Neetel Inside ニートノベル
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週末の“ DEAD ”
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 いつもと同じ金曜日の朝――

 鳴り響く目覚ましを止めて、起き抜けの頭で朝食の濃口味噌汁を啜る。

 ちょっと制服にこぼしてちゃって出発予定時間をオーバーするけどこれもまた想定内。

 今日こそは言ってやる。深く息を吸い込んで俺は家のドアを開ける。

 明日からの週末休みを永遠にする。じゃないともう君に逢えないからね。


 AM8:07 好きな相手の電車乗る時刻を細かく覚えてる。

 3車両目の中列右端が始発駅から乗り込むいつもの俺の指定席。次の駅でドアが開いてボンパドールのおでこが素敵な同じ学校の制服着た女子が

「いっけな~い遅刻、遅刻」

 って大急ぎでダッシュして階段下りて曲がり角曲がったら食パンくわえたその子が電車に乗り込むその瞬間、

 小型隕石が落ちてきて人類滅亡即刻END!!!



 ――20XX年。紀元前から繁栄を続ける人類に未曾有の危機が訪れていた。

 正月休みでNASAすら見落としたマッハ200以上の超高速で一直線で地球に向かう直径100メートル越えの巨大小惑星『アポストフ』と言う名の小型隕石。

 それが明後日、つまり週明けには日本海に墜落すると神のお告げで知った俺はそれまでになんとしても自分の胸に秘めたこの想いを彼女に伝えなければいけないと思ったんです。

 休み明けのNASAスタッフが目の前の大型モニターを見上げた時には既に手遅れだった。この事態を知ったアメリカ様が出した答えはこの事実を一切公表しないことだった。

 アホ面晒して平々凡々に生きてる民間人が一段高いとこに立つ偉い人に「明後日で人類は終了でーす、バーカ」なんて、行き成り告げられたらやる事なんか知れている。

 追い詰められた捕食対象動物が取るような理性を振り切った暴力に略奪。来る日も来る日も死にたい死にたいと言い続けてきた癖にいざ週末の時が分かると我先にと見付からない出口を探して自分だけは生き残りたいと喚き散らして行進を始める。

 醜い、美しくない。見たくも想像もしたくない下々の混乱を避けるために偉い人は運命を許諾して頷きながら胸で十字を切る。

 いつもと同じように、何も変わらない週末を過ごせますように。だけどもだけど、それじゃ俺はダメなんだ。死ぬ前に何としても自分の気持ちを彼女に伝えなきゃ。事実を知った時、俺は決めた。俺は運命に反旗を翻す。


 ――ドアが閉まって電車が駅を出る。気になるあの子は同じクラスの友達と談笑。

 …少し離れた乗客挟んで斜め45度の角度にキミのストーカーがここにいるぞ。電車が地下に潜って窓が鏡に変わる。髪型、見た目なんて気にしない。どうせ俺はモテないただのストーカーなんだし。

 何気ない会話で笑う彼女の周りにはいつも誰かが傍に居る。どうしよう、話しかけるきっかけが掴めない。諦めるな。俺は自分で自分を励ましてみる。

 じゃあまず、インスタグラムで彼女がUPした写真と同じ構図の写真を撮って挙げるのをやめろ。

 ツイッター、彼女が好きそうなアイコンに設定してその子がタイムラインでその話題出したら『どうしよう、俺に天使が舞い降りた...』とかほざくのをやめろ。

 あとで冷静になって俺の事じゃねぇからぁぁぁ状態。エアリプじゃねーから。彼女のアカウント震える親指でタップしてフォローしてちゃんと言え。

「僕はあなたのストーカーです」ってね。

 上条ミドリ。俺はあなたを調べました。裏アカ作って同じガッコのJKのフリして人伝てに色々と聞いた。携帯と家の電話番号も知ってる、キモいかも知れんがついでにマイナンバーも。

 これはマジで伝えたい。胸に秘めた俺の想い。この場で伝えようと思ったけどなんだか恥ずかしいから端折るわ。それは付き合ってからでも遅くはない。人類には今日含めてあと3日、残されている。

 だからミドリちゃん、イヤでも俺と付き合え。

 次目が会った瞬間、言ってやるぜ俺。自分の言葉で。

 一緒に週末を俺と過ごそう。

 一生俺の味噌汁を作ってくれ。

 超高速で向かってくる隕石。キミのお団子頭で跳ね返そう。

 その為にはまず言わなきゃ伝えなきゃだこの想い。


 週末のデッド

       

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