Neetel Inside ニートノベル
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あけましておめでたくない!
その1

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 一月一日、新年初日。あけまして、おめでたくない。
 新年早々、僕は死にたかった。
 前年の十二月三十一日も死にたい気持ちでいっぱいだったから、その翌日の一月一日も死にたい気分になっていて当たり前といえば当たり前ではあるのだが。
 十二月三十一日の二十三時五十分から約八時間の睡眠をとった僕は、一月一日の八時ちょうどに目を覚ます。しばらく寝ぼけた後、僕はスマホの画面に目を向ける。LINEやメールをチェックする。LINEやメールをチェックすることが毎朝の習慣だった。
 一月一日だというのに、メールやLINEが誰からも来なかった。「あけおメール」「あけおめLINE」なんて慣習も世間じゃ存在しているらしいけれど、上っ面の友達しかいない僕には縁がない。
 いつも上辺だけを取り繕って、愛想笑いばかりする人間。しかも大して面白いことも言えなければ、積極性もなく、他人に自分から話しかけることもなければ、他人に自分から話を振ることもない。誰からも嫌われないように、ただただ人の顔色をうかがうだけの人間、それが僕という人間だった。


 「有山くんは、いてもいなくてもどっちでもいい人間だね」と大学で言われたことがある。言葉の主は同じゼミの大山崎さんだった気がする。地味で、彼氏がいたこともなさそうな大山崎さんは、決して人に厳しいことを言うタイプの人ではないのだが、こんな風にとても的を得た発言を時々する。それがグサりとくる。決して毒舌でもなく、普段から品行方正な大山崎さんだからこそ、発言にパンチ力が出るというものだ。だからこそ大山崎さんに言われた言葉が定期的に何度もフラッシュバックしてくるし、思い出すたび打ちのめされる。メンタルがやられる。


 パジャマを脱いで、歯を磨いて、部屋着に着替えて、家を出る。郵便受けのポストをチェックしに行くのだ。郵便受けのポストをチェックする。当然、来た年賀状の数はゼロ。送った年賀状の数は二桁なのに……。何たる回収率の悪さ。例年通りではあるが、三が日ずっと寝込んでしまいそうなくらいショックだ。


 家に帰った僕は、手を洗って、コタツにもぐりながらテレビをつけてみる。やれ謹賀新年だ、ハッピーニューイヤーだ、浮つきやがって、ふざけるな。
 ちょっと前まではクリスマスクリスマスと散々連呼してきたくせに。クリスマスイブの夜を一人で過ごす人のことを指して「クリボッチ」という言葉を流行らせやがったマスコミは、絶対に俺は許さない。クリボッチで、何が悪いというのだ。恋人だって友達だっていないけれど、でも、クリスマスを楽しむ
権利は、クリボッチであろうが平等に与えられているはずだ。だからクリボッチの僕は、クリスマスイブの日はケンタッキーフライドチキンが9ピース入ったバレルを注文して、ビール片手にそれを頬張ったのだ。
 だから正直、クリボッチであったけれどクリスマスは満喫できたと思う。余は満足じゃ。
 テレビをぼんやり眺めていると、昨日の紅白歌合戦の話題に少し触れられていた。どうやら、紅白歌合戦で星野源が恋ダンスを踊ったらしい。星野源の楽曲「恋」は、火曜夜十時の某ドラマの主題歌になっていた。そのドラマの作中のエンディングで、ダンスが披露されるのだ。「恋」の楽曲に合わせて、ドラマで主役を務めた星野源と、とってもかわいい新垣結衣、そして作中の登場人物を演じる演者らが異国情緒を想起させるような魅惑的なダンスを踊る。このダンスのことを「恋ダンス」という。「恋ダンス」は、ドラマの一般視聴者らにたくさん踊られた。「踊ってみた」とカテゴライズされる動画は、多数youtubeに投稿された。
 僕は別に星野源も恋ダンスも嫌いではなかったし、むしろ好きな方だったが、紅白歌合戦や大晦日で浮かれている奴が非常に嫌いだった。何が恋だ、恋ダンスだ、星野源だ、ふざけるな。こんな恋ダンスを踊るのはどうせリア充の輩で、男女で肩と肩を触れ合わせながら、互いの指と指とを絡ませながら、故意の恋ダンス! なんつって、なことをして、恋ダンスを理由にしてちちくりあってるのだろう? きっとそうだ。だから、許せないのだ。性の悦びを知る者を、許せる恋人いない歴イコール年齢の人間がどこにいるものか。


 そんなことを色々脳裏によぎらせながら僕はテレビを見ていたけれど、やっぱりテレビは楽しくなかった。だから僕はテレビを消した。
 朝ご飯は、前年の十二月三十一日の朝ご飯と同じ形式、そう、メロンパンだ。菓子パンの王道たるメロンパンを口に放り込んで、1リットルのペットボトルに入ってるお茶をコップに注いで、コップでお茶を飲む。そしてメロンパンを咀嚼する。あまりおいしくはない。しかしお腹は最低限膨れている。


 テレビもつまらない、謹賀新年で浮かれている人達を見るのも不快だ、ということになると、もはややることは一つしかない。
 そう、寝るのだ。
 部屋着のまま、僕は寝室の布団にもぐりこんだ。布団を頭から放り被った。ハリネズミになった気分になった、
 今日、明日、明後日……。三が日、本当にどうしよう。近所の伏見稲荷大社に初詣に行きたかったが、あいにく三が日の伏見稲荷大社は人が多い。外国人観光客と日本人の参拝客とで、三が日の伏見稲荷は例年地獄絵図だ。
 伏見稲荷大社での初詣も無しとなると、一体何が残るのだろうか?
 何も残らなかった。ゲームをするという選択肢があったが、ゲームをするくらいならオナニーをしていた方がマシた。もっと言えば寝ていた方がマシだ。
 だから僕は寝ることにした。新年、初二度寝である。

       

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