Neetel Inside ニートノベル
表紙

無職&幼女
出会い

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 なるべく不自然に見えないように隣のベンチに座った。
 さり気なくあたりを見回し、走り回っているガキ共以外誰もいないのを確認する。

 近くで幼女を見ると、容姿に不釣り合いな大人びた雰囲気を醸し出している。
 読んでいる文庫本は控えめな装幀で、女子小学生が読む物としてはいささか不釣り合いな印象を受ける。

 やっぱり止めとくか。
 想像していたより頭が良さそうな子だ。下手な口説き文句など一瞬で看破されるだろう。
 仲良くなるどころか、会話する前に交番に駆け込まれるかもしれない。


 そんな風にあーだこーだ悩みながらベンチに座って悶々としていると、サッカーボールが転がってきて幼女の足にぶつかった。

 さっきまでギャーギャー騒いでいたガキ共が幼女の目の前に駆け寄って来て足を止める。
 一方幼女は足元のボールには目もくれず、読書姿勢のまま微動だにしない。

 ガキの一人がボールに近づいた瞬間、幼女がボールを蹴る。
 ボールは明後日の方向に飛んでいく。

 その行為を理解できずガキは一瞬キョトンとしたが、すぐに挑発だと理解し、幼女の本をはたき落として走り去っていく。
 幼女は全く表情を変えないまま本についた砂を払い、元の姿勢に戻った。


 ここまでの一部始終を見て、俺はますます撤退した方が良さそうだと感じた。
 あんな性格なら話しかけただけで噛みつかれるかもしれん。

 そう思って立ち上がろうとした瞬間、ふと横を見ると幼女がこちらを見ている。
 ガラス細工のような瞳に見つめられた俺は一瞬、蛇に睨まれた蛙状態に陥るが、
 すぐに笑顔を作る。

「こ、こんにちは……」

 いい年して震え声で初対面の幼女に話しかける自分は、端から見れば最高に気持ち悪かっただろう。
 案の定幼女は無視して視線を本に戻す。

 この時点で俺のメンタルはかなりのダメージを被ったが、ここで何もせず立ち去っては男がすたる。

「……何読んでるの?」

 今度は自然に言えたはずだ。威張ることではないが。

「……シェイクスピア」
「へえ。……えーっとあれだ、ロミオとジュリエット」
「違う」
「じゃあ何?」
「教えない」

 おやおや、どうやら拙者は嫌われてしまったようでゴザル。
 しかしなんとか会話することに成功したぞ。
 この調子でガンガンいこう。

 さて、この幼女を連れ出すためにはどういう話の流れにすればいいのだろうか。
 なんとなく友達のいなそうな子だし、一緒に遊ぼうと誘ってみるか。
 こんな所で一人読書なんて寂しいに違いない。よし、決まりだ!

「皆と遊ばないの」
「うん」
「なんで?」
「つまんないから」

 フッ、完全に予想通りの展開だ。いくぜオイ!!

「……じゃ俺と遊ぼっか」
「は?なんで?」

 知らぬ間に服に付いていた毛虫を見つけたときのような目で幼女は俺を見る。
 常人ならこの時点でキモい苦笑を浮かべながらコソコソと立ち去るだろう。
 残念ながら俺は異常だ。失うものなど何もないのだよ幼女。

「……俺も一人でつまんねーからさ」
「…………キモ」

 フハハハもうダメだ。死にたい。一刻も早くこの場を立ち去ろう。

「いや、き、君一人で本なんか読んでるから、さ、寂しいのかなーとか思って……。
ハハッ、じゃ、じゃあ俺帰るね。ごめんね邪魔して、ハハ……」

 みたいなことを早口で言った俺は、最高にキモい苦笑を浮かべながらコソコソと立ち去ろうとしていた。

 おまけに幼女の前を通り過ぎようとした瞬間、何かにつまずいて盛大にすっ転んだ。
 恥ずかしさのあまりそのまま幼女が帰るまで死んだフリでもしていようかと思ったが、振り向くと幼女の足が伸びている。

「寂しいなら遊んであげてもいいよ?」

 小悪魔的微笑を浮かべ、俺を転がした足を組み、四つん這いの俺を冷たい目で見下す幼女。

「ハハ……サンキュー」

 さすがに足をかけられたせいで幼女に怒りを覚えたが、おかげで当初の目標を思い出した。
 コイツをかっさらって身代金をがっぽり手に入れる。
 そのためにまずはコイツを連れ出さなきゃならない。

「もっと楽しいとこ行こうか」
「どこ?」
「どこいきたい?」

 少し考えた末、幼女は本を鞄にしまい立ち上がった。

「どこでもいい」
「ふーん。あ、携帯持ってる?」
「うん」
「よし、行こう」

 俺が入り口に止めている車の方へ歩きだすと、少し離れて幼女もついてくる。
 すごい。まさか本当にうまくいくとは。
 あとは適当なところまで走ってから、幼女の携帯で親に連絡を取り身代金を要求するだけだ。
 やはり俺は天才なのかもしれない。

 内心デュフデュフしながらも紳士顔を崩さない俺は幼女を車中にエスコートし、颯爽と走り出す。
 今思えばもう少し冷静になるべきだった。
 もっとも、彼女の家柄やこれから待ち受ける怒涛の日々についてなど、無職童貞の俺には知る由もなかったのだが。

       

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