そうして、仏壇に供えたもの以外のすいかを食べ終えると、あきらは自室へと引っ込んでしまった。
勝俊と二人残されてしまい、幾許かの気まずさを覚える。
元の世界の話で言えば、勝俊はもう覚えていないくらい昔に死んでしまった実の祖父だ。
しかし老人に『実は別の世界から来たもう一人のあきらで、あなたの孫なんです』なんて頓狂な話が通じるわけがない。
それに、この世界の勝俊の孫はこの世界にいるあきらなのだ。
わかなとはなんの縁もゆかりも、思い出も何も無い。
だから結局、自分の正体については黙るしかなかった。

「あ、あの……お世話になるんですし、何か私に手伝える事って無いですか?」
「ん? そんな、あきらのお友達なら気兼ねしなくていいんだよ」

そうですか。
意を決して言い出したのに、にっこり笑ってやんわり断られてしまっては強く出られない。
いやいやそう仰らずに何なりと、と言いたくとも『むしろ邪魔』と思われているのかもしれないと思えば何も出来なかった。
結局、この世界に来た明確な理由も、戻るすべも、何もかもが解らない。
いつまでこの世界に居ればいいのか、せめてそれだけでもはっきりさせたかった。
永遠に勝俊とあきらの家に入り浸るわけにもいくまい。
そうこうしていたら、廊下から誰かがやってくる足音がした。
あきらだ。

「じゃ、行ってきます」
「はいよ、気を付けて」

顔だけひょいとリビングに突っ込んで、言葉少なに交わされたやり取り。
……ちょっと待った。
こんな時間にどこに行こうと言うのだ?
玄関へと向かって行くあきらの背を追った。

「ちょ、ちょっと待って。どこ行くの? 私、勝俊さんと二人になっちゃう」
「バイト」

はぁ!? と右肩上がりの声を残したわかなを置いて、あきらは玄関の戸を開けるとそのままどこかへ行ってしまう。
茫然と立ち尽くしていると、ぶろろろろ、とエンジンの駆動音のようなものが聞こえた。
……まさかあきらは原付の免許を持っているのか?

「ごめんね、川渕さん。あきらは僕に負担をかけたくないって、どうしてもって言ってバイトをしていて……知らなかったんだね」
「あ、いえ……私こそ、急に押しかけちゃったわけですし、あきら……くんにも、事情がありますよね。すいません」

狼狽した様子のわかなが気になったのか、勝俊がリビングから出てきて謝ってきた。
……あきらはちょっと、自分について語らなさすぎではないか?
しかし、これで話題を一つ得た、とポジティブに捉えることにする。

夕飯は、貰い物の素麺が沢山あるからと、ベーコンや野菜と一緒に炒めた焼きそば風焼き素麺。
せめて準備くらい手伝わせて欲しい、と申し出たら、じゃあ一緒に作ろうか、と勝俊は快諾してくれた。

「それにしてもあきらくん……バイトなんてこの辺りで出来るところあるんですか? 原付に乗って行ったみたいですけれど」
「少し南のほうに行くと、この辺りでは一つしかない『ピースマート』っていうコンビニがあるんだ。そこの夜勤として入っているんだよ」

なるほど。
時給はどの程度のものか解らないが、夜勤ならそこそこ稼ぐことが出来そうだ。
原付を使わないと行けない距離、というのは少しばかり引っかかるが。

焼き素麺は、勝俊含めこの辺りの住民が作った野菜をふんだんに使ったためそれなりにボリュームのある一品であった。
素麺というとどうしてもただ茹でてからめんつゆに付けるだけな食べ方をイメージしてしまいがちだが、アレンジ次第でこうも化けるとは。
片付けも手伝わせて貰い、なんとか勝俊と二人きりの間を持たせると、次の問題が浮上する。

風呂だ。