テナントが並ぶ屋外の廊下を進んでいく。
「おい、確認していいか」
 後ろの三人の気に触れない様、小さな声で話す。
「なに」
「服を着用した事がある人に変身することが出来るって言ったよな」
「うん」
「もし、一度でも服を着ていれば、誰にでも変身できるのか?」
「少し違う。その服を着て、服に対して何らかの想いがある人にしか変身できない。例えば、店に並んでいる服で、試着程度しかされていない服ならば、私が着ても、誰かに変身することは出来ない」
「そうか」
 頓狂な話だが、少しずつ順応している自分がいた。
「ちなみに、貴方が貸してくれているこのコート。貴方以外に、もう一人、別の女性に変身できるみたい」
 女性、あいつの顔が浮かぶ。だが今は考えている場合じゃない。
「他に、変身できない場合とかは無いのか?」
「基本的には、対象の現在の姿に変身するから。生きている人にしか変身することは出来ない」
「そうか」
 ならば、問題ない。
「おいおい。さっきから、何こそこそ話してるんだよ」
「いいだろ、おしゃべりくらい。それよりほら、着いたぞ」
 俺は目標の店舗の前で言った。
「なんだよここ、中古屋じゃないかよ」
「この店は古今東西あらゆる物が揃っている。高価な物だって多い。とにかく、この複合施設では一番儲けになるぞ。もしかして、金庫とか、ATMの鍵を当直の俺が持ってると思ったのか」
「それもそうか」
 マスターキーで施錠を解き、店舗正面の自動ドアを開ける。
「ねえねえ、古着あるかな。ノースフェイスのマウンテンパーカー」
 はしゃぐ山ガールを無視して、ケンイチとユウスケは店内へ踏み込む。
 二人は薄暗い店内をスマホのライトで照らし、商品を物色している。
「おー、ホントに良い値がついてる物あるじゃん」
「来てみるもんだな」
「おいおい、あんまり不用意に触るなよ」
「あ?なんだよ今更」
「いいものがあるからついてこい」
 物が敷き詰められ狭い店内を懐中電灯で照らし店内を進む。
「そういえば、名前を聞いてなかったな」女子高生に尋ねる。
「分からないの」
「そうか」
 そして目的のショーケースに辿り着き、鍵を開け商品を取り出す。
「すげえ、このボロいジャケットが何でこんなに高いんだよ」
 ケンイチが興奮し声を上げる。
 彼を無視して名前も知らない女子高生にジャケットを渡す。
 彼女は頷き、それを羽織った。
「あ?何やってんだよ」
「この人だね」
 彼女の脳内にどのようなビジョンが浮かび、思考を巡らせどのようにして判断に至ったのか知る由もないが、すぐに理解したようだ。
 ミシミシと音を立て、膨張する肉体。よく見ると、服装もゆっくりと変化していく。
 あっという間に、変身を終え、現した姿は190㎝に迫る体躯。最強の愛国戦士、ミルコクロコップだった。
 以前、K1の試合へ出場する為、来日した時に置いて行った本人愛用のジャケットが回り回って、この店へ置いてあるらしい。
 そして、事態は一気に激変する。
「な、な」と声にならぬ声を漏らし、一目散に走って逃げるケンイチ。
一方、膝から崩れ落ち、呆然とするアキコ。
 ただ立ち尽くしているユウスケは少しずつ後ずさりを始める。
 酷い有様だが、無理もない。
「言い忘れてたけど、変身するだけで、記憶とか経験とかは全く得られないの」
「大丈夫だ。ただ、拳を振るうだけ、当てる必要はない。勿論、男の方にな」
「うん」
 最早、勝負はあった。だが、もう少し、痛い目に遭わせたやるべきだと思う。
 ミルコクロコップの姿をした女子高生は「おらあ」と気合を入れて、拳を振るった、まっすぐ伸びていく拳は、ユウスケの丸い顔の直前で止まった。
 するとユウスケは「あ、あ」と呻き声をあげた後、「札幌、仙台、新潟、さいたま、千葉、川崎、横浜」と政令指定都市の名前を列挙し始めた。
 ごく普通の女子高生が突如ミルコクロコップに変化し、更に殴りかかってくるという恐怖と混乱が彼を変えたのだろう。
 そして彼は政令指定都市を唱えたままゆっくりと去っていった。