Neetel Inside ニートノベル
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 キンコーンカンコーン。

 学校に着いて始業の鐘が鳴る。

「…やっぱり言えなかった」

 俺はふたつ前の席に座る彼女のお団子頭を見ながら頬杖を付く。やっぱり向こうから話し掛けてくれる、なんてファンタジーは夢の中だけの話なんだな。

「ハーレムラノベの読みすぎだろ。それは」

 俺の数少ない友人で俺がミドリちゃんを好きな事を知っている笹平が俺の机に手を付いて笑う。

 俺が笹平にその事を打ち明けたのは修学旅行の夜に「なぁオマエ、好きな女子いるん?」と聞かれたのが始まりだったのかも知れないし、クラスの男子みんなでやった暇つぶしの罰ゲームで俺が負けて好きな女の子を言う羽目になったのが始まりかもしれないし、その辺は忘れちゃったけどとにかく俺はミドリちゃんの事が好きなんや!

「いいか、自分から『今度の週末、ワタシとふたりで遊びませんかぁ~ウフフ!』なんて誘ってくる女なんてこの世には存在しない。そんな女は羽毛布団の営業か性病持ちのヤバイ奴だ。お前の気持ちが本当だったら自分からアプローチしな」

 笹平が指を立てて俺に忠告した。クソ野郎が。お前も彼女が居ない癖に偉そうに。

「…つうか誘ったとしてもどこにデートいけばいいんだよ?」

 俺が聞くとヤツは俺の口からデートというロメンティックな言葉が飛び出したのがおかしかったらしく、制服の袖で笑いをかみ殺している。

 笑うな笑うなよ殺すぞ。俺だってごく一般的な高校生らしく市内の商店街をウィンドウショッピングしたりふたりで立ち寄ったゲーセンでゾンビ撃ち殺すゲームやって「キャー怖~い」とかなって抱きつかれた腕に彼女の大きめなお山が触れちゃったりとかしたいんじゃ!

 笑いが収まった笹平が俺に向き直る。

「いいか?ほとんど面識の無い女子に声掛けて2人きりでデートにこぎつけるのは相当難易度が高い。お前が一流のナンパ師か、アミ○ーズ事務所にコネが無い限り9割9部9厘失敗してLINEグループで晒されるハメになる。
今のお前は上条にほとんど認識されてないレベルだがそれは逆に運命的な出会いに変えられるチャンスでもある。出会いに“シンプルで良い”なんてこと無い。出会いをドラマティックに、大胆に演出しろ」

 俺は笹平の言うことを頭で整理しながら机から次の授業で使う教科書を取り出した。周りではクラスメイトがワイワイと賑やかに話している。みんなあと3日で世界が終わっちまうってのにノンキなもんだ。

「運命的な出会いか…そうだ」

 名案が浮かんだ俺はまだ目の前で恋愛マスター気取りで講釈を垂れている笹平に尋ねた。

「お前の妹元気?ちょっと相談したい事あんだけど」



 ――昼休み、俺は笹平の妹を学校に呼びつけてこの偉大なる計画を実行に移すべく、校舎の裏でしゃがみ込む茶髪ギャルに今回の作戦を教え込んだ。

「……と言うことで今説明した通りにやってくれ。報酬は弾む」

 俺の話が終わると笹平の妹は退屈そうに膨らませていたバブリシャス(復刻版)をパンと顔の前で割ってマニキュアの生えた指で顔の前で輪を作って言った。

「まー、ハクト(俺の名前だ)とはガキンチョの頃からの付き合いだからねー。今回は協力したげる。お小遣いよろしくねー」

 彼女はそう言うと手の平をひらひらさせながら立ち上がって校庭を一人で歩いているミドリちゃんに近づいていった。

 今日はミドリちゃんの友達が弁当の日なので彼女が一人でメシを食うという調べがついていた。つまり今ナウ現在がミドリちゃんがひとりきりになる最大のチャンス。これも日々記録していたストーカー日記帳の賜物だった。

「おい、先輩。焼きそばパン買ってこいよ」

「いやいや拙者は満腹ですので」

「オメーの分じゃねーよアタシの分!さっさと購買部行ってこいよ」

「いや、私パンより普通にパスタ派だし。そもそも今の時代にJKが焼きパンって珍しくない?つーか面白いからラインのID交換しよ?」

 うぐっ、予想外にヤンキーギャルが圧されている。このままでは俺が懸命に考え抜いた『彼女が悪党に襲われてるところに俺が偶然通りかかって彼女を助けてそのままデートの約束しちゃうぜ計画』が『ヤンギャル、他校ではじめての友達が出来る』という別の題材の感動巨編に変わってしまう。


「おいやめろ!やめろ!嫌がってるじゃないか、その子から離れろ!」

 やや強引なタイミングで俺が物陰から飛び出して笹平妹に啖呵を切る。「なんだオマエ?やんのかコラ!」現役ヤンキーのドスの利いた返しが校庭に響き渡る。するとカラフルなイラストの描かれた一台のバンが校門の前に停車した。

「移動販売のパスタ家さんだー。ミドリ、渡り蟹のトマトクリームパスタ食べたーい」

「…どりゃ!男女平等パンチ!」

「うおうおうおーやられたー超つえー」

 棒読みで崩れ落ちる妹越しに俺は車に駆け寄っていったミドリちゃんの後姿を見つめる。

「はあはあ……大丈夫?怪我してない?」

 肩で息をする俺がかける言葉は本来言うべきだったミドリちゃんではなく笹平の妹であった。彼女はまんざらでもない表情をして「お、おう」と顔を赤らめて俺が差し出した手を握り返した。

 もうミドリはどうでも良い。

 とりあえず俺君は不良少女役の友達の妹を一生大事にしろ!


 週末のデッド

       

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