Neetel Inside ニートノベル
表紙

Goriate
名もない少女

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 今まで自分のことを見下していた世界が小さく見える。
 それは何とも愉快な気分だった。今、自分が制御しているこの巨人の足元で何百人という人間がうごめいていて、自分の決断一つでその数をゴソッと減らすことができるのだ。まるで神のように
 少女は生まれて初めての優越感に浸っていた。
 まさか自分が人間を見下せるようになるなんて
 不思議な感動もそこにあった。


 少女はもとは普通に町で暮らしていた平民だった。
 だがある日の事、父親が消えた。母親に理由を尋ねても答えは返ってこなかった。もしかすると彼女も理由を知らなかったのかもしれない。今となってはそのことすら知る術もない。
 母親は別の男のもとに消えていった。
 その男はそこそこ身分が高く、前々から母親のことを狙っていたらしい。
 意気揚々と母親は連れられて行った。
 少女は一人残された。


 絶望した。
 一度も自分の方を見ることなく、男に抱えられ笑顔で道を行く母親を見て少女はそう思った。どうして自分を捨てていくのか、尋ねたかったがすでに母親は自分の声の届かない場所に行ってしまっていた。


 その後、少女の住んでいた家は売り払われてしまい
 少女は行く場所がなくなった。
 彼女は仕方がないので大通りから裏路地へ、裏路地から下水へ、下水から貧民街へと落ちていった。
 彼女は死んだ魚の目をしていた。
 いつ死んでもよかった。みんながゴミを拾いに行っている間にも、彼女は下水に一番近いところにあるぼろ小屋でうずくまっていた。そこに住んでいた婆さんはすでに死んでおり、誰もそれを咎めなかった。
 少女は日に日にやせ衰えていった。
 餓死するのも時間の問題だった。


 そんな彼女に手を貸したのは一人の名もない少年だった。
 彼は自分がためたマナや魚を焼いたものをその少女に分け与えた。
 特に理由などなかった。かつてそこに住んでいた婆さんにお世話になった恩返しという訳でもなかった、何より婆さんは死んでいる。ただ、同じ場所で今度は自分が困っている人のために何かしてあげたかっただけなのだ。
 少女は始め、それを拒否した。
 だが少年はやめることなく何度も何度も少女のもとに通った。


 やがて少女は心開き、少年だけにだが心を開いた。
 二人はまるで兄妹のように仲が良くなった。それに合わせて少女もたまにだが、ゴミ拾いや魚集めに参加するようになっていった。わずかばかりだが、表情の変化も見えるようになっていった。
 貧民街は懐事情こそ貧しいが心まで貧しい人は少ない。
 何もしない少女のことを嫌っていた人達も心配していた人たちも、やがて少女のことを一員と認めて仲間に入れた。そこは新しい家族だった。安らげる場所ではあったが、逆に言うとそれが限界だった。
 彼女はいつも微妙な違和感を感じていた。
 それから必死に目を逸らしていたが、向き合わねばならない時が来た。


 その日、少年が消え、勇者が生まれた。
 また自分の大切な人が自らの元を離れて、王宮へと消えてしまった。


 その瞬間、彼女は違和感の正体に気が付いた。
 恨み、辛み、復讐心


 自分がこんな目にあったのは、この王国のせいだ。自分からすべてを奪い去って行ってしまう。鬼か悪魔か見紛うほどに凶悪な存在。忌み嫌い、近寄りたくなくてもそこから自分が逃れる術はない。
 あり得ないことだが
 いつか自分が復讐できるほどの力を手に入れたら
 自分は容赦せずこの王国を滅ぼすだろう。
 そう心の中で確信していた。


 そして、あり得ないことが起きた。

 ある日少女は下水の近くで釣りをしていた。
 すると、一人の男が話しかけてきた。彼は非常に不気味な姿をしていた。全身をボロボロの布で覆い、その隙間からは泥と埃で汚れた真っ黒な顔が覗いていた。非常に汚い見た目でがそこまで驚くことはない。
 貧民街ではまだましな姿だった。
 その男は見た目だけではなく体もボロボロらしい。
 大きく咳き込みながら、彼は少女に話しかけた。


 世界を滅ぼす力が欲しくないか?

 と

 なぜ自分にそんな話を持ち掛けてきたのだろうか、少女は疑問に思ったがそれ以上に男の言葉に引かれた。これは神が自分に与えたチャンスなのではないか、そう思った。否、思わざるを得なかったのだ。
 少女はコクンと頷いた。
 次の瞬間に、男は金色をした腕輪を少女の腕に押し付けてきた。
 そして、言葉を続けた。

 これが、世界を滅ぼす力を操ることができる唯一の物だ。
 この力を使って、私の代わりに復讐してくれ

 その言葉を最後に男は倒れ、二度と起き上がらなかった。
 背中が膨らんだりへこんだりしているあたり、完全に死んだわけではないようだがもう息も絶え絶えだった。放っておくと死んでしまうだろう、少女はそう思ったが何もせずそのままにしておくことにした。
 それが一番のように思えたのだ。

 次の日
 少女は何年かぶりに日の光の下に出た。

 そして腕輪をかけ、その後、腕を大きく掲げてみた。
 日光に反射してキラリと輝く。それだけではなかった。どうやら自ら発光し始めているようで、より一層明るい光を放ち始めた。まるで何かと呼応し、鼓動しているかのように。その姿は非常に美しかった。
 そして
 その数日後
 ゴリアテは少女のもとにやって来た。


       

表紙

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