気が付くとユウヤは草原に寝転がっていた。辺りを見渡す限り人工物の類はまるで無い。ユウヤは驚愕し、それと同時に高揚した。まさか本当に異世界に来れるなんて思ってもなかったのだから。
ユウヤ「…マジで来れたのか」
夢の可能性を考えたがこんなハッキリした夢を見る訳が無い。現実だ。
だがユウヤに1つの疑問が浮かんだ。
ユウヤ「俺を呼んでくれた女はどこだ?」
誘っておいて1人草原に放り出すという事はチュートリアルやヘルプ無しでゲームプレイしろという事なのだろうか。などと考えていても仕方ないと思いユウヤは考える事をやめた。
ユウヤ「…取り敢えず人の居る所を探すとするか」
〜〜〜〜〜〜
どれ程歩いたかな…。何時間? 何日間? それすら分からなくなるほど歩き続けたって事か? まぁともかくだ。今はそんな事よりやる事がある。
ユウヤ「め、飯だ…飯が食える…」
大食いチャレンジをしても余裕で完食出来る気すら起きている程、お腹が空いていた。飲まず食わずここまで歩いて来ていたら、それぐらいの状態になって当然だろう。
ユウヤ「飯屋…!」
ユウヤは近くにあった飯屋に猪突猛進の如く突っ込んでいき、すぐさま注文をした。
ユウヤ「おっちゃん! 何でもいいからじゃんじゃん持ってきてくれ! 」
「え…? あぁ、分かったよ」
店の店主も少し戸惑ったが了承し料理を作り始めた。
5分ほどで料理が出てきたがユウヤにはかなりの時間だった。そのせいか出てきた料理をもの凄い勢いで平らげた。それを見て店主は料理の出すスピードを上げた。
ユウヤ「おかわり!」
「は、はいよ」
ユウヤ「次!」
「はい…」
ユウヤ「もっとだ!」
「は、い…」
わんこそばだ。まるでわんこそばの流れだ。いや、この場合、逆わんこそば…だろうか?
この流れはユウヤが蓋を閉めるまで止まらないだろう。
〜〜〜〜〜〜
1時間ぐらい経っただろうか。ようやく食事が終了した。ユウヤは幸せそうな顔で座っていたが料理を作っていた店主は死にかけのボクサーみたいに椅子に腰掛けていた。
ユウヤ「ふぅ…美味かったぜ、おっちゃん」
「そ、そうかい…それは良かった…」
店主は死にそうな声でそう言った。そして次の店主の言葉を聞きユウヤは顔面蒼白になっていった。
「お代はこれね…」
持ち合わせが無かったのだ。それに伝票には1万と書いてあるが果たしてこれが円なのかドルなのか、はたまた別の通貨なのか、まずはそこから聞いてみることにした。
ユウヤ「…なぁおっちゃん、この国の通貨ってなんだっけ?」
「なんだい? 急に…」
不審な顔をしながらユウヤの方を見る店主。ユウヤは咄嗟にこう言った。
ユウヤ「俺さ、色んな国回ってるからどの国のどの通貨か、たまに分からなくなるんだよ」
「へぇ、お前さん、旅好きかい?」
ユウヤ「あぁまぁね、で? 通貨は?」
「円だよ、今払うかい?」
通貨は向こうと一緒みたいだ。金銭の計算に支障が出なくて済んだ。が、今払えるかどうかはまた別の話だ。
ユウヤ「い、いや、ちょっとゆっくりさせてくれ、流石に食いすぎて動きたくないんだ」
「そうかい、まぁゆっくりしてきな、どうせ客なんてほとんど来ないからね」
そう言った店主の顔は悲しげの中に恐怖といった感情が見えた。疑問に思ったユウヤが店主に問いかける。
ユウヤ「なんでだ? こんなに美味い料理で、店の雰囲気も悪くない…何か他に理由でもあるのか?」
「タチの悪いチンピラが居てね…そいつらがここを溜まり場として使ってるんだよ…おかげでまともな客は誰1人居なくなったよ」
「この世は完全実力世界…おじさんみたいに弱い異能しか持ってない人は強い人に従うのが運命なんだよ…」
実力世界? 異能? 訳の分からない単語が出てきた。ユウヤは店主にそれとなく尋ねてみると、どうやらこういう事らしい。
この世界には異能という能力を誰もが持っており、その異能を使って全ての争い事決め事を決闘(デュエル)で決着をつけるみたいだ。強い者が上にのし上がって行き、弱い者は喰い荒らされるエサになる、これがこの世界の仕組みらしい。
「あいつらが来なければ、うちももう少し繁盛していたと思うんだけどね…」
その時大きな音と共に入口のドアが吹っ飛んできた。入口には3人程のガラの悪い感じの男達が立っていた。