屋根から伸びる細長い煙突、煤けた灰色の壁。煙突の先からはモクモクと白い煙が立ち上っていく。その景観をじっと眺める女子高生は妙に愛らしく、丸い頬をつまんでしまいたくなった。
「あいつ、甲斐性無しに見せて意外とやるよね。格好つけてるのかもしれないけど」
「あいつ?」
「豊だよ」
「ああ」
「貧乏なようで、身なりはきちんとしてるしね。あのコートとか、相当値が張ると思うけど」
「コート…」
 絡みづらい。
 しかし、銭湯というのは元日から営業しているのか。元日に平気で休んでいる百貨店は見習うべきだ。そんなだから斜陽業界だと罵られるのだ。
 それにしても、銭湯というのは初めてだ。入ってすぐに、番台と呼ぶのだろうか、受付の窓口があり、二人分の支払いを済ませ女性浴場への暖簾をくぐった。
 先客は無く、もしかすると元旦の一番風呂かもしれない。よく分からないが景気が良い気がして、気分が良くなり女子高生に声をかけようとしたのだが、彼女は隣にいなかった。
「あれ、どうしたの?」
 女子高生は少し後方で立ち止まり、壁に貼られたポスターを眺めている。
「この人」
「ああ、源 美咲だね」
「みなもと?」
「日本に唯一残る貴族の娘だよ」
「貴族」
「そう。正確に言うと本国唯一の華族、その娘かな。貴族の括りなら、天皇陛下の皇族もあるし」
「ふうん」
「その一族の何代目かの娘で、三人姉妹の長女だったかな?華族なんていう大層なネーミングがあるのに去年まではモデルの活動をしていて、目立ちたがりなのかもね。本人も雇う側もいろいろ問題がありそうだけど、よく活動できたと思うよ。突然活動を辞めて、理由の憶測が週刊誌で色々取り上げられたけど、結局、真相は分からずじまいだったんだよね」
「へえ」
「華族の陰口を言うと、華族の関係者に連れていかれるって、子供の頃言われてたなあ。まあ、こんな話興味ないよね。早く行こうか」
 冷えた体をさっさと温めてしまいたい。女子高生を催促して脱衣スペースへ移動する。
 パタゴニアのフリースを脱いだ時、お兄ちゃんの事を思い出して、また少し涙が出た。こうして、すぐに立ち直ることが出来ているのは、何となく分かっていたことであるからだろうけど、やっぱり悲しい。
 情けない所を見られてはいないかと、視線を移すと、あっという間に一糸纏わぬ姿に変わったが女子高生が立っていた。
「良い脱ぎっぷりだね」
「そうかな」
「しかし、分かってはいたけど貧体だね」
 意地悪く言って、わざとらしく胸を張る。
「だけど」私はそう言って、頭から爪先まで満遍なく眺める。変態か。
「スタイルは良いのね、めちゃくちゃ肌白いし」
 女子高生の小さな愛嬌顔を見て、ふたたび頬をつまみたくなる。いや、もうつまんでいた。
「痛いけど」
「ごめん」
 私もさっさと服を脱いだ。