Neetel Inside 文芸新都
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吉祥支天世話
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その昔、かの地にはとある伝説があった。
天女招来。

時は平安。ある土地に一人の天女が舞い降りて
人間達と共に交流をしていたという、
いわゆるありふれた、よくある一般的な、
日本郷土の各地に伝わる伝承話のひとつである。

一見して美談に思えるこのいい伝えではあるが
実はこの裏には先祖代々、この地に住まう者しか知らぬ
恐ろしい事実があった事を、観光客達は知るはずもないだろう。

なぜならばその事実を覆い隠さず全て話してしまうとすれば
この地に住まう人間達の本性が知れ渡り、
挙句地域としての名誉が傷をつき、
観光客がめっきりと減っては、
その連中が生活の日々を維持する事が出来なくなってしまうからである。




「うちも民宿やってるんです、
安くしときますよお客さん・・・。泊まっていきませんか」

人の気配を感じない閑散としたその地で、またもや宿泊の呼び込みを受けた。
今日で裕に5回目である。

「・・・ここだけの話ですがね、うちの女房が結構なべっぴんでして・・・
お客さんのコレ次第では・・・へへっ」

どうやらこの地では表面上
一般家屋で宿泊施設を経営している(2階の部屋に客を泊まらせる)
普通の民宿のように見えるのだが
その裏では【自らの女房を使う】女郎屋も兼ねたビジネスも
暗黙の了解で行われているらしく、
彼らは日中は家におり、その主である男達が客引きをしては、
家に待機したその女達が客である彼らをもてなす、
といった業務形態をとっているらしかった。

それだけで生活出来るとは到底思えないのだが
思った以上にその羽振りはよいらしく
大方それ以外の副業でなんらかの収入を得ている事は間違いであろう。

その正当性については、もはや問われる事は何もないのであるが。


「申し訳ないが・・・不倫は趣味じゃないんでね。お断りするよ」

申し出を丁重にお断りすると、その場を後に歩き進む。

しかし、何もそれらの誘いを断ったのは、上記の事だけが理由ではなかった。

(ここの皆は目が虚ろなまま、へらへらと笑っていて・・・
なにやら・・・とても不気味だ)

数年前の大震災の影響で
付近の山海に毒ガスが漏れ出るようになってからというものの
生来、自然の多い観光地として賑わっていたその土地は
もはやいくばくかの年寄りと、わずかながらのその子供夫妻と孫を残した、
過疎の田舎町と化していた。
皆毒ガスによる健康被害を恐れての事である。

大方それが要因となりこの地域の人々は
ある種精神に異常をきたしている(いわゆるPTSD状態)のだと推測するのだが。

(それにしたって、あの表情は異常だ・・・
麻薬中毒者のような、そんな笑い方をしていた)


「これは天罰よ。
かつて濡れ衣を着せられて処刑された・・・
菅原道真や早良親王の呪いのようにね」

ふいに目をやると電信柱の傍にある街灯の傍に一人の少女が現れた。

「あなた、聞きたいんでしょう?
天女伝説の真実を。
だから、こんな過疎地までやって来た」

そう、その為に【私は呼ばれたのだから】

       

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