「沸かしてあるから、先に入っていいよ。着替えは持ってきて……ないよね」
「すいません……」
「サイズが小さめなあきらの服を探してくるね。ちょっと待っていて」
服まで借りることになろうとは。
せめて自分が着る衣服だけでも自力で調達できれば、と思ったが、今のわかなは完全に文無し。
あきらに頼んで一緒に『ピースマート』の夜勤をやらせて貰うか? そう思っても、じゃあどうやって『ピースマート』に通うのか?
ここに住んで4年になるあきらですら原付を使って行く距離だと言うのに、原付の免許もなければ自分の自転車すらないわかなにどうやって?
……頑張れば、借りた自転車でも通えるだろうか。
そうやって悶々としていたら、勝俊が戻って来る。
その手には、見覚えのある色の『体操着』が畳まれていた。
何故畳まれていても体操着だと解ったのかは簡単だ。
――東京で通っていた中学の体操着だったから。
上着は白を基調としているが、襟ぐりや袖のラインは良く言えば臙脂、悪く言えばあずき色。
極めつけに、ハーフパンツはあずき色一色だった。
都会のくせに野暮ったいあずき色だ、なんて同級生たちと随分馬鹿にしまくった覚えがある。
他の学年だって、ドラえもんみたいな映えない水色だったり、虫みたいな緑色だったり、全員が『ダサい』と不満を口にしていた。
しかしそれに懐かしさを覚えて、涙すら出そうになる。
こんなところで、自分の知っている物に出会えたことが、なんとなく、それでいてどうしようもなく、嬉しかった。
「うーん、あんまり綺麗じゃなくてごめんね。このくらいしかなくて」
「充分すぎます! ありがとうございます……勝手に押しかけたのは私ですし……」
我儘など言っていられない。
全裸で寝る羽目になるより何万倍もマシだ。
とりあえずあきらの体操着を借りることにして、入浴することにした。
建て直したばかりなだけあって、風呂は随分と綺麗でカビ一つ見当たらない。
浴槽に手すりが付いているのは、勝俊の今後を見据えてだろうか。
しかし、またしても問題が浮上。
「まぁ、なんとなーく……予想はしてた……」
シャンプーも、洗顔料も、男性用のそれ。
トリートメントの類は見当たるわけがない。
まぁ、男所帯の田舎暮らしなら至極当然当たり前。
カミソリやらシェーブジェルなど、白や水色のものがぽこぽこと無造作に棚に置かれていた。
この調子だと化粧水や乳液なんかもあるはずがないだろう。
それについてはもう諦めるしかない。
服すらない、文無しの自分を泊めてくれるだけありがたいと思うべきなのだ。
乾燥の気になる冬場にスキンケアが出来ないのは地獄だが、今は夏だしまぁなんとかなるだろう。
そう、思いたい。
とにかく自分に言い聞かせ続ける。
何度でも。
『我儘など言っていられない』と。
望むべくしてなった状況ではないが、あきらと勝俊の厚意で野宿を免れ、ご飯まで食べられたのだ。
それでも、やっぱり。
湯船に鼻までぶくぶくと浸かって、わかなは自分のこの先について憂いを抱いた。