その名は巡視隊/青い服の甲国兵 1

新大陸ミシュガルドが発見されて3年。
大交易所を中心に、ミシュガルドには数多くの中、小規模の開拓村が有志達の手で創られていた。
ロントフもまた、そんな開拓村の一つである。
スーパーハローワークが創り出したこの村では、今日も100人程の村人達が土地を耕し、森を切り開き、物を作って、村の発展に尽くしていた。
SHW出身者の人間の他にアルフヘイムの亜人もちらほらといるこの村の村人達は皆真面目で、創立時から大きな揉め事は何一つ起こっていない。
更に周辺に強力なモンスターは生息しておらず、周辺の村々との関係も良好だ。
そんな平和な村で、ハーゴ・ナインファイブがその話を耳にしたのは、彼が昼休憩をとっていた時の事である。

「甲皇国の兵士…?この辺をうろついてるんですか?」
「そう、ここ来る途中に見たのよ」

林業をしている者達の為に森にお菓子を売りに来た少女、アサモが口にした言葉を、ハーゴは繰り返した。
周囲で聞いていた他の木こり達もそれを聞き、ざわつきはじめる。

「なんでぇ、物騒な話だなぁ」
「おいおい、この村に来るんじゃねえだろうなまさかよぉ」

弁当を食べ終え、糖分補給にクッキーやらチョコレートやらを食べながら不安を語る屈強な木こり達。
甲皇国とは、骨統一国家の通称で、そこの兵士達は国の正規軍でありながら、略奪や凌辱、殺人を平然と行う、ほとんど盗賊やギャングの類の様な連中である。
流石に村を堂々と襲撃する様な真似はしないまでも、何をしでかすかわかったものではない。

「おいハーゴ、おめぇそんな連中来たら得意の鉄砲でやっつけちまってくれよ」
「はひっ!?」

年配の木こりの言葉に、気弱なハーゴはびくっとしてクッキーを穴違いし、むせ始める。
その様子に、木こり達とアサモはダメだこりゃと苦笑いを浮かべた。

「ひ…人を撃つのは…」
「わーってるわーってるよ、おめぇにそんな度胸はねぇってな」
「その位臆病な方が私も丁度いいと思うな」

こんな様だが、ハーゴは村ができて間もないころ、村の周りに生息していたミシュルプスの群れを一人で全滅させた事がある。
普段の彼からは想像もできない抜群の反射神経と、正確無比な射撃で襲い来るミシュルプスを一発で撃ち殺していくその様に、村人たちは驚き、戦慄したが、事が終わった瞬間腰を抜かし、帰りは膝が笑ってまともに歩けなかった彼に同時に親しみを感じていた。

やがてアサモが持ってきたお菓子を食べ終わった木こり達は腰を上げて始める。
ハーゴもお茶を一杯飲んで喉に残ったクッキーを流し込み、その後に続いた。

「ごっつおさん」
「ごちそうさま」
「ご…ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」

アサモに笑顔で見送られ、仕事へと戻っていく木こり達。
むさい男達には美少女がお菓子を持ってきてくれるだけでやる気が沸いてくるという物だ。
彼女もそれがわかっているので、こうして遠路はるばる売りに来ているのだろう、現に、結構な量があった彼女の持ってきたお菓子は完売している。

「他にも色んなとこ回ろうかな」

商売の拡大を考えながらアサモも持ってきた荷物を片付け、交易所へと戻っていこうとし、ふと、足を止めた。

「ねぇ!アレ!」

アサモの声に、森の奥へと戻っていこうとしていた木こり達が足を止め、彼女の指さす方を向き、顔をしかめる。
そこには小銃を担いだ青い服の甲皇国兵が5人、村の中へと入っていくところだった。


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真昼間に村に入ってきた数名の甲皇国兵達に村人達は怯え、皆そそくさと家へ逃げていく。
彼等は別に何をするでもなく無言で村の中を歩いているだけだが、甲皇国兵達が各地でしてきた外道の数々を鑑みれば、村人達が怯えるのは当然である。
やがて逃げる村人達に代わり、手に粗末な槍や剣を持ったロントフの自警団が現れ、甲皇国兵達を包囲した。

「甲皇国軍がこのロントフに何の用だ!」

交易所から正式に派遣された村でただ一人のSHWの正規兵で、この村の自警団の団長をしている男が槍を構え、甲皇国の兵士達を牽制する。
すると、兵士達は足を止め、全員一斉に両手を挙げ、戦意が無い事を示して見せた。

通常の甲皇国兵達ならば例え自分達が何かこちらに協力を仰ぐ立場であっても、必ず高慢な態度をとりこの様な態度をとる事はまずない。
というかここまでやるのは、ある種やりすぎな感もある。
最悪殺し合いを覚悟していた自警団員たちは拍子抜けし、思わず顔を見合わせると、改めてこの奇妙な一団を見回した。
兵士の数は全部で五名。
通常の兵士達が黒の軍服を着ているのに対し、彼等は青い軍服を着用していて、4人が甲皇国の標準的な小銃を装備する中、一人だけ、見ただけで重量を感じる真っ黒い棒と盾を装備してい巨漢がいる。
兵士達の先頭に立つその男だけ、服に「14」と赤い数字が描かれていた。

「お忙しい所失礼します、我々は骨統一国家ミシュガルド調査団所属、第一巡視隊、私は隊長のダーク・ジリノフスキーです、この村に迫っている重大な危険について警告しに来ました」

赤い14の数字をつけた巨漢、ダークが一前に出て、そう述べた。

「村長、もしくはそれに類する人物と話がしたい」

男、ダークの言葉に、自警団長は一瞬考える姿勢をとったが、すぐに手で周囲の仲間に合図をだし、一人を村の奥へと走らせる。
程なくして村の重役だろう、初老の男性が銀髪の少年を伴って、村の奥からやってきた。

「村長殿ですか?」

初老の男性にダークがそう尋ねると、男性は視線を銀髪の少年に向けた。
少年はその視線に気づき、一瞬びくっとした後、おずおずとダークの前に進み出る。

「ぼ…僕が、この村の代表をしている、ガ…ガン…バレル、です」

少年の言葉にダークは一瞬面くらった表情になったが、咳ばらいを一つすると、膝を曲げ、ガン少年の目の高さに自分の目の高さを合わせた。

「失礼、我々は甲皇国ミシュガルド調査団所属、第一巡視隊です、この村周辺に重大な危機が迫っている為、それを伝えに来ました」

相手を尊重し、膝を折る。
プライドばかりが高い甲皇国軍の兵士らしからぬその振る舞いに、周囲から軽く驚きの声が漏れた。

「あの、えーと」

礼儀正しいダークの態度に、しかしガン少年村長は狼狽えてダークから半歩から身を引いた。
それに対し、ダークは身じろぎ一つせずただじっと、銅像の様にじっとガン少年村長の返答を待っている。

「あー…その…えと…えと…」

オーガやワーウルフの様な雰囲気の男に見つめられ、ただ動じるばかりのガン少年村長。
実際にはダークはごく普通の表情をしており、一般大衆が相対しても威圧感を感じこそすれ怯える様な事はないはずであるが、臆病なガン少年村長にダークは刺激が強すぎるらしい。

「危機、ですか?」

見かねた後ろに控えていた初老の男性が代わりにダークに話しかけてきた。
ダークは体を屈めたまま、視線をその男性に向けて頷く。

「そうです、できれば我々の小隊を一つ、この村に駐屯させたい」

唐突なダークの申し出に、ギョッとする村人達。
重ねて言うが、甲皇国軍の人間は何をするかわからない連中である。

「何をおっしゃいます」
「この村に甲皇国の傘下に入れと言うのですか!?」

狼狽し、口々に抗議する村人達。
それに対しダークが何か言おうとした時、横から剣が伸びてきてダークの首筋に向けられた。
即時、ダークの後ろに控えていた兵士達が動こうとするが、それより速く、ダークが兵士達を手で制する。

「相変わらずの傲慢さだな!甲皇国は」
「やめたまえガーダーヴェルト君!」

ダークに剣を突きつける青年を、慌てて嗜める初老の男性。
しかし、ガーダーヴェルトと呼ばれた銀髪の青年は剣を構える手を緩めない。
周囲の自警団員達に緊張が走り、ガン少年村長は腰を抜かしてしまう。
ダークの後ろに控える他兵士達も動きを止めてこそいるが、いつでも飛び掛かれるようにじっと身構えていた。
それに対し、ダークは眉一つ動かさない。
舐められている、そう思ったガーターヴェルトは剣の刃を更にダークの首筋に近づけながら叫んだ。

「この村は皆で作った村だ、お前等の好き勝手にはさせないぞ!!」
「違う」

しかし、ダークはただ淡々と返答する。
更に癪に障る態度をとられ、ガーターヴェルトの剣を握る手に力がこもった。
村人達は突然の事に圧倒され、兵士達はダークの制止命令を守り、誰も二人を止めようとしない。

「何が違うんだ!」
「我々はこの村を接収に来たのではない、小隊をこの村に駐屯させるのは、この村を守る為だ」
「嘘つけ!そんな名目で兵を駐屯させて、俺達から年貢でもむしり取ろうって魂胆なんだろ!」
「違う」
「ここはSHWの人間が作った村だ!どこの世界にタダで他所の国の人間を守る軍隊がいるんだよ!」

ダークはガーダーヴェルトの言葉には答えず、すっと身を屈めた。
緊張していたガーダーヴェルトはそれに反応できず、思わず剣を引いてしまう。
その間にダークは倒れているガン少年村長に手を差し伸べた。

「立てますか?」
「ひい」

穏やかなダークの呼びかけに、しかし、ガン少年村長は思わず身を引いてしまう。
周囲はそこで初めて腰を抜かしていたガン少年村長に気づき、慌てて初老の男性が彼に手を貸し、立ち上がらせた。
結果的に手を取ってもらえなかったダークだったが、構わずに立ち上がると、再びガーターヴェルトの方を向く。

「タダで他所の国の人間を守る軍隊はここにいる、それは我々巡視隊だ」

堂々と、恥ずかしげも無く、ガーターヴェルトの目をまっすぐに見ながら、ダークはそう言った。

つづく
sage