がほぼ全滅してしまったということだろう。
 ならば、都合が良い。
「静かに」
 諸星が叫ぶと、信者たちの罵声が止まる。
「あらかじめ言っておく。君達が崇めている教祖を貶めるつもりはない。ただ、貴方達の土地に迷い込んでしまっただけなんだ。そして、ここで一つ言っておくと奇跡の力を持つのはこちらも同じなんだ。だから、どうかこちらも同じ神の遣いだと思い、見逃してほしい」

 ふざけるな、証拠をみせろといった罵声が飛ぶ。
「すごいな、国会中継みたいだ」
「冗談を言っている場合じゃないでしょ」
 そう言って私は変身してみせる。
 そして、信者たちはふたたび沈黙する。更に続けて傭兵以外の指輪を用意し、次々と変身していく。
 沈黙は続く。私達の存在を肯定している事の現れかもしれない。
 とにかく今は、そう捉えて、教祖が入っていった奥の部屋へ向かう。
 控え室と表現するのがしっくりする、長机とパイプ椅子の並べられたシンプルな部屋に教祖は腰を据えていた。
「お前達はなんのつもりなんだ」教祖は分かり易く、不機嫌な様子を見せる。
「先日、私達が回収した金の持ち主か?もしそうなら持っていってくれ。それともなんだ?私の正体でも暴こうと近づいたのか?」
「いや、金を返してもらえればそれで良い。貴方が何か不正をしているのかなんて興味ない」
 諸星が答えた。
 彼は没収された私物とキャスター付きのトランクを受け取り、さっさと部屋を出て行き、私もその後をついていく。か細い諸星の背中がなんとなく頼もしくみえる。
 1階へ降りると、信者が数人集団を作っていたため、「出口を教えてほしい」と尋ねる。
 信者は我々が敵なのか否か。どう関わるべきか、整理がつかないままなのだろう。少し押し黙って「そこの扉の先です」と答えた。
 再び歩き出す。
「待ってください」
 私達は揃って振り返る。
「みんなで話をしたんですが。貴方の力こそ、本物なのではないかと思って」
 なんだそれは、私と諸星は顔を見合わせる。彼は、「任せて」と言った。
「私達はいわゆる宗教団体という組織は形成していない。だが、信仰は自由だ。貴方達が助けを欲するのなら、助けの手を差し伸べるし、私が助けを欲する時は助けてほしい。そんな助け合いの関係なら、作ってもいい」
 なんだそれは。信者達も首を傾げている。