ほどなくして、リビングには5人の人間が老若男女混在で集まった。
中央の大きな皿にはあきらが切り分けたすいかが乗っていて、少女と少年が我先にと手を伸ばす。
『あじしお』と古風なフォントで書かれた塩を取り合う子ども達を見て、「塩は逃げないよぉ」なんてくすくすと笑いながら言ったりなんかして。

……本来なら、今頃イツや両親とすいかを囲んでいるはずだったのに。
何がどうして、こうなってしまったんだろう。

しかし考えて解ることならともかく、解らないことを考えてもしょうがない。
子ども達が満足して解放された塩を数度すいかに振りかけて、三角の頂に口を付ける。
しゃくり、という何とも言い難い食感で、塩によって引き立てられたみずみずしい甘さが、口の中に広がった。

「そういえば、あきら……もしかしてすいかを冷やす時、また『恋し岩』のところまで行ったのかい?」
「『こいしいわ』?」

それは小石なのか岩なのか。
不思議な語感のそれに引っ掛かりを覚えて、あきらが反応する前にわかなが勝俊に尋ねる。
勝俊は少し逡巡する様子を見せた後、こう語り始めた。

「と言っても……この辺りに伝わるお伽噺みたいなものでね。あきらがすいかを冷やしに行った川を少し上流に遡ると、大きな岩が流れを断ち切るように鎮座しているんだ」

それは、昔々のこと。
お菊と清平という二人の男女が、まだ町になる前のこの村で暮らしていた。
二人とも実家は貧しく、お菊は江戸へと奉公に出されることになってしまう。
しかし奉公とは表向きの話で、お菊は遊郭へと売られたのだ。
それを受け入れることが出来なかったお菊と清平は、川に入って心中を図った。
そして、まるで二人の主張であるかのように――巨大な岩が突然せり上がり、いつしか『恋し岩』と呼ばれるようになる。

「……子どもの前でする話じゃなかったなぁ。とにかく、『恋し岩に人恋しさを想うと、何かが起こる』……なんて話もあったりしてねぇ。まぁ、ただのお伽噺だよ。でもあのあたりは流れが早くて危ないから、皆あまり近付かないようにね」

勝俊の語った内容によって、わかなの頭の中でパズルピースが次々に嵌まっていく。

――もしかして、あきらは――。
『恋し岩』に人恋しさを願ったから、私をこの世界に呼び寄せてしまった――?

その対象が、両親に対してなのか、勝俊に対してなのか、それともわかなの知らぬ誰かなのかは分からない。
しかし少なくとも――この世界に自分が来てしまった原因は、大方あきらにあるような気がした。

そうだとしたら――私は、どうしたらいい?